映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ジュディ 虹の彼方に」

「ジュディ 虹の彼方に」
池袋HUMAXシネマズにて。2020年3月14日(土)午後1時30分より鑑賞(シネマ6/E-7)。

レネー・ゼルウィガーの渾身の演技が胸を打つスター女優の切ない人生

自らも女優であるロザンナ・アークエット監督による「デブラ・ウィンガーを探して」(2002年)は、ハリウッド女優の苦悩を描いたドキュメンタリー。そこには彼女たちの赤裸々な本音が描かれている。特に若くしてスターになった女優のその後は、なかなかに難しいものがあることがわかる。

かつてミュージカル映画オズの魔法使」に17歳で抜擢され、一躍大スターとなったジュディ・ガーランドも、その後は苦悩に満ちた人生だった。そんな彼女を描いた伝記映画が「ジュディ 虹の彼方に」(JUDY)(2019年 イギリス)である。監督は舞台演出家として活躍し、「トゥルー・ストーリー」に続く長編映画第2作目となるルパート・グールド。

ドラマの軸になるのは、亡くなる半年前の晩年のジュディの姿だ。1968年。47歳になったジュディは、映画出演のオファーもなく、巡業ショーで生計を立てる日々だった。住む家もなく借金は膨らむばかりで、幼い子供たちと一緒に暮らすこともままならない。ホテル代を滞納して追い出され、仕方なく元夫の家に転がり込み子供たちを預ける。そんな生活を立て直すために、ジュディは起死回生をかけてロンドン公演へと旅立つ。

というわけで、心身共にボロボロのジュディの姿とあわせて、復活をかけて臨んだロンドン公演のステージの様子とその舞台裏が描かれる。同時に、その合間には子供時代のジュディの姿が描かれる。

自分を抜擢したMGMのお偉いさんに「お前は見た目は普通だし、歌声だけが特別だ」などと言われ、まともな睡眠時間も与えられず、「太るから」と食事制限をされ、その代わりに大量の薬を飲まされるジュディ。今ならもはや虐待の域。悲惨極まりない過去なのだ。そのせいで彼女は神経を病み、自殺未遂、入退院を繰り返し、結婚を5回、カムバックを6回経験している。

ただし、子供時代のエピソードがどれも散発的に登場するため、当時のジュディの心理が余すところなく描かれているとは言い難い。恋心を抱く共演相手とのデート未満の食事風景や、あまりの管理主義にブチ切れた彼女がセットのプールに飛び込むシーンなど個々のエピソードはそれなりに面白いのだが、それがうまく噛み合って行かない歯痒さがある。

だが、それでもこの映画は圧倒的に観応えがある。その理由は何よりも、ジュディを演じたレネー・ゼルウィガーの迫真の演技にある。最初に登場した瞬間、これがあの「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのレネー・ゼルウィガーなのか!?と目を疑ったほどである。そのなり切りぶりはハンパではない。

外見だけではない。むしろ内面からにじみ出るなり切りぶりだ。もしかしたら、レネーはジュディに自分の女優としてのキャリアを重ね合わせていたのかも。2001年の「ブリジット・ジョーンズの日記」と2002年の「シカゴ」でアカデミー主演女優賞候補となり、2003年の「コールド マウンテン」で助演女優賞を獲得した彼女も50歳。女優としてのターニングポイントを迎えていることを感じ、ジュディの苦悩をより身近に感じたのでは?そんなことも考えさせられる渾身の演技だった。

そして吹替なしの歌声がこれまた素晴らしい。「トロリー・ソング」「サンフランシスコ」をはじめ様々なタイプのジュディの持ち歌を情感たっぷりに歌い上げる。よほどトレーニングを積み、研究し尽くしたに違いない。アップテンポの曲からバラードまで、どれも見事な歌いっぷりである。

それにしても波乱続きのジュディの晩年だ。子供と離れ、ステージのプレッシャーに押しつぶされそうになり、薬やアルコールに逃避し、ついにはステージを台無しにしてしまう。その一方で、熱烈なファンであるゲイのカップルと交流したり、公演のマネージャー役の女性やバンドリーダーと心を通わせたりもする。さらに新たな恋人もできて彼と結婚し、ようやく幸せを手にするかと思えたのだが……。

ジュディ自身、けっして自暴自棄になっているわけではなく、これではいけないと思って前を向こうとするものの思い通りにいかない。それがひたすら切ないのだ。その揺れ動く心理をレネーがリアルに演じて見せる。

特に終盤の電話越しの子供との会話が秀逸だ。子供たちが自分ではなく今の生活を選ぶことを覚悟しつつ、それでも悲しさと虚しさを隠せないジュディの姿。何ともやるせないシーンである。

映画デビュー以来、本当の愛に恵まれなかったジュディの一生は、ひたすら愛を探し挫折を繰り返す旅だったのかもしれない。

彼女のロンドン公演はけっして成功したわけではない。だが、最後の最後に観客とともに歌う「オーバー・ザ・レインボー」が、彼女のエンターティナーとしての矜持を示し、観る者の心を揺さぶる。

本作でついにアカデミー賞主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガー。彼女の演技を心から堪能する映画である。

◆「ジュディ 虹の彼方に」(JUDY)
(2019年 イギリス)(上映時間1時間58分)
監督:ルパート・グールド
出演:レネー・ゼルウィガージェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェルマイケル・ガンボン、ダーシー・ショウ、ロイス・ピアソン
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://gaga.ne.jp/judy/

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