「ソング・トゥ・ソング」
2020年1月11日(月)新宿シネマカリテにて。午後12時10分より鑑賞(スクリーン2/A-4)。
~マリック監督が手がける究極の映像と音楽の美学
テレンス・マリック監督は、唯一無二の個性を持つ作品を送り出してきた。「名もなき生涯」「ツリー・オブ・ライフ」「天国の日々」「聖杯たちの騎士」など、どんなテーマを描いても圧倒的な映像美に彩られた作品ばかりである。同時に、分かりにくい作品が多いのも特徴だ。好き嫌いははっきりと分かれるだろう。
4人の男女を中心にした恋愛模様を描いた「ソング・トゥ・ソング」も同様だ。撮りようによっては、ありふれた恋愛ドラマになりがちな素材だが、マリック監督が撮ると違う。今回は、「ゼロ・グラビティ」などで3度アカデミー賞を受賞している名カメラマンのエマニュエル・ルベツキが撮影を担当していることもあり、いつも以上にアーティスティックな作品に仕上がっている。
音楽の街、オースティンが舞台だ。売れないソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)は、フェイ(ルーニー・マーラ)とつきあっていた。2人は幸せそうだったが、実はフェイは大物プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)とも関係を続けていた。
やがてBVは自作の権利関係を巡ってクックとトラブルになる。さらにフェイがクックとつきあっていたことを知ったBVは心穏やかでいられない。一方、恋愛をゲームのように楽しむクックは夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を誘惑するが……。
ストーリー自体はベタな恋愛映画だが、そこはマリック監督の作品。分かりやすい作品を期待してはいけない。物語は細分化され、時間や場所の連続性を欠いたショットがコラージュのようにつなげられる。カメラは縦横無尽に動き回り、川の流れなどの自然の風景から男女の絡みのカットまでをとらえる。よくもこんなショットを考え付くものだと感心するばかりである。
細かな説明はない。セリフ以外に様々な人物の独白で進む物語。観客はその言葉の端々から4人の関係を類推するしかない。
全体を包む雰囲気は沈鬱だ。登場人物は孤独を抱え、必死で幸せを追い求めるがうまくいかない。打算の愛と真実の愛が交錯する。
映像は相変わらず美しい。美しすぎてため息が出る。分かりにくさをガマンして、その美しい映像を堪能していると、やがて神々しいまでのラストシーンにたどり着く。ラストはBVとフェイの再出発を描く。ここも圧倒的な映像美が展開される。
音楽業界を取り上げた作品だけに、大物ミュージシュンが多数出演しているのも本作の特徴だ。特にパティ・スミスは主要な人物の1人と言ってもいいだろう。そのほかにも、リッキー・リー、イギー・ポップ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ジョニー・ライドンなどが登場する。
そしてマイケル・ファスベンダー、ライアン・ゴズリング、ルーニー・マーラ、ナタリー・ポートマンという名うての実力派俳優の演技も見もの。特にルーニー・マーラは出色の演技だ。とはいえ、全員がマリック監督の個性に染まっているので、イマイチ存在感は薄いかもしれない。
良くも悪くもマリック色の映画だ。芸術性の高さは一級品だけに、頭であれこれ考えるよりも、アートのような映像世界に身を浸してみる方がいいかもしれない。
◆「ソング・トゥ・ソング」(SONG TO SONG)
(2017年 アメリカ)(上映時間2時間8分)
監督・脚本:テレンス・マリック
出演:マイケル・ファスベンダー、ライアン・ゴズリング、ルーニー・マーラ、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ベレニス・マルロー、ヴァル・キルマー、リッキー・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、フローレンス・ウェルチ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ http://songtosong.jp/