映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「シュシュシュの娘」

「シュシュシュの娘(こ)」
2021年8月25日(水)シネマ・ロサにて。午後12時15分の回(シネマ・ロサ2/D-8)。

~これぞ自主映画!自由かつ大胆な社会派エンタテインメント

コロナ禍で厳しい状況に立たされたミニシアター。そのサポートを目的につくられた映画が「シュシュシュの娘(こ)」である。

製作・監督・脚本・編集を担当した入江悠は、「22年目の告白-私が殺人犯です-」「AI崩壊」などのメジャー作品で知られているが、もともとは自主映画「SR サイタマノラッパー」シリーズで注目された監督。それだけに、ミニシアターへの思い入れが強い。

入江監督は、3つの目標を掲げた。
①仕事を失ったスタッフ、俳優と、商業映画では製作しえない映画を作ること。
②未来を担う若い学生達と、新たな日本映画の作り方を模索すること。
③苦境にある全国各地のミニシアターで公開すること。

その方針のもと、「SR サイタマノラッパー」シリーズ以来、約10年ぶりに自主映画として製作されたのが本作だ。

25歳の鴉丸未宇(福田沙紀)は、地方都市で市役所勤めをしながら、一人で祖父・吾郎(宇野祥平)の介護をしている。ある日、彼女に優しく接してくれていた先輩職員の間野幸次(井浦新)が、市役所の屋上から自殺する。理不尽な文書改竄を命じられたのを苦にしたのだ。吾郎から「仇をとるため、改ざん指示のデータを奪え」と告げられた未宇は、市政に一矢報いるためひそかに立ち上がる……。

いかにも自主映画らしい作品である。スクリーンサイズは画角の狭いスタンダード。映像も音も技術の粋を尽くした最新鋭のものとはいかない(音はモノラル。序盤はセリフがよく聞き取れずに難儀した)。その代わり様々な制約を逆手に取った、自由かつ大胆な筆致が魅力的な作品である。

未宇の住む市では、移民排斥条例を制定しようとしている。間野が文書改竄を命じられたのはそのためである。元新聞記者だった吾郎は条例制定に反対するが、市長はじめ市役所の面々は条例制定を強行する。街には外国人に暴力をふるう自警団も組織される(鮮やかな揃いのジャンパーを着た、気のいいオジサンたちなのが逆に怖い)。

というわけで、移民排斥、文書改竄、自警団といった現実の社会状況が反映された社会派エンタテインメントである。ただし、そうした社会派の要素を前面に押し出しているわけではない。あくまでもエンタテインメントの枠内で面白おかしく描き出す。そのアンバランスさがこの映画の魅力でもある。

もちろん敵に立ち向かうのは未宇だ。ただし、普通に立ち向かうのではない。根暗で目立たないように生きてきた未宇は、祖父から自分がある家系の者だと聞かされるのだ。そのヒントは「シュシュシュの娘」というタイトルにある。

しかし、先祖代々伝わってきた文献の大半は戦争で焼けてしまったという。そこで彼女は自ら黒い生地を買い(友人はピンクがいいと言ったのだが)、オリジナルの衣装をしつらえる。靴はスニーカー。そして、ある技を持ちネタとするのだ(ただし、子供の頃に遊んだ記憶があるという程度なので頼りない)。

こうして未宇は市役所帰りに隠密行動とり、文書改竄の証拠をつかもうとする。その珍妙なスタイルが笑いを誘う。根暗で孤独な主人公がスーパーヒーローに変身するというのはよくある話だが、現実はそれほどカッコよくはない。リアルと絵空事、シリアスと笑い、入江監督はその間を自由奔放に行き来する。

それでも何とか証拠を入手する未宇。しかし、まもなくそれを敵に奪われてしまう。しかも祖父が敵に襲撃され、挙句の果てに亡くなってしまうのだ(その消え去り方がまた独特だ)。さらに、ある男の存在を巡って、仲の良かった親友とも仲違いしてしまう。

こうして一人ぼっちになった未宇は、しばらく姿を消す。再び現れた時には驚くべき姿に変身している。そして、いよいよ彼女は最終決戦に挑むのである。そこで映画のタッチはがらりと変わる。

まあチープと言えばチープ。あまりにも安直で何のヒネリもない。だが、そんなことは承知の上。徹底的に自主映画っぽさを前面に打ち出し、観客を楽しませる。移民排斥、文書改竄、自警団などのリアルさと、映画全体のチープさが何とも絶妙な味わいを生んでいる。

それにしても入江監督、よっぽどメジャーで嫌な思いをしてきたのだろうか。余計なお世話だけど。そのうっ憤を晴らすかのような自由闊達さである。

最終決戦はあっけないといえばあっけないのだが、それがまた独特の味になっていたりする。その後のラスボスとの対決も含めて、いかにも自主映画らしい。

そしてラストシーンに流れる音楽は、まるで西部劇の音楽。なるほど最終決戦のあたりからは、完全に西部劇だもんなぁ。そう思えばなかなか面白い。

主演の福田沙紀は、未宇の2つの顔をうまく演じ分けていた。特に目の演技が良い。80年代風音楽をバックに披露するダンスも魅力的だ。

入江監督の熱い思いが伝わってくる自主映画らしい作品だ。商業映画では絶対になし得なかっただろう。その思いを受け止めて、細かいことは言わずに楽しむべし。

 

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◆「シュシュシュの娘(こ)」
(2021年 日本)(上映時間1時間28分)
製作・監督・脚本・編集:入江悠
出演:福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香、宇野祥平、金谷真由美、松澤仁晶、三溝浩二、仗桐安、安田ユウ、山中アラタ、児玉拓郎、白畑真逸、橋野純平、井浦新
ユーロスペースほかにて全国公開中
ホームページ https://www.shushushu-movie.com/

 


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