映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「マティアス&マキシム」

「マティアス&マキシム」
2020年10月1日(木)グランドシネマサンシャインにて。午後12時20分より鑑賞(シアター10/E-11)。

~繊細な感情表現が光るグザヴィエ・ドランによるシンプルな愛のドラマ

年を取ってもなかなか芽の出ない存在もあれば(ワタクシですがな)、若くしてその才能をいかんなく発揮する俊英もいる。カナダのグザヴィエ・ドラン監督もまさしく「若き俊英」としか言いようのない存在だろう。

2009年製作の「マイ・マザー」を皮切りに、「わたしはロランス」「胸騒ぎの恋人」「トム・アット・ザ・ファーム」「Mommy/マミー」「たかが世界の終わり」「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」と世界的に高評価の映画を次々に送りだしている。しかも、役者としても活躍している。これでまだ今年31歳なのだ。いやぁ~、もう笑っちゃうしかないですな。

前作「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」で初めてハリウッドで英語劇を監督したドラン監督。再びホームグラウンドのカナダに戻って、自身も出演して撮ったのが「マティアス&マキシム」(MATTHIAS ET MAXIME)(2019年 カナダ)である。ドラン監督が自身の監督作品に出演するのは、「トム・アット・ザ・ファーム」以来6年ぶりとのこと。

幼馴染みの30歳のマティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)は、友人の妹が学校の課題で製作する短編映画でキスシーンを演じるはめになる。ところが、それをきっかけに2人は、今まで自覚することのなかった相手への友情以上の感情に気づいてしまう……。

最初に言ってしまうと、この映画には冗長に感じられる部分が何カ所かあった。例えば、序盤でマティアスやマキシムをはじめ仲間たちが、どうでもいいような話を延々と繰り広げるシーン。あるいは、後半で2人にとって転機となるパーティーでのどんちゃん騒ぎの様子。映像的な工夫を施すなどしているとはいえ、個人的には退屈に思えてしまった。

とはいえ、さすがにドラン監督。それ以上に何度もハッとさせられるところがあった。実はマティアスとマキシムが演じるキスシーンは、その寸前で暗転させて観客に見せないのだ。ありがちとはいえ心憎い仕掛けである。中途半端なキスシーンを見せられるよりも、あれこれと2人の関係性を想像させられる。

ドラン監督の持ち味である繊細な感情描写にも抜かりはない。2人がキスシーンを演じた直後に、ブランコが揺れるシーンを挿入して、2人の心の乱れを表現する。あるいは翌朝、マティアスが湖を闇雲に泳いで迷子になってしまうシーンも、彼の心の戸惑いを巧みに示す。

その後の2人の心理描写も見事である。お互いに友情以上のものを感じたといっても、すぐに接近するようなことはない。何しろマティアスは弁護士として将来が嘱望されているエリートで、美しい婚約者もいるのだ。それだけに自らの思わぬ感情に動揺する。

一方、マキシムには問題を抱える母親がいて、常に衝突していた。そこから逃れるためか、彼はオーストラリアへ向かうことを計画していた。そんな中、自らの感情がマティアスとの友情を壊すのではないかと恐れ、その思いを覆い隠そうとする。

中盤以降は、そんな2人の日常が描かれる。一見して、それは今までと同じに見える日常だ。だが、その端々でそれぞれに違和感を感じたり、自らの感情に戸惑ったり、イラついたりする。そのあたりの感情の示し方のバランスが何とも絶妙なのだ。

もちろん、そこには同性愛に対するハードルの高さもあるのだろう。劇中では、特にそのあたりの事情は描かれていないのだが。

2人の関係に大きな転機が訪れるのは、マキシムの出発を祝うパーティーの場だ。そこで、マティアスはひたすら苛立ち、マキシムに冷たく当たる。そこで、それまで言及されることのなかったマキシムの顔のアザに触れるあたりも、よく考えられた展開だ。

その後、2人の関係は急展開を迎える。そこは、ひたすら美しい映像で彼らの愛が綴られる。ただし、それをきっかけに2人がズブズブの関係になったりはしない。両者ともに30歳。心のままに突き進むにはもはや微妙な年齢なのだ。

ラストは出発当日のマキシムの姿を描く。そこで、あることから意外な事実が判明し、何とも意味深なエンディングを迎える。はたして、あれはこの後の2人の関係がどうなることを暗示しているのだろうか。いろいろと想像させられる結末である。

マティアス役のガブリエル・ダルメイダ・フレイタスとマキシム役のドラン監督は、いずれも繊細な感情描写が光る演技だが、それ以上にマキシムの母親役を演じたアンヌ・ドルヴァルのイヤ~な母親ぶりが印象に残った。近日公開の「キングスマン ファースト・エージェント」で主役級に抜擢されたハリス・ディキンソンも、ちょっと微妙な役で出演している。

ドラン監督は自身も同性愛者であることを公言しており、過去作にもそうしたテーマの作品が多い。また、マキシムと母親との確執なども、過去作で描かれたテーマと共通している。そういう意味で特に驚きはないのだが、いかにもドラン監督らしい完成度の高い映画といえるだろう。特にいつも通りの繊細な心理描写には脱帽するしかない。

ドラン監督は日本でもヒットした「君の名前で僕を呼んで」に感銘を受けてこの作品を描いたそうだが、なるほど確かに共通するところが感じられる。同性愛を扱っているとはいえ、あまりそれを意識しないで、虚飾を排した繊細な愛のドラマとして観るべき作品だと思う。

ちなみに「君の名前で僕を呼んで」同様に、観客はほとんどが女性のようだが、先入観なしに見れば性別に関係なく楽しめるのでは?

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◆「マティアス&マキシム」(MATTHIAS ET MAXIME)
(2019年 カナダ)(上映時間2時間)
監督・脚本・製作:グザヴィエ・ドラン
出演:ガブリエル・ダルメイダ・フレイタスグザヴィエ・ドラン、ピア=リュック・ファンク、サミュエル・ゴチエ、アントワーヌ・ピロン、アディブ・アルクハリデイ、ハリス・ディキンソン、アンヌ・ドルヴァル、ミシェリーヌ・ベルナル、マリリン・キャストンゲ、カトリーヌ・ブリュネ
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ http://www.phantom-film.com/m-m/