映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

第33回東京国際映画祭~その2

今年の東京国際映画祭は昨日9日に終了。今回は新型コロナウイルスの影響でコンペティション部門の賞はなく、唯一存続した観客賞には、日本映画「私をくいとめて」(大九明子監督)が選ばれた。この映画については、劇場公開が近いので今回は鑑賞しなかったものの、会期中に計17本の映画を鑑賞。前回予告したように何回かに分けて、その感想を簡単に書きます。

*各作品の予告映像などは東京国際映画祭のホームページにあります。
https://2020.tiff-jp.net/ja/

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・1本目
「バイク泥棒」
2020年11月1日(日)TOHOシネマズ六本木にて。午後5時5分より鑑賞(スクリーン4)

~移民の苦悩と悲哀をリアルに切り取る

ロンドンでデリバリー業で家族を養うルーマニア移民の男が主人公。妻と娘と赤ん坊と暮らす彼は、ある時商売道具であるバイクの盗難に遭う。店の同僚のアドバイスで警察に行くが、書類の書き方を教えるだけで、すぐには捜査してくれない。店の社長に家庭の話として相談するが、「そうなったら自己責任だ」と宣告され事実を告げられない。どんどん追い詰められた彼は、ついに禁断の手に出るのだが……。移民の苦悩、悲哀をリアルに描いた社会派サスペンスだ。ケン・ローチ作品にも通じるテーマを持つ作品だが、こちらはよりダークでスリリングなタッチ。危険に満ちたロンドンの夜景も印象的。あまりにも皮肉な結末に虚しさがこみあげてきた。

◆「バイク泥棒」(THE BIKE THIEF)
(2020年 イギリス)(上映時間1時間19分)
監督:マット・チェンバーズ
出演:アレック・セカレアヌ、アナマリア・マリンカ、ルシアン・ムサマティ

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・2本目
「恋唄1980」
2020年11月2日(月)TOHOシネマズ六本木にて。午前10時20分より鑑賞(スクリーン5)

~喪失感を抱えた男女の繊細な恋愛劇

舞台は1980年代、改革開放の時代の中国。大学生の兄と高校生の弟。やがて兄は亡くなり、弟は大学に進学。そこで兄の恋人だった女性と再会する……。兄を亡くした弟と、兄の恋人だった女性、そしてもう一人の謎めいた女性による恋愛ドラマ。登場人物は誰もが喪失感を抱え、恋愛の波間を漂う。ベタな恋愛ドラマになりがちな素材だが、ロウ・イエ監督作品の脚本家で、デビュー作「ミスター・ノー・プロブレム」で2016年の東京国際映画祭芸術貢献賞を受賞したメイ・フォン監督が、独特のタッチで男女の微妙な心理状態をあぶり出す。饒舌さとは無縁。観客の想像を促す余白を残す。自然の光景など映像の美しさも魅力的。

◆「恋唄1980」(LOVE SONG 1980/恋曲1980)
(2020年 中国)(上映時間2時間7分)
監督:メイ・フォン
出演:リー・シェン、ジェシー・リー、マイズ
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・3本目
「ティティ」
2020年11月2日(月)TOHOシネマズ六本木にて。午後4時50分より鑑賞(スクリーン4)

~身勝手な物理学者とロマの女性の心のふれあいを

入院中のエリート物理学者と病室清掃係のロマの女性が知り合う。物理学者はブラックホールの謎に関わる数式を紙に書き留めるが、その直後に意識を失う。回復した彼は数式を覚えておらず、どこかに消えた紙の行方を必死で追う。その過程で次第に清掃係の女性と心を通わせるのだが……。ブラックホールの謎、代理出産、超能力(?)など様々なネタを織り込みつつ、2人の関係やそれぞれの心の変化を描くユニークなイラン映画。何よりも他に類を見ないロマの女性のキャラが魅力的。ラストもなかなか粋な終わり方。最初は研究のことしか考えず身勝手だった教授のさりげない変化が描かれ、温かな気持ちになれた。

◆「ティティ」(TITI)
(2020年 イラン)(上映時間1時間42分)
監督:アイダ・パナハンデ
出演:エルナズ・シャケルデュースト、パルサ・ピルーズファル、ホウタン・シャキバ

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・4本目
「皮膚を売った男」
2020年11月3日(火)TOHOシネマズ六本木にて。午前10時25分より鑑賞(スクリーン4)

~大胆な発想で移民の波乱の運命を描く風刺寓話

シリアで不法逮捕され脱出した男が、恋人とも別れてレバノンに逃亡する。そこで現代アートの巨匠から、自身の背中を作品として提供するようオファーを受け、それを受け入れる。だが、そこから彼の苦難が始まる……。移民難題や貧困問題、さらには現代アートのウソ臭さなども視野に入れて、痛烈な皮肉とともに描いた風刺寓話。自由を求めてアート作品になったはずの男が逆に不自由な生活を強いられる皮肉。社会派の側面を持ちながらもエンタメ性十分で、特に終盤の二転三転する展開には度肝を抜かれた。今回観た中でも一、二を争う面白さの作品だった。

◆「皮膚を売った男」(THE MAN WHO SOLD HIS SKIN/L'Homme Qui Avait Vendu Sa Peau)
(2020年 チュニジア・フランス・ベルギー・スウェーデン・ドイツ・カタールサウジアラビア)(上映時間1時間44分)
監督:カウテール・ベン・ハニア
出演:モニカ・ベルッチ、ヤヤ・マへイニ、ディア・リアン

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・5本目
「ノー・チョイス」
2020年11月3日(火)TOHOシネマズ六本木にて。午後12時40分より鑑賞(スクリーン5)

~イラン社会の闇をえぐる緊張感に満ちたドラマ

16歳のホームレスの少女が、夫と称する男から金のために代理出産をさせられそうになる。それを知った人権派の女性弁護士が、彼女を救うために立ち上がる。その過程で不同意の不妊手術の事実が明らかになり、ある一人の女性医師にたどりつくのだが……。サスペンスフルな映像をはじめ、半端でない緊張感が全編を貫く。後半には法廷劇も用意され、謎解きの映画としてもなかなかの作品だが、何よりもイラン社会の闇をえぐり出す筆致が鋭い。ホームレス問題や社会福祉の不備、司法の腐敗など負の側面が容赦なく描かれる。衝撃的なラストに言葉を失う。

◆「ノー・チョイス」(NO CHOICE/Majboorim)
(2020年 イラン)(上映時間1時間48分)
監督:レザ・ドルミシャン
出演:ファテメ・モタメダリア、ネガール・ジャワヘリアン、パルサ・ピルズファル

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・6本目
「MARU 夢路」
2020年11月3日(火)TOHOシネマズ六本木にて。午後2時40分より鑑賞(スクリーン6)

~姉妹の絆と確執を描く美しく哀しい映像詩

マレーシア・日本合作で後半は日本が舞台となる作品。心を病んだ母を持つ姉妹。母が亡くなり、家を出ていた姉が久々に妹と再会する。2人はしばらく一緒に暮らすものの、妹は突然姿を消す。やがて妹の訃報が日本からもたらされる……。姉妹の絆と確執を描いたドラマ。セリフは最低限。時制が入り乱れ、現実と非現実を行き来しつつ、美しい映像で見せる映像詩。どのシーンも独特の美学に貫かれ、全編にもの悲しさとミステリアスさが漂う。終盤の衝撃的な展開にはビックリさせられた。永瀬正敏水原希子も出演。音楽は細野晴臣。11月13日から日本公開予定。

◆「MARU 夢路」(MALU/无马之日)
(2020年 マレーシア・日本)(上映時間1時間52分)
監督:エドモンド・ヨウ
出演:セオリン・セオ、メイジュン・タン、永瀬正敏水原希子

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