映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「無機質な狂気 第11夜」

~2020年9月5日(土)渋谷クラブクアトロにて。

久々の音楽ネタ。コロナ禍のライブハウスはどうなっているのか。その実像に迫る迫真のルポである。

……というのは真っ赤なウソ。入手困難なチケットが購入できたので、9月5日(土)に渋谷のクラブクアトロに出かけただけの話。その日開催されたのは「無機質な狂気 第11夜」というライブイベントだ。

まずは入り口で連絡先を記入し、検温、手指の消毒を済ませて(もちろんマスク着用)会場内へ。いきなり聞こえる爆音のインド風の音楽。その後も、世界各地のノリの良い音楽がかかり、スターリン、外道などの日本の古いロックも流れる。DJはナカムラルビイ。まだ若い女性なのに、どうしてこんなにバラエティに富んだ選曲ができるのか。後で調べてみたら、彼女の父親は某有名ロック・ミュージシャン。なるほど、幼い頃から様々な音楽を聴きまくってきたのかもしれないなぁ。そして、彼女にはさらに驚かされるのだが、それはまた後ほど。

通常なら500~600人は軽く入るであろうクラブクアトロだが、この日はソーシャルディスタンスを確保するため、限定100人。フロアに並べられた椅子に間隔を空けて座る。そりゃあ、プラチナチケットになるワケだ。配信もあるにはあるのだけれど。

いよいよ開演。オープニングアクトは、赤いくらげ。スリーピースのバンドで、パンク、プログレ、ラップ、ハードロック、ニューウェーブなど様々な要素を持つ楽曲を披露。疾走感あふれる演奏で、歌詞もユニーク。何よりもボーカル・ギターの夏生の存在感が目を引く。唯一無二の個性的なバンドだった。

続いて登場は、汝、我が民に非ズ。かつてパンクバンド「INU」で町田町蔵として活躍し、その後芥川賞作家となった町田康が率いるバンドである。演奏される曲はジャンルレス。ジャズ、ソウル、フュージョン、そしてパンクなど様々なフレーバーが漂う。けっこう難しそうな曲も多いのだが、それを軽々と演奏するメンバーが素晴らしい。その音楽に乗せて、町田康が歌う曲はやはり歌詞が秀逸。それを力強い歌声で届ける。彼が日本語を大切にしていることがわかるMCも印象深かった。このバンドは、確か一昨年に横浜で観た記憶があるのだが、その時に比べてバンドとしての成熟度が高まっているように思えた。

その後ステージに上がったのは戸川純だ。昨年秋の頭脳警察の50周年記念ライブ(duo MUSIC EXCHANGE)では、ピアノのおおくぼけいとのユニット「戸川純 avec おおくぼけい」での出演だったが、この日はバンド編成による演奏。緊迫感漂うパンキッシュな演奏だった。そのハイライトはやはり「パンク蛹化の女」だろう。パンク魂全開で叫ぶ戸川の歌声が観客を直撃する。足腰を痛めてから座って歌うことが多い彼女だが、この時ばかりは立ち上がってシャウトする。どんなに年を取ろうとも外見が変化しようとも、心の中のロック魂が健在なら、前に進んで行けることを実感させるステージだった。

そしてトリは頭脳警察。ここのところの定番メンバーである澤竜次(G)、宮田岳(B)、樋口素之助(Ds)、おおくぼけい(Key)を従え、PANTAとTOSHIが登場。1曲目は「間際に放て」でガツーンと脳天を一撃。続けて「わかってたまるか」「煽動」と畳みかける。これらの曲を聴いただけで、わずか数か月のうちにニュー頭脳警察がますます進化していることがわかる。

4曲目は50周年記念アルバムから「乱破者」。現在進行形の頭脳警察を印象付けたこの曲だが、演奏されるたびにパワーアップ。その後の「R★E★D 2019」「Quiet Riot」と併せて、ロック魂に満ちた熱くワイルドな演奏が、圧倒的な迫力でこちらに迫ってくる。

しばし激しい曲が続いた後、ジンワリと心に染みる佳曲「People」でいったんクールダウン。そして、「絵に描いたような頭脳警察を……」というPANTAのMCを受けて演奏されたのが、「銃をとれ」「ふざけるんじゃねえよ」。この頃には会場の熱気も最高潮。そして、この2曲から登場したのがSaxのナカムラルビイ。先ほどまでDJを担当していた彼女である。Saxプレイヤーにも様々なタイプがあるが、彼女のプレイはまさにロックそのもの。おかげで、聴き慣れた「銃をとれ」も「ふざけるんじゃねえよ」も、さらに荒々しくパワフルな曲となって現出した。この2曲を聴けただけでも、料金分元はとれたぞ!

ナカムラルビイは次の曲にも参加。それはロックンロール。とはいえ頭脳警察の曲ではない。いったい何の曲かと思ったら、澤竜次と宮田岳が所属する黒猫チェルシーの「廃人のロックンロール」だった。曲の最後にはPANTAが「老人のロックンロール」と歌う遊び心も。若いメンバーを集めた50周年頭脳警察らしいコラボだった。

その後に演奏されたのは、香港のバンド・ビヨンドの「海闊天空」だ。PANTAは先日のソロライブで、澤竜次にボーカルをとらせてこの曲を演奏しているが、この日は頭脳警察のステージでそれを披露。香港の雨傘運動でよく歌われていたというこの曲は、原曲も素晴らしいのだが、澤のボーカルとPANTAのコーラスによる演奏も味わい深い。この日は、そこにナカムラルビイのメロウなサックスも加わった。

本編最後は、現在公開中のドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のエンディングテーマ曲である「絶景かな」。とにかくこれは名曲。生で聴くとなおさら感慨深いものがある。

その後、アンコールに突入。町田康戸川純、赤いくらげのメンバーなども加わって、「コミック雑誌なんかいらない」で大いに盛り上がる。PANTA町田康戸川純が、それぞれにお互いに気を遣っていて、何だか微笑ましかったな。

最高のライブとしか言いようのない見事な一夜だった。惜しむらくはコロナ禍の開催であったこと。実は、この日はステージと客席の間に巨大なアクリル板が設置されていた。かなりの透明度で思ったほど気にはならなかったが、それにしても早くこの非日常の風景とおさらばしたいものだ。観客も満杯がいいものね。

終演後に渋谷の街に出てみたら、若者がワンサカと街に繰り出し、電車もけっこうな混みようだった。大丈夫なのか? コロナ禍なのに。と思いつつ、人のことは言えないと反省。何にしてもコロナ退散だぜ!

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