映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「モンタナの目撃者」

「モンタナの目撃者」
2021年9月5日(日)新宿ピカデリーにて。午後12時20分より鑑賞(スクリーン2/F-16)。

~トラウマを抱えた消防隊員と少年の息詰まるサスペンス

土日のシネコンはけっこうな賑わいだ。ちょっと感染が怖いけれど、一席おきに空けて販売しているからまあいいか。というわけで、久々の日曜の映画館である。

鑑賞したのはアンジェリーナ・ジョリー主演の「モンタナの目撃者」。どうしてこの映画を見ようと思ったかといえば、監督のテイラー・シェリダンのデビュー作「ウインド・リバー」が良かったから。辺境の地で起きた殺人事件を巡り派遣されたFBIの新人捜査官の苦闘を描くクライム・サスペンスで、第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞した。

ちなみに、テイラー・シェリダンはもともとは脚本家で、「ボーダーライン」などの脚本を担当している。本作は、マイクル・コリータのミステリーを映画化したもので、脚本にはシェリダン監督も名を連ねている。

映画の冒頭はいきなり森林火災の場面だ。森林消防隊員たちが必死で消火に当たる。だが、急に風向きが変わって火が間近に迫ってくる。仲間の消防隊員が火だるまになり、少年たちも火に包まれるが、森林消防隊員のハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)はなすすべがない。あまりにも凄惨な現場だ。

ただし、これは過去の出来事。主人公のハンナが、実際に体験した火災の現場を夢に見てうなされているのだ。それは彼女にとって忘れられない過去のトラウマだった。

そんなある日、森林を監視中の彼女は、たった一人で森の中をさまよう少年コナー(フィン・リトル)を発見し保護する。彼は、目の前で父親が2人組の暗殺者に殺されるのを目撃していた。暗殺者たちは、父から秘密を託されたコナーの命も狙っていたのだ。暗殺者から少年を守るために動き出すハンナだが……。

ウインド・リバー」もそうだったが、シェリダン監督は極限状況を描くのがうまい。本作でも序盤から異様な緊迫感がスクリーンを包む。その中で、絶体絶命の場面が次々に描かれ最後まで緊張が途切れない。

物語の構成も巧みだ。最初は主人公ハンナのやさぐれた姿を描き出すのだが、それと同時にコナー少年が森をさまように至る経緯を描き出す。地方検事の家が爆破され、身の危険を感じた会計士が息子コナーとともに逃避行に出る。彼は不正の証拠を握っていた。だが、2人組の暗殺者に待ち伏せされ、会計士は殺されてしまう。あわやのところで車から脱出したコナーは森をさまよう。

さらに、そこに街の保安官イーサン(ジョン・バーンサル)のエピソードが絡んでくる。彼はコナーの父が殺害された現場を発見する。しかも、彼はコナーの父親の知り合いで、2人がまもなく訪ねてくる予定になっていたのだ。

こんなふうに同時並行でいくつかのエピソードが描かれ、それが絶妙に絡みあい、1つの方向に向かっていく。鮮やかなストーリーテリングである。

絶望と戸惑いの中で、ハンナと出会ったコナーは当初は心を開かず、父から託された秘密を守ろうとする。だが、他に頼るものもない中で交流を重ねるうちに、少しずつ打ち解けていく。心の傷を抱えたハンナも少年を守ろうとする。その温かな交流が描かれる。

そして、この映画の大きな見どころは巨大な森林火災だ。暗殺者たちが人々の目をそらすために、放火したのだ、その火が燃え広がり、ハンナとコナーの行く手を遮る。つまり、ハンナとコナーは暗殺者と森林火災という2つの大きな敵に立ち向かうはめになるのである。

暗殺者たちの不気味さもこのドラマを引き立てる。ジャック(エイダン・ギレン)とパトリック(ニコラス・ホルト)の2人組だ。悪役がいいと主役が引き立つ。とはいえ、ふだんは完璧な仕事をこなす彼らが、自らのミスで逆に追い詰められるなどツボを押さえた展開も用意されている。

その暗殺者たちが、コナーの行方を追ってイーサンの自宅に押し入り、その流れでイーサンの妻アリソン(メディナ・センゴア)が、馬にまたがってさっそうと暗殺者たちを追いかける意表を突いた展開もある(アリソンは妊娠6か月!)。ここはさすがにやり過ぎ感もあったが、結局はそのエピソードも違和感なくストーリーに溶け込み、ドラマを盛り上げる役割を果たしている。

終盤は森林火災と暗殺者との最後の戦い。襲い来る猛火と、ひたすら銃をぶっ放す暗殺者を相手に、ハンナとコナーははたして生き残れるのか。

ラストで変に甘っちょろい後日談など描かずに、ハンナのさりげない言葉で閉めるあたりもなかなか心憎い。

それにしてもこのドラマ、主演がアンジェリーナ・ジョリーでなければ、ここまでの説得力はなかっただろう。これまでも数々のアクションを披露してきたが、本作が11年ぶりのアクション映画とか。敵と直接対決する場面は少ないものの、斧を手に戦うその姿は迫力満点。さらに20メートルほどの監視塔から飛び降りたり、雷に直撃されたり、パラシュートで危険な遊びをしたりと大活躍。そのたびごとに立ち上がるその姿が嘘くさくないのは、ひとえに彼女が演じたからこそ。さすがである。

張り詰めた緊張感の中、ハンナの再起のドラマと少年との温かな交流、迫力の森林火災シーン、アクションなどを巧みに配したサスペンス。シェリダン監督の前作「ウインド・リバー」と比較すれば大味な作品だが、その分エンタメとしての見応えは十分だ。

 

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◆「モンタナの目撃者」(THOSE WHO WISH ME DEAD)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間40分)
監督:テイラー・シェリダン
出演:アンジェリーナ・ジョリーニコラス・ホルト、フィン・リトル、エイダン・ギレンメディナ・センゴア、タイラー・ペリー、ジェイク・ウェバー、ジョン・バーンサル
新宿ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/mokugekisha/

 


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