映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」

「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」
2021年3月6日(土)シネマート新宿にて。午後1時45分より鑑賞(スクリーン1/D-11)

~数々の名優たちが演じる戦場の英雄をめぐる真実

クリストファー・プラマーウィリアム・ハートエド・ハリスサミュエル・L・ジャクソンピーター・フォンダジョン・サヴェージ……。これだけすごい役者が出ていたら、見ないわけにはいかんでしょう。しかも、クリストファー・プラマーピーター・フォンダは、もうこの世にいないのだから。というわけで、「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」を鑑賞した。

ベトナム戦争で多くの兵士の命を救った実在の米空軍兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーの知られざる真実を描いた社会派ドラマだ。

1999年。ペンタゴン空軍省のエリート職員スコット・ハフマン(セバスチャン・スタン)は、ベトナム戦争で活躍した医療兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーの名誉勲章授与についての調査を命じられる。ピッツェンバーガーは敵の奇襲を受けて孤立した陸軍中隊の救助に向かい、多くの命を救ったが、最後は敵の銃弾に倒れる。その功績は名誉勲章に値すると両親や戦友たちは請願を繰りしてきたが、なぜか30年以上も却下され続けてきたのだ。ハフマンはピッツェンバーガーを知る退役軍人たちの証言を集めるうちに、叙勲を阻み続けた驚くべき陰謀の存在を知る。

映画はハフマンが真実に迫る調査の行方と、ベトナム戦争当時の戦場での出来事が並行して描かれる。

ハフマンは長官の辞任が決まり、自分の身の上もどうなるかわからない中で、調査を命じられる。実は、その命令そのものにも裏があるのだが、とにもかくにも調査を始める。とはいえ、最初は当然ながら乗り気でない。

しかも、証言する退役軍人たちはクセモノ揃いだ。ピーター・フォンダが演じる男など、戦争のトラウマで何十年も昼夜が逆転したままで、常に銃を抱えている。半端でないブチ切れ方だ。

サミュエル・L・ジャクソンもまた然り。ハフマンが証言を録音するために持参したICレコーダーを、いきなり川にぶん投げる。

その他、エド・ハリスウィリアム・ハートらも心に深い傷を抱えている。

そんな中、亡くなったピッツェンバーガーの両親は、息子のことを想い続けている。ことさらに表立った悲しみを見せない分、余計にその喪失感を感じさせる。特にクリストファー・プラマー演じる父親は、ガンで余命わずかという中で、何とか息子の叙勲を実現したいと思っている。

ハフマンは苦労しながらも、地道に彼らの証言を集めていく。そうするうちに、ピッツェンバーガーの勇気ある行動に心を打たれるとともに、なぜ30年にも渡って叙勲を拒まれ続けたのか疑問に思うようになる。

そんな現在進行形のドラマと並行して、ベトナムでの戦場の様子がこれでもかとばかりに描かれる。それは息を飲むほどの緊迫感と残虐さに満ちている。銃撃や爆撃で兵士が死ぬシーンはリアルで、思わず目を背けたくなる。

そんな中、ピッツェンバーガーは周囲が止めるのも聞かずに、ヘリコプターから降りて孤立した陸軍中隊の救助に向かう。ここで大きな意味を持つのが、彼が医療兵だという点だ。ピッツェンバーガーは敵を倒すためではなく、命を救うために戦ったのである。そして多くの命を救い、最後は敵の銃弾に倒れた。この戦場場面があるからこそ、彼の叙勲話が説得力を持つのである。

それにしても、なぜピッツェンバーガーの叙勲は阻まれ続けたのか。そこには政治的な思惑があったのだ。詳しいことは書かないが、ある大物議員の過去に関係している。

ハフマンは、出世の誘いも断ってその真実を明らかにすることを決意する。そのあたりの終盤の展開は、「本当にそんなことがあったのか?」というぐらい劇的だが、多少は盛っているにしても実話なのだろう。

いずれにしても、セレモニーで1人ずつ起立していく場面は、絵的にも見栄えがして感動が高まる仕掛けだ。脚本・監督のトッド・ロビンソンの作品を観るのは初めてだが、なかなかの手練れと見た。ハフマンの変化を描くだけでなく、家族のドラマも織り込むなど、そつのない脚本と演出だ。

そして、何といっても遺作となったピーター・フォンダ!最後にハフマンに投げかける熱い言葉が印象深い。彼にとって遺作にふさわしい役どころといえるのではないか。合掌。

エンドロールでは実際の退役軍人たちが登場して、ピッツェンバーガーについて語る。

本作は、自らの命も顧みずに仲間を救った兵士の英雄譚であることは間違いがない。ただし、その戦場でどれだけ悲惨な出来事が起きて、それによってどれだけ多くの兵士が苦しめられたのかを描いた点で、控えめながら反戦映画的な要素もある。数々の名優が出演したのも、そのためではないのだろうか。

 

f:id:cinemaking:20210310205357j:plain

◆「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」(THE LAST FULL MEASURE)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間56分)
監督・脚本:トッド・ロビンソン
出演:セバスチャン・スタンクリストファー・プラマーウィリアム・ハートエド・ハリスサミュエル・L・ジャクソンピーター・フォンダジョン・サヴェージジェレミー・アーヴァインダイアン・ラッドエイミー・マディガン、アリソン・スドル、ライナス・ローチ、デイル・ダイ、ブラッドリー・ウィットフォード
*シネマート新宿ほかにて公開中
ホームページ http://thelastfullmeasure.ayapro.ne.jp/