映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「キング・オブ・シーヴズ」

「キング・オブ・シーヴズ」
2021年1月20日(水)TOHOシネマズシャンテにて。午後12時30分より鑑賞(スクリーン1/H-13)。

~ジイサン窃盗団の犯行と哀切漂うその後

高齢化社会だけに高齢者による犯罪も目につく。そんな中でもそんじょそこらの犯罪とは格が違うのが、2015年にイギリスで起きた窃盗事件。史上最も高額の金品を金庫から盗んだのは、なんと最高齢の金庫破り集団だった。というわけで、その顛末を映画化したのが「キング・オブ・シーヴズ」だ。

映画の冒頭で妻と食事をしているのは、かつて「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれた男ブライアン(マイケル・ケイン)。今は裏社会からも足を洗い、穏やかな老後を送っていた。

だが、まもなく妻が死亡する。そんな中、知り合いのバジル(チャーリー・コックス)から、ロンドン随一の宝飾店街「ハットンガーデン」での金庫破りを持ちかけられる。そこでブライアンは、かつての仲間のテリー(ジム・ブロードベント)やケニー(トム・コートネイ)、ダニー(レイ・ウィンストン)、カール(ポール・ホワイトハウス)らを集めて窃盗団を結成する……。

いわばジイサンたちの金庫破りを描いた映画。「博士と彼女のセオリー」のジェームズ・マーシュ監督が、その模様をスタイリッシュかつスピーディに描写する。

ブライアンが再び悪事に手を染めるのは、妻を亡くした空疎な心があるようだ。生きる気力をなくした彼にとって、バジルの誘いは希望の灯に見えたのかもしれない。生前、妻から悪事を働かないように念押しされていたが、それも今となっては虚しい。

しかし、これがまあ杜撰な計画なのだ。何度も警報が鳴ったり、思うように壁を突き破れないなど、予想外のことが続出する。挙句は、一度撤収して夜にまた来ようなどと言い出す始末である。しかも、その間、年寄ネタが炸裂する。糖尿病をはじめお互いの持病を嘆くばかりか、仲間割れまで始めるのだ。これが笑わずにいられようか。

結局、ブライアンは途中でいなくなってしまう。それでも残りのメンバーは何とか大量の金品を盗み出すことに成功する。その総額25億円相当!

あとは逃走して悠々自適の生活を送るはずだった。だが、そこで問題が起きる。分け前を巡ってバトルが始まるのだ。メンバーはお互いに疑心暗鬼になり、隙あらば他のメンバーを出し抜こうとする。そこには途中で抜けたはずのブライアンも加わる。彼は若いバジルと組んで、分け前を手に入れようとする。

一方、警察は犯人たちのバトルを尻目に、監視カメラを分析したり、盗聴器を仕掛けたりして着実に彼らを追い詰める。ここも無言の警官を配してスタイリッシュに、テンポよく警察の捜査劇を展開する。

そしてついに……。

オーシャンズ11」のようなゴージャスで軽妙なケイパームービーを期待してはいけない。派手さは皆無の映画だ。前半こそ高齢者窃盗団の生き生きした姿に心が湧きたつが、後半のグダグダの展開はエンターティメントとしての盛り上がりに欠ける。だが、その分リアルさは十分だ。実話であることを意識して見れば、説得力満点の映画である。

映画の中で、メンバーの若き日の姿をチラリと見せる場面がある。その落差に驚かされる。雀百まで踊り忘れずとばかりに強盗に乗り出したものの、往時の輝きなど望むべくもない。強盗に再チャレンジする事情も人それぞれで、それゆえ私利私欲が露見する。そして寄る年波には勝てずにあっさり御用となる。そこには何やら哀切が漂うのである。

ベテラン役者の存在感が光る。マイケル・ケインをはじめ、ジム・ブロードベントマイケル・ガンボントム・コートネイ、ポール・ホワイトハウスマイケル・ガンボンレイ・ウィンストンが実にいい味を出している。何よりもそのクセモノ感漂うツラ構えが素晴らしい。

実話ということで、最後には後日談がさりげなく告げられる。驚くのは彼らが盗んだ金の大部分が戻っていないことだ。そして今も「アイツ」が捕まっていないのである。結局、最も翻弄されたように見えて、一番したたかだったのはアイツかもしれない。

 

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◆「キング・オブ・シーヴズ」(KING OF THIEVES)
(2018年 イギリス)(上映時間1時間48分)
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:マイケル・ケインジム・ブロードベントトム・コートネイ、チャーリー・コックス、ポール・ホワイトハウスマイケル・ガンボンレイ・ウィンストン
*TOHOシネマズシャンテほかにて公開中
ホームページ https://kingofthieves.jp/