映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」

「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」
ユナイテッド・シネマとしまえんにて。2020年2月21日(金)午後3時10分より鑑賞(スクリーン6/D-7)

太宰治の遺作を基にしたヒット舞台の映画化、個性的なキャラと演技で見せるコメディ

ケラリーノ・サンドロヴィッチといえば、今や押しも押されもしない劇作家で演出家だが、1980年代に起きたインディーズブームの頃に大活躍したバンド「有頂天」のボーカル・ケラだった過去を知っている人はどれほどいるのだろうか。それを知っているオレも年をとったものだなぁ~……と感慨にふけってみたりするわけだ。ちなみに、ケラは今もミュージシャンとしても活動中。有頂天も健在だ。

そんなケラリーノ・サンドロヴィッチ太宰治の未完の遺作「グッド・バイ」を基にして舞台化し、第23回読売演劇大賞最優秀作品賞に輝いた作品が「グッドバイ」。そして、それを映画化したのが「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」(2019年 日本)である。

成島出監督といえば、「八日目の蝉」「ソロモンの偽証」などの原作ものを巧みな技量で演出してきただけに、今回も無条件に楽しめる喜劇に仕上げている。舞台劇の映像化だが、アップや手持ちカメラをはじめ、映像的な工夫によって映画的な魅力も生み出そうとしている。戦後の混沌とした街の風景などのセットも良くできている。

本作の冒頭では、戦争中から戦後にかけての世の中を記録映像でコンパクトに見せる。この作品は戦争の色がまだ濃い、戦後の復興期舞台にしたドラマである。

主人公は、なぜか女性にもてまくり、金もたくさん持っている文芸雑誌の編集長・田島周二(大泉洋)。何人もの愛人を抱えていたが、妻子がいることもあって、そんな生き方を改めようと愛人たちと別れる決意をする。それでも、なかなか別れを切り出せないことから、作家の漆山(松重豊)のアドバイスで、偽の妻をでっち上げて愛人たちに別れを告げる作戦を決行する。

そこで田島が目を付けたのが、闇市に出入りして商売をしていた担ぎ屋のキヌ子(小池栄子)だ。田島は偶然見かけた美しい女性にひかれて、彼女を追いかけるものの見失ってしまう。そんな中、以前からの知り合いのキヌ子にその話する。それを聞いたキヌ子は「それ私よ」。

キヌ子は金にがめつく大食いの女。外見も泥だらけでぼろい服を着ている。だから、田島は「まさか」と思うのだが、顔を洗って服を着替えると確かにあの美女。この落差が本作の大きな魅力だ。演じる小池栄子は舞台版でも同じ役を演じていたそうだが、まさにハマリ役。がさつとエレガント、その両極を巧みに演じ分けている。

そんなキヌ子を偽の妻に仕立てて、様々な女性に別れを告げる田島。その相手の女性たちもいずれも個性的。戦争未亡人(緒川たまき)、挿絵画家(橋本愛)、女医(水川あさみ)などが、それぞれのキャラを存分に発揮し、コミカルさを醸し出している。挿絵画家のシベリア帰りの兄(皆川猿時)など周辺の人々も面白い。

そんな中、青森にいたはずの田島の本当の妻・静江(木村多江)と幼い子供が突然現れる。それには、田島に様々なアドバイスを送った漆山も絡んでくる。というわけで、事態はさらに混沌としてくる。

本作の設定やストーリー展開は太宰の「グッド・バイ」にかなり忠実だが、終盤は原作とは違う世界へと突入する。その転機となるのは、ある占い師(戸田恵子が強烈な姿で登場!)のひと言。それをきっかけに事態はさらに意外な方向へと向かう。

まあ正直なところ、終盤の展開はどこかで見たような話だし、さしたる驚きはない。それでも、ドタバタ喜劇になりそうでならない境界線上を進みながら、ウエルメイドな喜劇に仕上げている。誰でも安心して楽しめる映画と言えるだろう。爆笑というよりはクスクス笑いする作品かも。もとになった舞台劇の面白さも十分に伝わってきた。

何よりも本作の最大の見どころは、先ほども述べた小池栄子の演技だろう。身勝手だがどこか憎めない男を軽妙に演じた大泉洋ともども、そのコメディアン、コメディエンヌとしての魅力を再発見することができた。

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◆「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」
(2019年 日本)(上映時間1時間46分)
監督:成島出
出演:大泉洋小池栄子水川あさみ橋本愛緒川たまき木村多江皆川猿時田中要次池谷のぶえ犬山イヌコ、水澤紳吾、戸田恵子濱田岳、清川伸彦、松重豊
丸の内ピカデリーほかにて公開中
ホームページ http://good-bye-movie.jp/