映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「サマーフィルムにのって」

「サマーフィルムにのって」
2021年8月30日(月)新宿武蔵野館にて。午後3時30分より鑑賞(スクリーン3/C-4)。

~時代劇オタクの高校生の映画愛にあふれた青春の輝き

最近、日本映画ばかり観ているなぁ。まあ、話題作や評判の良い映画が相次いでいるので仕方なかろう。おすぎさんのように、「日本映画は観ない」というポリシーは私にはないので。ちなみに、おすぎさんはとても良い人です。以前、試写会場でエレベーターのドアの「開」ボタンを押して、「どうぞ」と言って、みんなを下ろしてから一番最後に降りる姿を目撃したのだ。

本日取り上げるのは「サマーフィルムにのって」。高校の映画部を舞台にした映画は、これまでもたびたびあったが(「桐島、部活やめるってよ」をはじめ)、本作はその中でも群を抜いてよくできている映画だ。

女子高生なのに勝新太郎の「座頭市」がお気に入りの時代劇オタクのハダシ(伊藤万理華)。映画部に所属する彼女は、時代劇の撮影を熱望するが、みんなの投票でキラキラ恋愛映画を撮影することになる。自分の撮りたい映画が作れずもやもやするハダシは、放課後に廃車のキャンピングカーで天文部のビート板(河合優実)、剣道部のブルーハワイ(祷キララ)とともに時代劇を見て過ごしていた。

そんなある日、名画座で自身が書いた脚本「武士の青春」の主役にピッタリな凜太郎(金子大地)を見つけ、出演を依頼する。嫌がる凛太郎を無理やり引き込んで、撮影を手伝ってくれる仲間集めに奔走し、打倒キラキラ恋愛映画を掲げて時代劇の撮影を始めるハダシだったが……。

この映画でまず感心するのが、登場人物のキャラクターが立っていること。主役のハダシはもちろん、友人のビート板、ブルーハワイ、そして凛太郎。いずれも個性的な人物だ。それ以外にも凛太郎の相手役のダディボーイは名前通りに老け顔だし、スタッフとして集められた駒田はド派手な自転車を操る。増山、小栗は特殊な聴力の持ち主といったように、どれもユニークなキャラばかり。彼らが演じるドラマが生き生きとするのも当然だろう。

そこには恋と友情のドラマが詰まっている。ハダシとビート板は凛太郎をめぐって、それぞれの純な恋心を見せる。それでもブルーハワイを含めた3人の友情は揺るがないし、2つの映画製作に関してライバルとの対立と和解という熱い友情のドラマも展開される。いずれも青春映画の定番とはいえ、ポップでテンポの良い筋運びで飽きさせない。

だが、それだけではない。凛太郎は初めて会った瞬間からハダシのことを「ハダシ監督」と呼んでいる。時代劇好きの彼だが、ところどころ受け答えには奇妙なところがある。なぜだ?

というわけで、彼の正体をめぐってSF的展開までが用意されているのである。あまり詳しく言うのはやめておくが「時をかける少女」的な世界が展開されるのだ(ちなみに、「時をかける少女」の話も劇中に出て来る)。

そして映画愛にあふれているのも本作の特徴。劇中には映画ネタが満載だ。ハダシの好きな時代劇のうんちくはもちろん、様々な映画の話が詰まっている。ディテールへのこだわりも半端でない。

ドラマの主要なパートは、いかにも高校生らしい映画製作の場面。そこは手作り感満載だ。十分な機材も予算もない中で(ハダシたちは引っ越しのバイトをして資金を稼ぐ)、紆余曲折ありつつの撮影が続く。そんな撮影風景も映画好きの心を湧きたたせる。

ハダシたちの目標は文化祭での上映会だ。そこでは映画部のキラキラ恋愛映画が上映されることになっていたが、それを乗っ取って「武士の青春」を上映しようというのだ。

だが、ラストシーンを撮影する合宿でハプニングが起きる。そこで両者は協力して、作品を仕上げることになる。映画部のキラキラ恋愛映画にはブルーハワイが出演することになり、ハダシたちの「武士の青春」は映画部の機材を使って撮影することになる。そこでハダシは戦わないラストシーンを選択する。

文化祭当日、上映会は映画部とハダシたちの作品の2本立てで上映することになる。そこでハダシはギリギリまで迷って、やっぱり自分らしいラストシーンに撮り直すことにする。それは単なるロマンスの枠を超えて、映画の今と未来をつなぐラストシーンだ。全編が映画愛に貫かれたこの作品の中で、最もそれを象徴するのがこのシーンではなかろうか。映画は終わらない。映画は続くのだ。奇跡のようなラストである。

恋と友情に彩られた青春映画に、SF的世界まで用意し、さらに映画愛までたっぷり詰め込むとは。松本壮史監督は、ドラマやCM、ミュージックビデオなどで活動しており、これが初の長編映画だが、ただものではないと感じた。

そして、若いキャストたちの演技が半端でなく良い。大人たちがまったくと言っていいほど出てこない映画だが、そんな中で彼らの瑞々しさが際立っている。特にハダシ役の伊藤万理華は、元「乃木坂46」のアイドルで、卒業後は女優としてドラマ、映画、舞台に出演してきたそうだが、素晴らしい演技だった。勝新の真似もいいし、ラストの殺陣もきまっている。彼女の存在感ある演技が、この物語を生き生きと躍動させ、抜群の説得力を持たせている。

ひたすら痛快かつ爽快な青春映画である。いつの間にかスクリーンに引き込まれて、夢中になってしまった。青春映画好きならずとも見逃せない。

 

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◆「サマーフィルムにのって」
(2020年 日本)(上映時間1時間37分)
監督:松本壮史
出演:伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ、小日向星一、池田永吉、篠田諒、甲田まひる、ゆうたろう、篠原悠伸、板橋駿谷
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ http://phantom-film.com/summerfilm/

 


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