「アオラレ」
2021年6月10日(木)TOHOシネマズ池袋にて。午前10時50分から鑑賞(スクリーン8/E-8)
あおり運転に遭遇すれば、誰しも恐怖感を抱くもの。そんな恐怖感を上塗りするような映画が「アオラレ」である。
映画の冒頭は恐ろしい事件の顛末が描かれる。ある男が別れた妻の家に押し入って、妻や家人を殺し、家に放火したのだ。完全なサイコパスである。犯行後、男は車に乗って静かに走り出す。
続いて、現在のストレス社会における感情の暴走ぶりを報じるニュースなどが流れる。あおり運転ももちろん、その一種というわけ。
そして、場面は一転して寝室へ。美容師のレイチェル(カレン・ピストリアス)が朝寝坊をしてしまう。あわてて息子のカイルを学校へ送るレイチェル。だが、道は大渋滞で苛立ちを募らせる。ちょうどその時、信号が青に変わっても前の車が動き出さず、レイチェルは思わず強めにクラクションを鳴らしてしまう。すると車の男(ラッセル・クロウ)は「運転マナーがなっていない」と言い、レイチェルに謝罪を要求する。その申し出を拒否して、レイチェルはカイルを学校に送り届けたものの、ガソリンスタンドの売店でさっきの男に尾けられていることに気づく。こうして男の恐怖の“あおり運転”がノンストップで始まるのだ。
このあおり運転男。誰あろう、冒頭の殺人&放火犯人なのだ。もちろんそんなこととは知らないレイチェル。イライラが高じて軽い気持ちでクラクションを鳴らしたのが運の尽き。地獄の底までこの男に追われることになる。
というわけで、車で追いかけまわされ、後ろから追突され、ありとあらゆる恐怖の波状攻撃にさらされるレイチェル。ノンストップのカーアクションが展開する。
車で追われる恐怖と言えば、スピルバーグ監督の「激突!」あたりを思い起こすが、こちらは車を離れての展開も用意されている。レイチェルのスマホを奪った男は、そこからカフェにいるレイチェルの離婚弁護士に「レイチェルの友達だ」とウソを言って接近し、残虐に殺害するのである。
さらに、スマホを介してレイチェルに、「今度は知り合いの誰を殺すか言え!」と無体な要求を突きつけてくる。指名した相手を殺すというのだ。レイチェルは恐怖のどん底に突き落とされる。
それにしても、このあおり運転男。普通の俳優が演じたら、さして魅力はなかったかもしれない。だが、何しろ演じているのはオスカー俳優ラッセル・クロウである。その風貌といい、体型といい、まるでクマ。ブチ切れまくりの怪演を披露している。もう二度と二枚目役はやれないのでは?と思わせるほどの壮絶な演技だ。サイコパスとはいえ、冷静な計算も働かせたりして、実に得体のしれない男である。
その後も、あおり運転男の残虐な仕返しは続く。仕返しといっても、クラクションを鳴らしただけである。それなのにこの仕打ち。
いや、まあ確かにレイチェルが朝寝坊しなければ、こんなことにはならなかったのだ。それでも、これはあまりにも手ひどいではないか。
あおり運転男の最後のターゲットは、レイチェルの息子カイルだ。彼を車に乗せたレイチェルと、再び車に乗った男が相対する。そこでレイチェルはついに覚醒する。息子を守るために必死で前を向く。そうか。これはダメダメな母親が、あおり運転の被害を機にスーパーヒロインに変身するドラマでもあったのか。
そしてラストは住宅街でのスリルあふれる追跡劇。レイチェル、男、カイルが三つ巴になってバトルを繰り広げる。あわや!の危機の後に最後に勝利したのは誰? ああ、ハサミが……。
前半の伏線もちゃんと回収されているし、細かなところまで気配りされている。ノンストップのアクションは見応えがあるし、規格外のラッセル・クロウの怪演ぶりは必見。
一級品のB級映画という感じの作品。もちろん、これは褒め言葉。上映時間も1時間半というコンパクトさ。な~んも考えずにハラハラするのには最適な映画である。
◆「アオラレ」(UNHINGED)
(2020年 アメリカ)(上映時間1時間30分)
監督:デリック・ボルテ
出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・ベイトマン、ジミ・シンプソン、オースティン・P・マッケンジー
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://movies.kadokawa.co.jp/aorare/