今年の東京国際映画祭で観た17本の映画を紹介するシリーズ。いよいよ今回が最後となります。
*各作品の予告映像などは東京国際映画祭のホームページにあります。
https://2020.tiff-jp.net/ja/
・13本目
「息子の面影」
2020年11月7日(土)TOHOシネマズ六本木にて。午前12時20分より鑑賞(スクリーン5)
~行方不明の息子を捜す母の衝撃の社会派サスペンス
仕事を求めてメキシコから国境を超えてアメリカを目指す息子。だが、まもなく一緒に行った友人が遺体で見つかる。一方、行方不明になった息子を捜すため母は国境近くへ足を運ぶのだが……。不穏な空気が漂うミステリー・サスペンス。同時に不法移民をはじめ貧困層を取り巻く過酷な状況を映し出す社会派ドラマでもある。様々な情報をもとに息子の行方を追う母と、アメリカから強制退去になった一人の青年がやがて交差し、想像もできない衝撃的な結末へと向かう。荒涼たる自然の風景や悪魔をイメージさせる犯人たちの姿など、鮮烈な映像も印象的。
◆「息子の面影」(IDENTIFYING FEATURES/Sin Señas Particulares)
(2020年 メキシコ・スペイン)(上映時間1時間35分)
監督:フェルナンダ・バラデス
出演:メルセデス・エルナンデス、ダビ・イジェスカス、フアン・ヘスス・バレラ
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・14本目
「足を探して」
2020年11月7日(土)TOHOシネマズ六本木にて。午後3時40分より鑑賞(スクリーン5)
~グイ・ルンメイの新たな一面が見られるユニークなコメディ
敗血症で足を切断した夫。それでも結局命を落とす。妻は遺体を搬送する段になって、切断した足がないことに気づき、病院内を必死で探すのだが……。そんな現在進行形のドラマと並行して夫婦の過去を描く。社交ダンスを通じて結ばれた2人だが、夫は不祥事ばかり起こして、ついに2人は離れて暮らすようになったのだ。全編笑いが満載のコメディ。最大の見どころは「藍色夏恋」「薄氷の殺人」「鵞鳥湖の夜」のグイ・ルンメイが新たな一面を見せているところ。ヤクザ相手に一歩も引かずしたたかに渡り合い、下ネタを繰り出して笑いを誘う。ダンスシーンもなかなかのもの。最後は夫婦の絆でホッコリさせてくれる。
◆「足を探して」(A LEG/腿)
(2020年 台湾)(上映時間1時間55分)
監督:チャン・ヤオシェン
出演:グイ・ルンメイ、トニー・ヤン
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・15本目
「マリアの旅」
2020年11月7日(土)TOHOシネマズ六本木にて。午後6時40分より鑑賞(スクリーン4)
~若い女性との出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す老女
ベルギーで心臓発作で入院した老女マリアが若い女と相部屋になる。最初は傍若無人な彼女を嫌悪するが、同じスペイン出身と知り次第に心を通わせる。やがてその女は難病で命を失う。かわいそうに思ったマリアは遺灰を持って彼女の実家まで旅をする……。マリアは訪問先の村で、変わったバーのオーナーや亡くなった女の元カレなどと出会い、今までの人生では想像もできなかった様々な経験をする。そうするうちに、最初はほとんど無表情で疲れた表情をしていたマリアが、どんどん豊かな表情になり生き生きとする姿が印象的。年齢に関係なく、新たな一歩を踏み出せることを示したロードムービー。
◆「マリアの旅」(THAT WAS LIFE/La vida era eso)
(2020年 スペイン)(上映時間1時間49分)
監督:ダビッド・マルティン・デ・ロス・サントス
出演:ペトラ・マルティネス、アンナ・カスティーリョ、フローリン・ピエルジク・Jr.
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・16本目
「HOKUSAI」
2020年11月8日(日)TOHOシネマズ六本木にて。午後12時50分より鑑賞(スクリーン6)
~葛飾北斎の絵にかける執念に迫る
多くの謎に包まれた絵師・葛飾北斎の伝記映画。1章&2章の若き日を柳楽優弥、3章&4章の晩年を田中泯が演じる。版元の蔦屋重三郎、戯作者の柳亭種彦らとのエピソードを中心に、北斎の絵にかける壮絶な執念を描写。特に病に倒れてもなお絵にすべてを注ぎ込む晩年の姿には、ただ圧倒されるばかり。存在感十分の田中泯の表情やしぐさから、多くのことが伝わってくる。幕府の表現の自由に対する抑圧もドラマの大きなポイント。終盤の柳亭種彦に対する弾圧と、それに対する北斎の憤りは、今の時代にも通底するものがある。来年一般公開予定とのこと。
◆「HOKUSAI」
(2020年 日本)(上映時間2時間9分)
監督:橋本 一
出演:柳楽優弥、田中泯、阿部寛
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・17本目
「メコン2030」
2020年11月8日(日)TOHOシネマズ六本木にて。午後3時30分より鑑賞(スクリーン5)
~10年先のメコン河をテーマにした流域5カ国の若手監督によるオムニバス
「2030年のメコン河」をテーマにした流域の5カ国の若手監督によるオムニバス映画。森林破壊が進んだ森で仏像を発見した男と、その土地の管理人が売却を巡って起こす諍い。貴重な血液を持つ母を取り合う兄と姉の争いに巻き込まれる弟。奥地の村の金山の開発を巡って苦悩する若い村長。個展で上映するメコン河の映像についてのあれこれ。僧侶に不眠の相談をする若いカップルと昔別れた恋人たち。2030年という近未来がテーマだけに、環境問題、貧困問題、金銭欲など様々な素材が取り上げられている。なかには難解ですぐには理解できない作品もあったが、流域の人々にとってメコン河の存在がいかに大きいかはよく伝わってきた。
◆「メコン2030」(MEKONG 2030)
(2020年 ラオス/カンボジア/ミャンマー/タイ/ベトナム)(上映時間1時間33分)
監督:ソト・クォーリーカー、アニサイ・ケオラ、サイ・ノー・カン、アノーチャ・スウィチャーゴーンポン、ファム・ゴック・ラン
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以上が今回鑑賞した17本。例年のようなコンペがないなど、イマイチ盛り上がりに欠けるのも事実だったが、それでも世界から集められた作品だけに、どれもバラエティーに富んでいて見応えがあった。
さて、こうしてまた日常に戻ったわけで、次回からはまた普通に映画館で観た映画の感想を書きます。