映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「サイレント・トーキョー」

「サイレント・トーキョー」
2020年12月4日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時20分より鑑賞(スクリーン7/D-11)

~渋谷の街の爆破シーンを体感するだけでもモトはとれる!?

日本では珍しいド派手な爆破シーンが満載の映画。それが「サイレント・トーキョー」である。秦建日子ジョン・レノンオノ・ヨーコの楽曲「Happy Xmas(War Is Over)」にインスパイアされて執筆した小説「サイレント・トーキョー And so this is Xmas」を映画化したクライムサスペンスだ。

クリスマスイブの東京。主婦の山口アイコ(石田ゆり子)が恵比寿で買い物をしている。その後彼女はベンチに腰を下ろす。ちょうどその頃、テレビ局に爆弾テロの犯行予告の電話が入り、来栖公太(井之脇海)は先輩とともに恵比寿の指定の場所へと向かう。そこでベンチに座ったまま動けずにいるアイコと出会った2人は、そのベンチに爆弾が仕掛けられていると告げられる。

序盤は恵比寿の爆弾騒動。たまたま買い物に来たらしいアイコと、テレビ局のバイト社員の公太が事件に巻き込まれていく。事件の真相がわからないままに、事態だけが動いていく不安がスクリーンを覆いつくす。刑事の世田志乃夫(西島秀俊)をはじめ、登場人物が事件にどう絡んでいくのかも謎だ。

犯人は次なるターゲットとして渋谷・ハチ公前を狙う。爆弾を午後6時にセットし、首相との生対談を要求してきたのだ。もちろん要求を飲まなければ爆弾は爆発する。だが、人々は興味本位で現場近くへと集まってくる。そして、実際に爆弾は爆発する。

この爆破シーンが圧巻だ。ハリウッドともいい勝負、というのは言い過ぎだろうが、それにしても渋谷の街の真ん中でこんな場面を撮影するとは。と思ったら、驚くことにこのシーンは、渋谷スクランブル交差点の巨大オープンセットを建設して撮影したものだという。どこから見ても、本物にしか見えない迫真性を持ったシーンである。この場面だけでも観る価値があるというのは言い過ぎか。

この爆破の後、犯人は東京タワーに狙いを定める。警察は須永基樹(中村倫也)という若き起業家をマークするが、彼は犯行の片棒を担がされていただけで、本当の犯人は別のところにいることがわかる。それが朝比奈仁(佐藤浩市)という人物だ。さっそく警察は朝比奈のもとに向かうのだが……。

最初のうちこそスリリングで、不穏な空気が漂うドラマだったのだが、途中からは完全に失速気味。描こうとすることはわかるのだが、それがすべてうわっ滑りになっている。山浦雅大の脚本が物足りない。原作を約100分の尺に収めるのは、並大抵の努力でないのはわかっているのだが。

だいたい話自体が杜撰だ。冒頭でアイコが椅子に腰を下ろすのだが、彼女が座る前はどうなっていたのだ?そこに仕掛けられた爆弾は、重量がかかることで爆発を抑制している。つまり、重さがなくなると爆発する。それなのに彼女が座るまでは何事もなかったのか?というわけで、よく考えればここでドラマは終わっている。

全体に都合のよすぎる展開も目につく。世田たちが須永に職質した後で、偶然渋谷の雑踏で彼を見つける展開には苦笑してしまった。あのものすごい人出でよく見つけたものである。おまけに知り合いの女の子たちも、彼を見つけて追跡する。須永君モテモテである。

そして、これは決定的な本作の欠点なのだが、筋を追うことに汲々としていて、登場人物の掘り下げが甘いのである。特に須永が犯行に加担する背景には複雑な親子関係があるらしいのだが、どうにもそれが納得できない。母ちゃんを捨てて出て行った父ちゃんが、今さら戻ってきたところで関係ないではないか。警察に突き出してやればいいのである。他の人物も似たようなものである。

なので、せっかくの豪華キャストを揃えたのに、それがまったく生きていない。あげくに佐藤浩市石田ゆり子は主演とはいっても、出番はそれほど多くないのだ。若き日の2人は、別の役者が演じているからさらにその感が強い。

そんな中、個人的に最も印象的な演技を披露していたのは広瀬アリスである。渋谷の爆破に巻き込まれたトラウマを、「これでもか!」と渾身の叫びで表現していた。妹のすずばかりが注目されるが、こちらの演技もなかなかのものである。

終盤になって犯行の全体像が浮かび上がる。日本を戦争のできる国にしようとする首相VS本当の戦争を知っている犯人、という図式はこの手の話でよく出てくるが、狂った夫から爆弾教育を仕込まれる妻の話は目新しいかも。しかし、犯行動機がイマイチ納得できずにモヤモヤ。

それにしても原作は未読なのだが、どんなものなのだろう。文句を言いながらも原作を読みたくなった私は、まんまと敵の術中にはまったのかもしれない。サイレント・トーキョー。恐るべし。

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◆「サイレント・トーキョー」
(2020年 日本)(上映時間1時間33分)
監督:波多野貴文
出演:佐藤浩市石田ゆり子西島秀俊中村倫也広瀬アリス井之脇海勝地涼、毎熊克哉、加弥乃、白石聖、庄野崎謙、金井勇太大場泰正野間口徹財前直見鶴見辰吾
*丸の内TOEIほかにて全国公開中
https://silent-tokyo.com/