映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」

「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語

2020年6月15日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前10時20分より鑑賞(スクリーン3/E-16)。

~名作小説をもとに四姉妹の人生模様と女性の自立を力強く見せる

ルイザ・メイ・オルコットの小説「若草物語」。名作だとはわかっていても、どうしても女子向けの作品というイメージがあって今まで一度も読んだことがなかった。その名作をノア・バームバック監督の「フランシス・ハ」の主演女優で、「レディ・バード」で自身も監督デビューしたグレタ・ガーウィグが映画化したのが「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」(LITTLE WOMEN)(2019年 アメリカ)。ちなみに、「若草物語」は過去に何度も映画化されている。

舞台は1860年代のアメリカ、マサチューセッツ州。マーチ家の四姉妹の次女ジョー(シアーシャ・ローナン)は作家志望の活発な女の子。控えめな長女メグ(エマ・ワトソン)、内気で心優しい三女のベス(エリザ・スカンレン)、生意気盛りで元気な四女エイミー(フローレンス・ピュー)とともに、それぞれの幸せを探し求めるドラマである。

今回の映画化では、いくつかの特徴がある。まず主人公に次女のジョーを据え、彼女の視点で物語を進めているところ。また、ジョーが作家として「若草物語」を出版するまでのドラマというストーリー構成にしているのも特徴だ。さらに、現在進行形のドラマと、過去に起きた出来事を並行して描くのも特徴。これらが実によく機能してドラマに新たな息吹を吹き込んでいる。

現在進行形のドラマでは、家族と離れてニューヨークに住むジョーが、三女ベスの病気が悪化したと聞いて故郷に戻る姿が描かれる。姉のメグは結婚したものの貧しい生活に苦しんでいる。また、四女のエイミーは伯母とともにパリに出かけて絵の勉強をしている。

それに対して、過去のドラマでは、かつて四姉妹が一緒に暮らしていた日々の出来事が生き生きと描かれる。クリスマスに一緒に芝居をしたり、ちょっとした諍いが大きな事件に発展したり。姉妹の父親は牧師として南北戦争に出かけており、優しい母がお手伝いさんとともに家を守っていた。

ドラマが進む中で感心させられるのは、四姉妹の描き分けだ。性格も違えば、幸せの基準も異なる四姉妹。ある者は幸せな結婚を願い、ある者は仕事を持ち自立することを願う。そうした4人のキャラがきちんと描かれており、それぞれの人生模様のドラマには見せ場も用意されている。

そんな中、特に強く自立を願うのが主人公のジョーである。とはいえ、当時は結婚こそが女性の幸せという時代。それだけに自立には様々な困難や苦悩が伴う。彼女にとって最大の苦悩は、幼なじみのローリー(ティモシー・シャラメ)に関してだ。お互いに好意を持つものの、ローリーのプロポーズをジョーは断る。ただし、決然として断るのではない。そこには迷いも揺れもある。それをガーウィグ監督は繊細に描写して見せる。

本作は、ジョーが「友人の原稿」と偽って出版社に原稿を持ち込むところからドラマが始まる。それこそがガーウィグ監督が最も描きたかったことではないのか。女性の自立が困難な時代に、様々な困難や苦悩を乗り越えて自分の夢をかなえようとするジョーの姿。そこには、映画業界における自身の姿も投影させているのかもしれない。そうしたこともあって、この映画は単なる古典の域を超えて、現代においても古びた感じがしない。

時間を行きつ戻りつしつつドラマは進む。その切り替えのタイミングも絶妙だ。また、時代劇にとって重要な衣装やセットなども、細部に渡ってこだわった見事なものである。

終盤ではジョーにとって仰天の出来事が起きる。そこで彼女は自身の孤独を痛感することになる。結婚を捨て迷いなく自立に向かったつもりでも、そこには満たされない思いがある。そんな複雑な心理を余すところなく映し出す。ジョーの自立への闘いを応援していた観客も、そこではきっと胸が痛むことだろう。女性の自立がテーマとはいえ、ステレオタイプなドラマではけっしてない。

だが、そんなジョーにも心憎い展開が用意されている。エンディング近くでの編集者とのやりとりでは、冒頭とは全く違い、したたかかつ堂々と渡り合うジョーの姿が描かれる。そこで彼女の成長をきっちりと見せる。

しかも、そのやりとりを通して書きあがった「若草物語」には素敵な結末が用意されるのだ。どうやら、この結末は原作とは異なるアレンジのようだが、個人的にはとてもあと味の良い結末で好感が持てた。

レディ・バード」に続いてガーウィグ監督とタッグを組んだジョー役のシアーシャ・ローナンは、貫禄十分の演技。激しさと優しさ、猪突猛進ぶりと不器用さなど、様々に変化するジョーを力強く演じている。全編に渡って躍動する彼女が、この映画の大きな魅力だ。

その他の姉妹を演じたエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレンもなかなかの演技。フローレンス・ピューってどこかで聞いたことがあると思ったら、「ミッドサマー」のあの子だったのね。

母親役のローラ・ダーン、伯母役のメリル・ストリープをはじめティモシー・シャラメルイ・ガレルクリス・クーパーなども、それぞれに存在感のあるところを見せている。

監督2作目にして、古典的な名作を本格的で現代性もある映画にリブートしてみせたガーウィグ監督。今後の作品も楽しみである。たまにはまた役者もやって欲しいけど。

 

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◆「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」(LITTLE WOMEN)
(2019年 アメリカ)(上映時間2時間5分)
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナンエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーンティモシー・シャラメメリル・ストリープ、トレイシー・レッツ、ボブ・オデンカーク、ジェームズ・ノートンルイ・ガレルクリス・クーパー、ジェイン・ハウディシェル、メアリーアン・プランケット
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://www.storyofmylife.jp/