映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「さがす」

「さがす」
2022年1月23日(日)池袋シネマ・ロサにて。午後1時20分より鑑賞(シネマ・ロサ1/D-11)

~3つの視点のドラマが交錯する。いくつもの要素を持つミステリー

自主製作した長編デビュー作「岬の兄妹」で注目された片山慎三監督。衝撃作という形容詞がピッタリのヘヴィーな映画だったが、同時にユーモアなど多彩な側面を持つ映画だった。

その片山監督の新作が「さがす」である。片山監督にとって、これが商業映画デビュー作ということになる。

大阪の下町で父の智(佐藤二朗)と暮らす中学生の楓(伊東蒼)。ある日、智は「指名手配中の連続殺人犯を見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と言った翌日、忽然と姿を消してしまう。警察に相談するが相手にされず、たった一人で父を探し始める楓。やがて手がかりをたどって、父がいるらしい日雇い現場に行くが、そこで父親の名前で働いていたのは指名手配犯の山内(清水尋也)だった……。

物語はこの3人の視点から、それぞれに語られる。最初は楓だ。だらしがないが(冒頭ではスーパーで万引きして捕まる)、どこか憎めない父の智が突然失踪し、戸惑いつつも必死で行方を追って走り回る。猪突猛進、命の危険に遭いながらも父を捜すのにためらいはない。このパートは若々しい青春サスペンスの趣だ。

そこには笑いもある。楓は彼女に気がある同級生の花山に父捜しを手伝ってもらうため、「彼女になってやってもいい」と誘う。それに対して花山は「それなら胸を見せてくれ」と頼む。何ともまあ他愛のないやりとりに思わず笑ってしまう。楓に協力する教師などの存在もどことなくユーモラスだ。

中盤になると「3か月前」という大きな文字がスクリーンに踊る。そこからは指名手配犯の山内の視点からドラマが進む。彼はSNSで自殺志願者を募り、猟奇大量殺人を犯していたのだ。その犯行の模様が描かれる。このパートはサイコスリラーだ。極力エグい場面は避けているが、何せ犯行が犯行なので文字通り猟奇的な場面も出てくる。

そして、ここにも笑いがある。犯行が露見して逃亡する山内が、ある地方に逃げ込むと地元の老人から声がかかる。彼の家に泊めてくれるというのだ。その場面が爆笑ものだ。老人は何と大量のエロビデオや本のコレクター。「山内が興味がない」と言うと、SMビデオを見せて悦に入るのだ。その老人を演じているのが(黒幕役などをよく演じる)品川徹だからなおさら笑える。とはいえ、殺人鬼の前では火に油を注ぐようなもの。それがもとで彼も殺されてしまうのだ。

その後、今度は「13か月前」というテロップが出る(これもデカい)。今度は失踪した智の視点のドラマだ。彼の妻(つまり楓の母親)の公子はALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかり、身体の自由がまったくきかなくなってしまう。それを甲斐甲斐しく看病する智。妻をいたわりつつ苦悩するその姿は、夫婦の愛情物語、あるいは難病モノのドラマの趣がある。

しかし、「殺して欲しい」という妻の訴えが智を動かし、それによって山内との意外な接点が生まれるのだった。

異質ともいえる3つのパートが、違和感なく融合しているところがこの映画の真骨頂だ。猟奇スリラー、青春サスペンス、夫婦の愛情物語、難病モノ、そして笑いなど様々な要素がそこにはある。この手の映画はポン・ジュノ監督の作品をはじめ、韓国映画にはよく見られるが、日本では珍しいのではないか。「岬の兄妹」もそうだったが、そのあたりの懐の深さに感心させられた。

終盤には智が一発逆転をかけて、ある策略を巡らす場面が描かれる。そこでは山内をして「本当に死にたいやつなんていなかった」と言わしめる中で、唯一の「本当に死にたい女」の運命も描かれる。もちろん、そこにも凄惨さと同時にユーモアがある。

そして、すべての出来事が明らかになった後のエピローグにも注目。単純に父と娘の絆の強さを描いて終わるかと思いきや、意外な場面が用意されている。それは父娘の卓球の長い長いラリー。そこで語られるある真実。楓のひたむきさを象徴したシーンと言っていいだろう。血みどろのこのドラマに、それとは違う清々しさと余韻を残す。

佐藤二朗はコミカルな役柄が多いが、今回は持ち味を生かしつつもアクの強さを封印して、不器用ながら必死に生きる父親を好演している。さらに、伊東蒼、清水尋也、森田望智ら若手俳優たちの存在感も抜群だ。ついでにセリフなしで母親の哀しみを演じた成嶋瞳子の演技も印象深い。

タイトルの「さがす」は、「探す」であり「捜す」でもある。楓が父を捜し、我々観客は真実を探すミステリーだ。それは過去の日本映画にはあまりなかった多面性を持つドラマでもある。少々刺激は強いが見逃せない一作だと思う。

 

f:id:cinemaking:20220126210527j:plain

◆「さがす」
(2021年 日本)(上映時間2時間3分)
監督・脚本:片山慎三
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、石井正太朗、松岡依都美、成嶋瞳子品川徹
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://sagasu-movie.asmik-ace.co.jp/

 


www.youtube.com