映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「追龍」

「追龍」
2020年3月26日(木)。マスコミ試写にて鑑賞(京橋テアトル試写室)。

~香港2大スター共演による「ワル」の美学と友情の実録ドラマ

ご承知のように、新型コロナウイルス絡みで東京はじめ首都圏の映画館は軒並み休館。映画館、特にミニシアターにとっては過酷な日々が続く。そして映画ファンにとってもつらい毎日だ。

このブログでは、基本的に映画館で観た映画のレビューを書くことにしているのだが、肝心のネタが仕入れられない。仕方がないから、動画配信サイトなどで観た映画の感想もアップしようかとも考えているのだが。

とりあえず今ある手持ちのネタと言えば、先日マスコミ試写で鑑賞した作品ぐらい。なので、今回はその作品について書こうと思う。

その前にちょっとお知らせ。「ミニシアターを救え」プロジェクトが立ち上がり、署名活動を展開しています。私も署名しました。興味のある方はぜひ下記にアクセスしてみてください。

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さて、それでは本題。今回取り上げるのは「追龍」(追龍/CHASING THE DRAGON)(2017年 香港)。中国返還前でイギリスの統治下にあった香港を舞台に、実在したマフィアのボスと警察幹部をモデルにした映画である。

1960年。中国の潮州から仕事を求めて香港にやってきたホー(ドニー・イェン)は、報酬目当てにヤクザ同士の争いに参加して警察に逮捕される。その時、彼は英国人警司に激しい暴行を加えていた。そのため拘束後、ホーはその警司に仕返しされ負傷する。そんなホーを香港警察のロック(アンディ・ラウ)が救う。ロックはホーの腕力に目を付けたのだ。それをきっかけに、2人の交流が始まる。

その後、ホーは黒社会でのし上がる。そして、窮地に追い詰められたロックを助けるが、その代償として彼は足を砕かれ、杖を常用するようになる。それでも2人はがっちりと手を組み、ホーは麻薬王として君臨し、ロックは警察内で出世するとともに大金も手に入れる。

香港警察と裏社会とが絡み合ったドラマといえば、本作でも活躍するアンディ・ラウが出演した「インファナル・アフェア」を思い出す。あちらは、暗く重たい雰囲気が全編を支配したノワール映画。一方、こちらは(特に前半は)スタイリッシュでテンポの良い友情物語&アクション映画という感じ。エンタメ性抜群の作品だ。

人間ドラマとしての葛藤はそれほど深くはない。それもそのはず。裏社会と結びついていたのはロックだけでなく、当時の香港警察は組織ぐるみで黒社会と結託して汚職が横行していたのだ。ホーにしても警察と手を結ぶのは当たり前のこと。だから、両者の葛藤が深まるはずもない。

わずかに、ホーが途中で中国本土から呼び寄せた妻子を失い、悲嘆にくれる展開はあるのだが、それとてさほど深く描かれるわけではない。

そんな中、何といっても目を引くのは、ドニー・イェンアンディ・ラウという香港の大スターの共演だ。「イップ・マン」シリーズをはじめアクションには定評のあるドニー・イェン。今回はお得意のカンフーアクションこそ封印しているが、それでもガンアクションなどで、迫真の場面を生み出している。足を負傷して杖をつくようになっても、いざというときのキレは失わない。

一方、アンディ・ラウも貫禄の演技。その佇まいだけで圧倒的な存在感を見せる。笑顔の裏にも何かがあると感じさせるクセモノらしい演技だ。若い頃に比べてさすがに年をとったが、それも渋みとなってますます魅力的に見せる。当然ながらアクションもそつなくこなす。

そんな2人のワルの魅力が全開なのが本作なのだ。

今はもう見られないかつての香港の風景も再現されている。悪の巣窟と言われ、ホーがのし上がる舞台となった九龍城砦。新空港が開港する前には香港名物となっていた、ビル群すれすれに飛行する旅客機の姿。それらが当時の時代を感じさせる。

後半になるとややドラマのトーンが変わる。ロックは他のボスとホーを共存させようとするが、ホーはそれを嫌う。2人の間に隙間風が吹き、謎の女スパイなども絡んで、騙し騙されの展開となる。舞台は香港からタイへと飛び、前半とは違う暗く重いノワールの味わいが強まる。そして終盤のアクションの波状攻撃が観応えタップリ。

ホーとロックにとって大きな転機となるのが、1974年に設立された「廉政公署」。警察内部の腐敗を取り締まる組織だ。それによって、2人の運命も大きく変わる。その結末がどうなるかは伏せるが、エンドロールの途中で描かれる後日談で2人の変わらぬ友情を刻み付け、深い余韻を残してドラマが終わる。

2人のスター俳優の共演による「ワル」の美学と友情物語、そして本格アクションを堪能する実録映画。いかにも香港映画らしい作品といえそうだ。

さて、劇中ではロックが何度も「英国人だけは殺すな」とホーを諭す。当時の香港を統治し、警察権力も握る英国人にはどんなワルといえども逆らえなかったのだろう。そして、今の香港を統治するのは中国。イギリスに代わって今は中国に逆らえない香港警察。昨年の逃亡犯条例改正案をめぐる抗議デモにも、そんな図式が見え隠れするではないか。そんな現状への批判精神もチラリとうかがえる作品である。

ちなみに、本作は6月26日より新宿武蔵野館ほかにて公開予定。だが、新型コロナの関係で多くの作品が軒並み公開延期になっている現状では、本作も公開が先に延びるかもしれない。そんなこともあって、早めに紹介してしまった次第。映画業界にも早く日常が戻りますように。

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◆「追龍」(追龍/CHASING THE DRAGON)
(2017年 香港)(上映時間2時間8分)
監督:バリー・ウォン、ジェイソン・クワン
出演:ドニー・イェンアンディ・ラウ、ケント・チェン、フィリップ・キョン、ウィルフレッド・ラウ、ユー・カン、ケント・トン、ミシェル・フー、ラクエル・シュー、フェリックス・ウォン
*6月26日より新宿武蔵野館ほかにて公開予定
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