映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「21ブリッジ」

「21ブリッジ」
2021年4月13日(火)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時40分より鑑賞(スクリーン3/D-16)

チャドウィック・ボーズマン最後の主演作は緊迫感漂うアクション映画

先日某役所に出向いたら、偶然にも同姓同名(しかも字まで一緒)の人と鉢合わせして、「こんな奇遇があるのか・・・」とお互いに驚いたのだが、向こうはどうも役所にクレームを言いに来たらしいので、それ以上関わるのはやめにしておいた。

でもって、翌日は「21ブリッジ」を観に行ったのだが、いくら平日の午後とはいえ400人近いキャパの劇場に観客が5人! 感染防止的には非常に好ましい状況だが、大丈夫なのか? 配給会社。なんたって、2020年8月に43歳の若さでこの世を去った「ブラックパンサー」のチャドウィック・ボーズマン最後の主演作だぞ。

いや、しかし、映画はなかなかの出来なのだった。

ニューヨークで深夜に大量のコカインを奪った2人の男が、突入してきた警察官8人を射殺する事件が発生する。ニューヨーク市警殺人課の刑事アンドレデイビスチャドウィック・ボーズマン)は麻薬捜査官のフランキー・バーンズ(シエナ・ミラー)とコンビを組み、マンハッタン島に架かる21の橋全てを封鎖するなど島を完全封鎖して犯人を追跡するのだが……。

冒頭に描かれるのは幼い頃のアンドレのエピソード。刑事だった父が犯人に殺されて殉職し、その葬儀が開かれていたのだ。その一件が彼の心に影響を与えたのか、長じて刑事になった彼は多くの犯人を殺害して、調査の対象となってしまう。

ただし、このエピソードが効果的に使われているとはいいがたい。アンドレの不正を許さない正義感、麻薬に対する怒りなどは朧気ながら伝わってくるものの、それと今回の事件との結びつきが弱いのだ。彼の人間ドラマにもなり得ていない。

だが、しかし、事件が起きればとびっきりのスリリングさが待ち受けている。何しろ犯人を追い詰めるために、タイトルにある21の橋をはじめ、マンハッタン島全域を完全封鎖してしまうのだ。前代未聞の作戦である。しかも、そこに介入してきたFBIが「午前5時までに犯人を捕まえなければ、こちらが捜査を引き継ぐ」とタイムリミットを設定してきたのだ。

そんなスリリングな設定をフルに生かして、演出も映像も異様な緊迫感を醸し出す。夜のマンハッタンのまばゆいネオンと路地裏の暗さ。その中で繰り広げられる銃撃戦、カーチェイス、そして地下鉄での虚々実々の駆け引き。どれをとっても一級品だ。監督のブライアン・カークは「ゲーム・オブ・スローンズ」などテレビドラマを中心に手がけてきたが、映画でもツボを心得た演出を見せる。

このドラマの大きなポイントは、2人組の強盗犯マイケルとレイにとって、想定外のことが相次ぐことだ。まず最初に彼らがブルックリンの店に押し入ると、そこには話に聞いていた量をはるかに上回るコカインが隠されていた。しかも、その直後になぜか警官隊が突入して、激しい銃撃戦になる。その後も、彼らが麻薬取引やマネーロンダリングに動くたびに、奇怪な出来事が彼らを襲う。いったいこの事件の背後には何があるのか?

でも、まあ、だいたい先の予想はついてしまうのである。「だいたいこうなんじゃないの」と思うとおりに話が進む。予想はついてしまうのだが、それでも緊迫感が途切れない。斬新なストーリー展開で興味を引くのではなく、ありがちな展開なのに飽きさせない。ある意味、これは相当にハイレベルな職人芸である。

犯人の一人レイは早いうちに殺されてしまう。だが、その後も手に汗握る展開が続く。もう一人の犯人のマイケルは謎のUSBを手に逃走を続ける。

そして訪れるクライマックス。銃を構え合ったアンドレとマイケルの対決だ。地下鉄の車内で必死にマイケルの説得を試みるアンドレ。両者のギリギリの心理状態が手に取るように伝わってくる。そして、訪れる意外な結末。

ちなみに、その前にもフランキーを盾にしたマイケルとアンドレが対峙するシーンがあるが、こちらもかなりのハラハラドキドキ度である。

事件はついに午前5時を前にして解決を見る。だが、アンドレにとってそれは終わりを意味しなかった。彼にはどうしても暴かねばならない真実があったのだ。

というわけで、最後の最後までスリリングな場面が続く。「あわや」の場面の連続で時間があっという間に過ぎ去ってしまった。

そこでクセモノぶりを発揮しているのが、J・K・シモンズである。まあ、詳しいことを言うとネタバレになるから言わないが、「パーム・スプリングス」でボーガンを撃っていたオヤジと同一人物にはとても見えない。

主人公の相棒役のシエナ・ミラーも、どこか得体の知れなさを漂わせる演技で魅力的。

とはいえ、本作に関してはやはりチャドウィック・ボーズマンだろう。全身から発せられる存在感に圧倒される。迫力満点のその演技を観ているうちに、つくづく惜しい人をなくしたと実感したのである。合掌。

 

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◆「21ブリッジ」(21 BRIDGES)
(2019年 中国・アメリカ)(上映時間1時間39分)
監督:ブライアン・カー
出演:チャドウィック・ボーズマンシエナ・ミラー、ステファン・ジェームズ、キース・デヴィッドテイラー・キッチュ、J・K・シモンズ
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://21bridges.jp/