映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」
2020年8月22日(土)新宿武蔵野館にて。午後12時10分より鑑賞(スクリーン1/B-9)。

~2人の女子高生のおバカコメディーから見える普遍的な青春ドラマ

オバカ映画をバカにしてはいけない。オバカ映画の中に、人間の真実や人生の機微が転がっていることがたくさんあるのだから。

「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(BOOKSMART)(2019年 アメリカ)は、おバカなコメディー映画である。製作総指揮にはウィル・フェレルとアダム・マッケイが名を連ねている。監督は、クリント・イーストウッド監督の『リチャード・ジュエル』で女性記者を演じていた女優のオリヴィア・ワイルド。これが長編監督デビュー作となる。

どんな話かといえば、2人の女の子が高校卒業を前にパーティーに出るだけのお話。なのに、とびっきり笑えて、青春のきらめきと苦悩が実感できる映画に仕上がっている。

卒業式を目前にした大親友の女子高生モリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・デヴァー)。2人がノリノリで登場するところからドラマが始まる。なにせ2人とも一生懸命に勉強をして、苦労の甲斐あって見事に一流大学の切符を手にしたのだ。遊んでばかりだった同級生たちに対する優越感タップリである。

だが、2人はまもなくとんでもない事実を知る。遊びまくっていた同級生に聞いたところ、なんと彼らも一流大学に進学したり、超有名企業に就職することが判明したのだ。何だそりゃ。勉強ばっかりしていた私たちはバカみたいじゃない。こうなったら、勉強のために犠牲にしてきた時間を一気に取り戻すしかない。そこで2人は呼ばれてもいない同級生主催の卒業パーティーに乗り込もうとするのだ。

というわけで、パーティーに向かうまでのすったもんだが描かれる。そもそも彼女たちは、パーティーの場所を知らない。そこで金持ちの同級生を呼んだところ、彼が主催する超豪華な船上のパーティーに連れて行かれてしまう(ただし、参加者はほとんどいない残念なパーティー)。

そこで今度はタクシーを呼んだら、なんとその運転手は校長先生。彼はバイトで運転手をしていたのである。おまけに、連れて行かれた先は演劇部の生徒が主催する芝居紛いの奇妙なパーティー。またしても、お目当てのパーティー会場ではなかったのだ。

さて、本作で最も感心させられたのは、モリーとエイミーのキャラである。勉強一筋で一流大学への進学を決め、在学中には社会奉仕も行っていたとくれば、真面目な根暗キャラを連想させるが、モリーとエイミーはとにかく明るい。2人でいる時は、まるで漫才のようにポンポンとテンポよく会話を弾ませる。それは毒舌と下ネタ満載の会話だ。そこから自然に笑いが生まれてくるのである。

まあ特に下ネタの多いこと。同性愛者であることをカミングアウトしているエイミーが、ひとりエッチにある意外なものを使うネタで爆笑させたり、校長が運転するタクシーの中で“勉強のため”にポルノ動画を見ていたら、その音声が爆音になってしまったり。下ネタ嫌いの人もいるかもしれないが、ここまであけすけに語られたら、もうただ笑うしかないのでは?

モリーとエイミー以外の生徒たちも強烈キャラばかりだ。しかも、それを仰々しくド派手に描く。金持ち生徒のゴージャスな登場シーンなど、「そんなヤツいないよ」と思いつつ無条件に笑ってしまう。そんな彼らのやりたい放題も、笑いを生む源泉となる。なぜかどのパーティー会場にも先乗りしていて、エキセントリックな行動を披露するジジという女性などもいる(演じるのは故キャリー・フィッシャーの娘のビリー・ロード)。

映像的にも、ところどころで面白い仕掛けをする。モリーとエイミーがドラッグを盛られてヘロヘロになるシーンでは、映画は人形劇へと突入。また、モリーが空想の中で本格的なダンスを踊ったり、プールに飛び込んだエイミーの水中視線の映像なども面白い。

ようやくお目当てのパーティーにたどり着いたモリーとエイミー。なぜ2人がそのパーティーにこだわったかといえば、実はそれぞれの恋心が関係しているのだ。それをめぐる失意や失敗、さらには2人の仲違いなどが起きて、ドラマは波乱の展開へ。その一方で、2人は今まで見下していた他の生徒たちの様々な一面を目にすることになる。

はたして、この混乱をどう収拾するのか。そこで用意されるのはエイミーの大胆な行動だ。さらに、その一件に意外なオチがついて(あのピザ屋か!)、卒業式でのユーモラスかつ感動的なスピーチを迎える。

その後の後日談も含めて、モリーとエイミーの絆と成長をしっかりとスクリーンに刻み付けてドラマは終焉を迎える。人間は人それぞれ、どっちが上だとか下だとかはない。先入観を持って人を見るな。そんなメッセージも伝わってきた。基本はおバカなコメディーながら、そこには普遍的な青春の光と影がある。至極真っ当な青春映画なのだ。

女子高生を演じた2人の生き生きとした演技が魅力。「レディ・バード」でシアーシャ・ローナンの親友役を演じたビーニー・フェルドスタイン、「ショート・ターム」「ビューティフル・ボーイ」などに出演していたケイトリン・デヴァー。その他の若手役者たちも、けっこうなキャリアを持つ者からスケートボーダーまで多彩で、いずれも存在感があった。

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◆「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(BOOKSMART)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間49分)
監督:オリヴィア・ワイルド
出演:ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビリー・ロード、ダイアナ・シルヴァーズ、スカイラー・ギソンド、モリー・ゴードン、ノア・ガルヴィン、オースティン・クルート、ヴィクトリア・ルエスガ、エドゥアルド・フランコ、ニコ・ヒラガ、メイソン・グッディング
*ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中
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