映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「黒い司法 0%からの奇跡」

「黒い司法 0%からの奇跡」
TOHOシネマズ 日比谷にて。2020年3月23日(月)午後6時20分より鑑賞(スクリーン6/D-7)。

~理不尽な司法と正攻法から闘う若手弁護士による大逆転劇

昔に比べれば状況は良くなったとはいうものの、依然として根深いアメリカの人種差別。特に南部は昔から激しい人種差別で知られている。そんな南部アラバマ州を舞台に、有力な証拠もないのに死刑囚にされた黒人と、彼を救うために立ち上がった若い弁護士の実話に基づいたドラマが「黒い司法 0%からの奇跡」(JUST MERCY)(2019年 アメリカ)である。

冒頭は1988年のアラバマ州。木材を伐採する仕事を終え、車で帰宅しようとする黒人男性ウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)。だが、突然保安官が現れ、18歳の少女を惨殺した罪で彼を逮捕してしまう。そして、ウォルターは死刑になってしまう。

いったいどんな証拠があって、ウォルターは逮捕され、死刑になったのか。観客の前にそれは提示されない。いや、実はそもそも有力な証拠などなかったのだ。そんな理不尽な事態に混乱するウォルターの心理を、観客も同時に体験することになる。

その後、ある青年が登場する。ハーバード・ロースクールに通う黒人青年ブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)だ。インターンとして死刑囚と接した彼は、卒業後に弁護士となり、周囲の反対を仕切って人種差別の根強いアラバマに赴く。この地でブライアンは、地元に住む白人女性エバブリー・ラーソン)の協力を得て、死刑囚たちのサポートを始める。

本作ではあまりにもひどい人種差別の様子や警察、司法の闇が、これでもかと描かれる。黒人だからという理由だけで疑われ、ろくな証拠もないままに逮捕される。裁判でも偏見に満ちたずさんな審理で有罪にされる。弁護士とて本気で彼らを支えようとしないのだ。

それを見ているうちに、観客はウォルターに感情移入し、何とかしてあげたいと思うはず。そこに登場するのがブライアンだ。彼があの手この手でウォルターの無実を証明しようとする姿をスリリングに描き出す。

そこには大きな困難が立ちはだかる。かつて公選弁護人だったという検事は、事実の解明を阻もうとする。警察からの妨害工作も苛烈で、ブライアンが命の危険を感じる場面もある。だが、それでもブライアンはめげない。どんな時も希望を捨てずに、正攻法で前に進もうとする。

やがて大きなクライマックスが訪れる。ある男の証言をめぐって、ウォルターの再審が実現する可能性が高まる。そのあたりでは観客も大いに期待するはず。だが……。

というわけで、ドラマはその後も二転三転する。当然ながら劇的要素を盛り込んではいるのだろうが、それにしてもこれが実話だというのだからすごい。

このウォルターに加え、本作ではもう1人の死刑囚がクローズアップされる。彼は爆弾を仕掛け、それによって死者を出している。ウォルターのような冤罪ではない。ただし、彼はベトナム戦争によってPTSDを患っていた。その死刑執行に至る姿をじっくり描くことで、死刑制度をはじめ司法そのものに関しても、問題提起を行っている。けっして、人種差別を告発するだけの映画ではないのである。

終盤に待ち受けているのはドラマチックでスリリングな展開。きっちりと観客にカタルシスと感動を味合わせてくれる。硬派なテーマを持ちつつも、小難しさはまったくなく、エンタメ性も高い映画だ。

とはいえ、ラストではシビアな事実が告げられる。登場人物のその後などを報告するとともに、「現在もアメリカでは、冤罪の可能性のある死刑囚の10人に1人しか釈放されていない」旨の報告がなされるのだ。30年以上前の話ではあるが、現在と地続きのドラマであることが明確に見て取れるではないか。

主人公の若手弁護士ブライアンを演じたのは、マイケル・B・ジョーダン。ライアン・クーグラー監督の「フルートベール駅で」で注目され、同監督の「クリード チャンプを継ぐ男」、その続編の「クリード 炎の宿敵」、そしてアメコミ映画「ブラックパンサー」と立て続けに話題作に出演し、もはや押しも押されもしないスターだが、今回も見事な演技を見せている。

特に、最初は正義感が強いだけのいかにも甘ちゃん風だった青年が、最後はまったく違う表情を見せるところが素晴らしい。その演技によって、本作はブライアンの成長物語としても成立していると思う。

ジェイミー・フォックスブリー・ラーソン、オシェア・ジャクソン・Jr.などの脇役も、それぞれに存在感を発揮している。特に重要な証人を演じるティム・ブレイク・ネルソンのクセモノぶりが秀逸だ。

監督はブリー・ラーソンが出演した「ショート・ターム」「ガラスの城の約束」のデスティン・ダニエル・クレットン。

社会派の側面とエンタメ性をほど良くブレンドさせた見応えある作品である。

f:id:cinemaking:20200328200047j:plain

◆「黒い司法 0%からの奇跡」(JUST MERCY)
(2019年 アメリカ)(上映時間2時間17分)
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックスブリー・ラーソン、オシェア・ジャクソン・Jr. 、ロブ・モーガン、ティム・ブレイク・ネルソン、レイフ・スポール
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開中
ホームページ http://wwws.warnerbros.co.jp/kuroi-shiho/

 

wwws.warnerbros.co.jp