映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ヤクザと家族 The Family」

「ヤクザと家族 The Family」
2021年1月29日(金)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後1時10分の回(スクリーン3/F-18)

~家族を求めた孤独なヤクザの物語

ほぼ死滅したと思っていたヤクザ映画。だが、ここのところ井筒和幸監督の「無頼」、そして藤井道人監督の「ヤクザと家族 The Family」と立て続けに新たなヤクザ映画が登場した。

「ヤクザと家族 The Family」は「新聞記者」「宇宙でいちばんあかるい屋根」の藤井監督のオリジナル脚本による作品。「新聞記者」のスタッフが中心になって作られたという。

文字通りヤクザ映画である。冒頭に海中を水死体が浮遊する姿が映る。実は、これ、映画の終盤につながるシーンなのだ。

1999年。父親を覚せい剤で亡くし、天涯孤独となった19歳の山本賢治綾野剛)は、その日暮らしの生活を送っていた。そんなある日、行きつけの食堂で飲んでいた山本は、そこに居合わせた柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救う。やがて、柴咲は山本に手を差しのべ、2人は父子の契りを結ぶ。

2005年、山本はヤクザの世界で男を上げる。そんな中、山本はキャバクラのホステスをしていた由香(尾野真千子)に好意を持つ。強引に迫る山本だが、由香は断固として拒否する。それでも2人は少しずつ距離を縮める。だが、柴咲組のライバル侠葉会との争いの中で、若頭の中村が侠葉会の男を刺してしまう。山本は組織を守るため身代わりに刑務所に入る。

2019年、14年の刑期を終えて出所した山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。組員も減少し、資金面も厳しくなっていた。そんな中で、山本は由香と再会するのだが……。

というわけで、3つの時代を通して描かれるヤクザ映画である。それは同時に家族のドラマでもある。実の親を亡くし、自暴自棄になっていた山本に柴咲組組長・柴咲博が目をかける。柴咲は昔気質のヤクザだ。麻薬取引は行わず義理人情を重んじる。まさに父親のような包容力を持った男なのである。

しかも、演じているのは舘ひろしである。セリフは少ないものの、その背中が多くを物語る。「行くとこあるのか?」のセリフだけで、山本は号泣してしまうのである。こうして山本は柴咲組に疑似家族を見出す。

家族のドラマはまだある。山本たちが足繁く通う食堂の店主・愛子(寺島しのぶ)の亡き夫は柴咲の弟分だった。だが、彼は抗争の中で殺されてしまう。そして愛子には息子の翼がいた。食堂の片隅で勉強をする翼に、山本は「俺達のようになるなよ」と言う。

しかし、出所した山本の前に現れた22歳の翼(磯村勇斗)は、夜の街を仕切る存在になっていた。彼は秘かに父の仇を討とうと思っていた。

そして3つめの家族のドラマがある。山本自身のドラマである。山本が再会した由香には、14歳になる娘がいた。山本は2人のために、ヤクザをやめようとするのだが……。

正直なところ、この由香と娘のドラマは既視感ありありである。「まさかそんなお手軽な展開にはなるまい」と思っていたら、本当にそうなってしまった。

ただし、その後の展開を考えれば、あれしかなかったのかという思いもある。家族をテーマにしたドラマということを考えれば、なおさらである。

終盤は切ない展開が待っている。時代はもはやヤクザの存在を許さない。山本のかつての仲間は言う。「ヤクザをやめても5年間は人間扱いされない」。その間は銀行口座も持てず、保険にも入れず、住宅の確保にも不自由するありさまだ。

それは社会が抱える矛盾だ。かつては必要悪としてその存在を黙認してきたヤクザを、今は社会が袋叩きにする。現役の組員ならまだしも、組をやめた者に対してもだ。

山本はヤクザだったというその一点において、愛する者を傷つけてしまう。ごく平凡な、何気ない日常を望み、その願いが叶いつつあったのに。

そんな山本の心情がストレートに告げられる場面が、とても切ない。その姿には哀愁が漂う。そして、行き場をなくした彼が選んだのは……。

綾野剛の多面性ある演技が素晴らしい。金髪で突っ張って生きていた時も、柴咲組の一員として肩で風を切っていた時も、乱暴な口調の隙間から繊細な感情が覗く。特に終盤の演技は過去の出演作の中でも出色だろう。

そして舘ひろし。貫禄である。一度だけ啖呵を切る場面があるが、それ以外は基本はおとなしい。それでも、そこにいるだけで存在感がある。終盤で癌に侵された姿も印象深い。

ヤクザ役の北村有起哉市原隼人菅田俊、康すおんなども、いずれも顔つきや体全体から発する雰囲気はヤクザそのもの。それでいて、滅びゆく者の哀しさも体現した演技だった。敵対するヤクザの豊原功補のえげつなさ、丸暴刑事役の岩松了の憎々しさも半端なかった。

家族という切り口で描いた新たなヤクザ映画だ。社会の在りように対する疑問も提示される。作り手の気概とこだわりを感じさせる作品である。

 

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◆「ヤクザと家族 The Family」
(2021年 日本)(上映時間2時間16分)
監督・脚本:藤井道人
出演:綾野剛舘ひろし尾野真千子北村有起哉市原隼人磯村勇斗菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎駿河太郎岩松了豊原功補寺島しのぶ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://yakuzatokazoku.com/