映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「zk 頭脳警察50 未来への鼓動」

「zk 頭脳警察50 未来への鼓動」
2020年6月2日(火)初号試写(映画美学校試写室)にて鑑賞。

~結成50周年を迎えたロックバンドの軌跡を時代とともに描く

昔バンドをやっていた(今でもやりたいのだがメンバーがいない…)。その中で接触してきたドラマーが、「PANTAのカバーをやりたいんだ」と言ってきた。PANTAというロックシンガーの存在は知っていたが、その曲をきちんと聴いたことはなかった。そのドラマーはPANTAのアルバムを貸してくれた。その頃PANTAは、スイート路線と呼ばれるポップなアルバム「KISS」や「唇にスパーク」を出していたのだが、そのドラマーは言った。「今はこんなことをやっているけど、元は過激なロックバンドをやっていたんだよ。頭脳警察という……」。それまで噂でしか聞いていなかった頭脳警察とオレとの初めての出会いだった。

その後、そのドラマーとは何度か会ったり電話で話して、一度だけどこかでPANTAの曲を練習した記憶があるのだが、ある日突如として音信不通になった。それからしばらくして、雑誌を見ていたら「ピンククラウド(Charがやっていたスリーピースのバンド)のカバーをやりたい」という彼の出したメンバー募集の告知が載っていた。いったい彼は何者だったのだろうか?今もってよくわからないのだが、それでも感謝している。彼がいなければ、PANTA頭脳警察のファンになることはなかったのだから。

その後はすっかりPANTA頭脳警察にはまり、ライブ会場に足繁く通うようになった。そこでは当時PANTAのファンクラブを運営していたS氏とも出会い、彼が河出書房新社から出したインタビュー本「頭脳警察」の制作にも参加した。また、その流れで製作された2009年の映画「ドキュメンタリー 頭脳警察」の企画時にも立ち会い、瀬々敬久監督とのミーティングにも参加した。それらをきっかけに、さらに制作側に接近することもできたのだろうが、あえてそれをしなかった。だって、PANTAはいつまでも憧れのロックスターなのだ。スターは一ファンとして遠くから見つめていたいじゃないですか。

そんなPANTA率いる頭脳警察が、2019年に結成50周年を迎えた。それを機に製作されたドキュメンタリー映画が「zk 頭脳警察50 未来への鼓動」(2020年 日本)である。監督は末永賢。「アジアの純真」「いぬむこいり」の片嶋一貴監督が企画プロデューサーを務めている。

ちなみに、本作のエンドロールの「製作協力」のところには、私の名前がチラリと出てきます。クラウドファンディングに協力しました。ファンとして正しい在り方でしょ?(笑)

映画はPANTAと相棒のTOSHI、それぞれの生い立ちから始まる。そして2人の出会い、頭脳警察の誕生、解散、それぞれのソロ活動、再結成から現在に至るまでが描かれる。そんなバンドの歴史とともに映し出されるのが、それぞれの時代の社会状況だ。結成当時に吹き荒れていた学生運動の嵐、ベトナム戦争三里塚闘争などは、頭脳警察が反体制の象徴とされるのに大きな影響を及ぼした。一方、そんなパブリックイメージを嫌い、解散し、ソロとして活動する2人の向こう側には、サブカルの隆盛などの日本のカルチャーシーンが透けて見える。さらに、再結成後の活動にも、アメリカの同時多発テロイラク戦争をはじめとする様々な世の中の動きがリンクしてくる。

ドキュメンタリー映画ではあるものの、本作にナレーションはない。必要最低限の情報をテロップで流すだけだ。それでも、当時の出来事を伝える数々のフィルムや多彩な証言者たちの声が、頭脳警察の活動や当時の時代状況について余すところなく伝えてくれる。それにしても、この証言者の顔ぶれの豪華さよ。加藤登紀子大槻ケンヂ宮藤官九郎浦沢直樹春風亭昇太などなど。それぞれの話は短いが、どれも的を射た発言内容で興味深い。

とはいえ、本作はロックバンドのドキュメンタリーである。ライブをはじめバンド活動の様子が魅力的に描かれなければ話にならない。その点、約2年に渡って撮影されてきたというリアルタイムの頭脳警察の映像は、ド迫力で魅力十分だ。名曲、最新曲の数々が次々に登場する。PANTAがクリミアで行ったライブ映像なども貴重な映像だ。さらには1990年の再結成時に、当時の日清パワーステーションで行われたライブのバックステージなど、ファンにとっても垂涎ものの映像が多数登場する。

観ていて印象的なシーンや言葉がたくさんあったのだが、特にPANTAが今も初期初動のまま音楽をやっているという言葉を聞いて「なるほど」と思った。20歳の頃に作った曲を今の彼が歌っても何の違和感もない。それは当時の心根をそのまま今も持ち続けているからではないか。余談になるが、最近の伊藤蘭のコンサートで彼女がキャンディーズ時代の曲を歌っても、何の違和感もないことに驚かされたのだが、全く違う世界の2人に同じものを感じ取ってしまったのである。

それにしても、頭脳警察といえばPANTAばかりに注目が行きがちだが、本作でTOSHIの存在感の大きさを改めて確認できた。PANTAという火薬に火をつけるTOSHIがいなければ、頭脳警察は存在しなかっただろう。そんなTOSHIがいつの間にか「戸籍を消されていた」というエピソードには爆笑してしまったのだが。

50周年の頭脳警察では、1989~91年に生まれた澤竜次、宮田岳、樋口素之助らの若いメンバーも大きなカギを握っている。PANTAとTOSHIに刺激を与え、さらなる若々しさや躍動感を引き出している彼らを見ていると、日本でもロックが確実に次の世代へと受け継がれていることを実感させられる。「未来への鼓動」というサブタイトルが、しっくりと心に届いた。

映画の最後には、新型コロナウイルス禍の街が映される。そして、そんな中、頭脳警察が本作の主題歌を無観客のライブハウスでライブレコーディングする姿が映し出される。頭脳警察は紛いもなく、今を生きるバンドなのだ。

さて、瀬々敬久監督の「ドキュメンタリー 頭脳警察」は5時間を越える長尺ということもあり、PANTAという人間に迫った映画だったのに対して、本作は頭脳警察というバンドにより焦点を当てた作品だと感じたのだが、どうだろう。

1時間40分という長さゆえ、駆け足なところがあるのは否めないが、逆に言えば50年(PANTAとTOSHIの生誕から数えれば70年)の歴史を、よくぞこれだけキッチリとまとめたものだ。その分、とても中身の濃い作品だと思う。ファンはもちろんそうでない人にも観て欲しい映画です。ロック好きには特におススメ。7月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開予定。

さーて、今も走り続ける頭脳警察。オレも負けないようにしなければ。

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初号試写では上映後にPANTA、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、そして末永賢監督が登場しました。

 ◆「zk 頭脳警察50 未来への鼓動」
(2020年 日本)(上映時間1時間40分)
監督・撮影・編集:末永賢
出演:頭脳警察PANTA、TOSHI、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけい)、加藤登紀子植田芳暁、岡田志郎、山本直樹、仲野茂、大槻ケンヂ佐渡山豊宮藤官九郎ROLLY切通理作白井良明浦沢直樹木村三浩、桃山邑、春風亭昇太鈴木邦男足立正生鈴木慶一高嶋政宏
*7月18日(土)新宿K’s cinemaにて公開予定
ホームページ http://www.dogsugar.co.jp/zk.html