映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」

「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
2020年7月8日(水)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時50分より鑑賞(スクリーン7/E-8)。

~ニューヨークを舞台に本領発揮のウディ・アレン監督の楽しいラブ・ロマンス

ご存知ウディ・アレン監督の新作映画「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」(A RAINY DAY IN NEW YORK)(2019年 アメリカ)。すでに80歳を超えているのに、コンスタントに新作を撮り続けているのだから恐れ入る。

一時はヨーロッパを舞台にすることが多かったアレン作品だが、前作の「女と男の観覧車」に続いてアメリカ・ニューヨークが舞台。しかも前作の時代が1950年代だったのに対して、こちらは現代のドラマである。

オープニングタイトルで流れるノスタルジックで甘い音楽。主人公のモノローグによる説明が入るドラマの冒頭。まさに過去作と同じアレン・ワールド全開の滑り出しだ。そんなアレン・ワールドに今回飛び込んだのは若き役者たち。

ギャツビー(ティモシー・シャラメ)とアシュレー(エル・ファニング)は同じ大学に通う学生カップル。ある日、アシュレーは学校の課題で有名な映画監督のポラード(リーヴ・シュレイバー)にマンハッタンでインタビューをすることになり大はしゃぎ。ニューヨークが地元のギャツビーも同行して、2人で週末のニューヨークを楽しむことにする。得意げにデートプランを練り上げるギャツビー。ところが、思わぬ出来事が続いて2人はなかなか会えない。

アレン監督らしい軽妙でおしゃれでロマンティックな恋愛ドラマだ。そのロマンスの当人たちが「運命のいたずら」に翻弄されて大変なことになるというのも、いかにもアレン監督の作品らしいところ。

アシュレーは、新作の出来が不満で荒れる映画監督ポラードに加え、妻と親友の浮気現場に遭遇してしまう脚本家ダヴィドフ(ジュード・ロウ)、プレイボーイの俳優フランシスコ・ヴェガ(ディエゴ・ルナ)に関わることで、思わぬ事態に遭遇する。その間に一方のギャツビーは元カノの妹チャン(セレーナ・ゴメス)と偶然出会うなど、こちらも波乱の連続。

この映画の魅力の源泉は、主要人物のキャラ設定にある。ギャツビーは裕福な家庭の出身ながら、両親、特に母親に強く反発するモラトリアム青年だ。そして様々な悩みや妄想を抱え、早口でしゃべり続けるその姿からは、かつてアレン監督自身が演じた様々なキャラが見て取れる。

それとは対照的に天真爛漫なお嬢様キャラのアシュレー、生意気で毒舌を吐くチャンに加え、映画監督ポラード、脚本家ダヴィドフ、俳優フランシスコ・ヴェガなど、いずれも個性的なキャラの持ち主ばかりである。

これだけの個性派キャラが揃えば、そこから自然に笑いが生まれる。笑いどころはたくさんあるが、特にアシュレーの無軌道なばかりのはしゃぎっぷりには笑わせられた。ギャツビーの兄嫁の奇怪な笑い声なども爆笑もの。一歩間違えばドタバタコメディーだが、その寸前で抑制をきかせるのがアレン監督の心憎さだろう。

また、本作では「映画」も重要なアイテムになっている。アシュレーは取材をきっかけに、撮影所や映画人のパーティーなどの映画界を一夜で渡り歩く。また、ギャツビーとチャンは学生映画の撮影で出会う。

さらに、ニューヨークが舞台のこの映画では、ギャツビーとチャンが訪れるメトロポリタン美術館(MET)や、セントラルパークを見下ろすホテル、クラシックなバーなど様々なスポットが登場し、ニューヨークを散歩しているかのような気分も味わえる。

映像も魅力的だ。雨が降ったり日が差したり、気まぐれなニューヨークの風景を背景に、登場人物のあれやこれやを光と影を効果的に使いながら映し出していく。撮影監督は「地獄の黙示録」「ラストエンペラー」などで知られるベテランのビットリオ・ストラーロ

ストーリーの核は当然ながら、ギャツビーとアシュレー、そしてそこにチャンが絡んだ恋愛模様だ。だが、それだけではない。終盤ではギャツビーと母との確執と和解が描かれる。アシュレーを母のもとに連れて行けないギャツビーがある奇策を用いたのをきっかけに、母の衝撃の告白が飛び出す。それによって母と息子の距離がググッと縮まる。

この展開があるからこそ、ラストのギャツビーの決断が生きる。お手軽に思えるチャンとの再会もごく自然に受け止められる。この映画はコミカルな恋愛ドラマであるのと同時に、ギャツビーの生き直しのドラマでもあるのだ。

絶品のピアノの弾き語りも披露したティモシー・シャラメ、見事なコメディエンヌぶりを披露したエル・ファニング、毒舌女をリアルに演じたセレーナ・ゴメスをはじめ、キャストはいずれもハマリ役だった。

地元ニューヨークを舞台にした得意のラブコメということで、まさに本領発揮という感じのアレン監督。ファンならずとも楽しめそうな作品だ。

 

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◆「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」(A RAINY DAY IN NEW YORK)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間32分)
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ティモシー・シャラメエル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウディエゴ・ルナリーヴ・シュレイバー
新宿ピカデリーほかにて全国公開中
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