「ジェントルメン」
2021年6月3日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時35分より鑑賞(スクリーン1/C-5)
~ガイ・リッチー監督の原点回帰。アクの強い犯罪映画
1998年の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」、2000年の「スナッチ」で一躍人気監督になったものの、歌手のマドンナと結婚して彼女を主人公に据えた「スウェプト・アウェイ」が大コケ。それでも近年は「シャーロック・ホームズ」「コードネーム U.N.C.L.E.」などのエンタメ王道路線で、それなりの存在感を発揮してきたガイ・リッチー監督。
今作「ジェントルメン」は原点回帰ともいえる一作。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を思わせるアクの強い犯罪物語だ。
ドラマは、大衆紙編集長が雇った探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)の語りで始まる。彼は麻薬王ミッキーにまつわる貴重なネタをつかみ、それを15万ドルで編集長に買ってもらうことになっていた。だが、ミッキーの右腕レイ(チャーリー・ハナム)に、2000万ドル出すなら売ってやると持ちかける。そこで披露されるネタがドラマの中心だ。
言うまでもなく、そのネタの中心にいるのは、アメリカ出身でイギリス・ロンドンの麻薬王ミッキー(マシュー・マコノヒー)だ。大麻ビジネスを展開して莫大な資産を築いた彼は、引退を考えてアメリカ人のマシュー(ジェレミー・ストロング)に商売を売り渡す交渉を始める。ところが、その噂を聞きつけたチャイニーズ・マフィアが横から割り込んでくる……。
おびただしい数の強烈キャラの人物が次々に登場し、上を下への大騒ぎをする。その過程を大量のセリフと映像で描く。メインとなるストーリーの大麻ビジネス絡みの話がけっこう複雑だし、脇道に脱線することも多いのだが、スマートでテンポの良い語り口と緻密な構成のおかげで、それほど混乱せずに観ることができる。
それにしても、出てくるのはワルばかりである。「ジェントルメン」というタイトルが皮肉に思えるほどだ。ミッキーは今でこそ紳士を気取っているが、ここまでのし上がってくるのに極悪非道の所業を重ねてきた。そして、今回の引退劇でもその本性を露わにする。
彼の右腕のレイも恐ろしい人物だ。大麻ビジネスに誇りを持ち、コカインなどの他の麻薬を毛嫌いするレイだが、邪魔なやつは容赦なくぶち殺す。本質は冷徹なギャングである。
本作で、唯一まともに見えるのはコーチ(コリン・ファレル)だろうか。下町のボクシングジムで、若者たちを鍛え更生させようとする。だが、何のことはない。若者たちが麻薬工場に押し入ったのをきっかけに、彼自身もミッキーやレイの悪事に協力することになるのだ。
探偵のフレッチャーにしてもゲスの極みだし、チャイニーズ・マフィアの連中も最低。しかも、みんなどこか抜けているから笑っちゃう。その笑っちゃう人物を、豪華俳優が嬉々として演じている。マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ジェレミー・ストロング、コリン・ファレル、ヒュー・グラントなどなど。こういう役を演じるのって、楽しいんだろうなぁ。
「カンバセーション…盗聴…」はつまらない映画だった。コッポラ監督なのに……などという映画ネタも飛び出すなど、小ネタもあちこちに散りばめながら、ノンストップで映画は進んでいく。
中盤では、金に困った貴族の土地を大麻の秘密農園にしているミッキーが、その一人から麻薬漬けの娘を取り戻すように依頼される。ところがレイのちょっとした手違いから、ミッキーはロシア人マフィアに狙われるようになる(映画の冒頭の襲撃場面を終盤で回収)。
トラブルがトラブルを呼びどんどん状況が混乱していく。生き残るのは誰なのか。終盤に進むにつれてドラマは二転三転し、虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。
スリルや凄みには欠けるけれど、面白いのは間違いなし。さすがに、この手の映画はガイ・リッチー監督の得意分野。後に残るものはないけれど、2時間近くひたすら楽しい犯罪映画なのだった。
◆「ジェントルメン」(THE GENTLEMEN)
(2019年 イギリス・アメリカ)(上映時間1時間53分)
監督・脚本:ガイ・リッチー
出演:マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、ジェレミー・ストロング、エディ・マーサン、コリン・ファレル、ヒュー・グラント
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://www.gentlemen-movie.jp/