映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「パンケーキを毒見する」

「パンケーキを毒見する」
2021年7月31日(土)シネマ・ロサにて。午後3時20分より鑑賞(シネマ・ロサ1/C-6)

菅首相とマスコミの真の姿に迫った政治バラエティー

最初にこの映画の話を聞いた時は冗談かと思った。何しろ今まで日本で、こうした政治ドキュメンタリーが作られることはほとんどなかったのだから。しかし、冗談などではなかった。本気だったのだ。

「パンケーキを毒見する」は、「新聞記者」「i 新聞記者ドキュメント」などの社会派作品を送り出してきた映画プロデューサーのスターサンズの河村光庸が企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務め、第99代内閣総理大臣菅義偉の素顔に迫った政治ドキュメンタリーだ。

中心的に描かれるのは菅首相の裏の顔だ。秋田県のイチゴ農家出身の彼は、集団就職で上京したことを売りにしてきたが、その実は地方の名家の出で、集団就職の話も今ではホームページの経歴から消されている。

一方、横浜で裏の市長と呼ばれるまでになった彼は、「値下げ」を最大の武器に庶民の指示を集め、何度もばくちを仕掛けた後に、ついに安倍政権の官房長官となり、総理大臣にまで上り詰める。

そんな菅首相の素顔を、石破茂江田憲司村上誠一郎らの政治家、ジャーナリストの森功元朝日新聞記者の鮫島浩らが解き明かしていく。

前半では学術会議の人事をめぐる国会答弁を、上西充子法政大教授が実況解説し、そのデタラメぶりを白日の下にさらす。さらに、省庁のナンバー2を集めて側近にする人心掌握術も解説する。とにかく狡猾で、権力維持のためには何でもするのだ。この男は。

中盤では、批判の刃はマスコミに向けられる。「週刊文春」とともにスクープを連発する赤旗編集部に潜入し、なぜ他のマスコミが沈黙するのかを追求する。タイトルの「パンケーキを毒見する」にあるように、菅首相が「パンケーキ懇談会」を開催して、マスコミを取り込んだ手法も披露する。

終盤では、若者が政治に関心を持たなかったり、政権を支持してしまう理由を明らかにして、「このままでいいのか」と観客に問いかけてくる。

前川喜平、古賀茂明らも登場。いわば反菅の論客のオールスターキャストが勢揃いしているわけだが、さすがにそれだけでは飽きると思ったらしく、シニカルなアニメなども使われる。特に従順な羊が冷酷な飼い主の下で、ばたばたと死んでいくアニメは印象深い。

また、菅首相が何度もばくちを仕掛けるところから、女博徒がつぼ振りをする姿を映し出すなど、寸劇(?)まがいの場面も登場する。

とはいえ、描かれている内容に新味はない。私のようにもともと政権に批判的な人にとっては、ほとんどが周知の事実だ。しかも、マイケル・ムーア監督の映画ほどの強烈なメッセ―ジ性もない。風刺はそれなりに聞いているが、あくまでも菅首相とマスコミに疑念を呈し、観客への問いかけを行っている程度だ。

それでも日本でこういう映画が作られたことは、素直に評価したい。河村プロデューサーをはじめ、作り手の心意気は高く買える。

映画の冒頭にあるように、取材拒否が相次ぐなど製作は容易ではなかったことがうかがえる。内山雄人監督は、テレビ畑の人で映画は初監督だが、何人もの候補が断った末に引き受けたという。数々の困難を乗り越えて、完成にこぎつけただけでも奇跡的と言えるだろう。

エンタメ色も加味した政治ドキュメンタリーだ。けっして小難しい話をしているわけではない。政治に無関心な人も気軽に見ることができるはず。そして考えて欲しい。こんな政権がいつまでも続くことの恐ろしさを。

 


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◆「パンケーキを毒見する」
(2021年 日本)(上映時間1時間44分)
監督:内山雄人
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://www.pancake-movie.com/