映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」
2022年2月2日(水)グランドシネマサンシャインにて。午後2時35分より鑑賞(スクリーン10/D-8)

ウェス・アンダーソン監督らしさがあふれる架空の雑誌の映画版

長いタイトルの映画は数あれど、これも相当に長いよなぁ。「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」だもの。

ダージリン急行」「グランド・ブダペスト・ホテル」「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」「犬ヶ島」などのウェス・アンダーソン監督の新作映画。過去作も個性的な映画が多かったアンダーソン監督。本作はそんなアンダーソン監督らしさの詰まった映画だ。

とあるフランスの架空の街にある米国の新聞社のフランス支社。そこが発行する雑誌『フレンチ・ディスパッチ』は、国際問題からアート、ファッション、グルメに至るまで深く切り込んだ記事で人気を集めていた。ところが、名物編集長のアーサー(ビル・マーレイ)が急死してしまい、彼の遺言によって雑誌は廃刊となることが決まる。

というわけで、アーサーの追悼号にして最終号の内容を映像化して披露するのがこの映画だ。アーサーが集めた一癖も二癖もある記者たちによる、いずれ劣らぬ個性的な記事の内容が3話のオムニバス形式で描かれる。

最初はプロローグ的に、向こう見ずな記者のサゼラック(オーウェン・ウィルソン)が登場。彼が自転車に乗って街ネタを拾って記事にするものの、編集長のアーサーはその内容に不満そう。

そして、いよいよ第1話のスタート。美術界を知り尽くした記者J・K・L・ベレンセン(ティルダ・スウィントン)が語るエピソードは、殺人犯として刑務所に拘留されている天才画家(ベニチオ・デル・トロ)のお話。彼のミューズはなんと女性看守(レア・セドゥ)。彼女のヌードを基に描いた絵をめぐって画商(エンドリアン・ブロディ)が暗躍する。

次なる第2話は、社会派ライターのルシンダ・クレメンツ(フランシス・マクドーマンド)が手がける、若い情熱に満ちた学生運動の闘士(ティモシー・シャラメ)のお話。彼は運動ではカリスマ的存在なのに、なぜか女子には弱い。そのため学生運動グループの気の強い会計係の女の子とすったもんだする。

最後の第3話は、食を愛する記者ローバック・ライト(ジェフリー・ライト)が語る警察署長の食事室の事情。美食家の警察署長(マチュー・アルマリック)の息子が誘拐され、身代金を要求される。そこに署長お抱えの伝説の“警察料理シェフ”などが絡んで大変なことになる。

すべてのエピソードがウェス・アンダーソンらしさに満ちている。次々にスクリーンサイズを変え、モノクロとカラーを行き来し、終盤ではアニメまで飛び出す。遊び心あふれる世界だ。背景の細部までこだわり、完璧なまでに美しい。誰かが言っていたが、まさに万華鏡のような世界。もちろんユーモアとウィットも満載である。

1950~60年代のモノクロのフィルム・ノワールヌーヴェル・ヴァーグなど、アンダーソン監督が好きな映画の世界を意識したと思えるシーンもたくさんある。

ただし、あまりにも完璧な美しさゆえ当方何度か睡魔に襲われる場面も。大量のナレーションが続くので、それについていくのでやっとで、なおさら眠りに誘われてしまった。

とはいえ、アンダーソン監督の特徴が凝縮されたような映画なので、過去の作品が好きな人はきっと気に入るはず。

それにしても、何という豪華キャスト。オーウェン・ウィルソンビル・マーレイフランシス・マクドーマンドウェス・アンダーソン作品の常連組に加え、ベニチオ・デル・トロティモシー・シャラメジェフリー・ライトらも初参加。脇役に至るまで有名俳優が出演しているのだ。シアーシャ・ローナンがワンシーンだけ出演しているぐらいだもの。え? この人どこに出ていたの? と思う人もいるほどだ(キャスト欄を参照)。

こういう映画を撮るのは楽しいに違いない。贅沢でやりたい放題の映画だ。こんなことが許されるウェス・アンダーソンは幸せ者である。その幸せのご相伴にあずかれる映画なのだ。

 

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◆「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」(THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間48分)
監督・脚本・原案・製作:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロエイドリアン・ブロディティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマンドティモシー・シャラメ、リナ・クードリ、ジェフリー・ライトマチュー・アマルリック、スティーヴン・パーク、ビル・マーレイオーウェン・ウィルソンクリストフ・ヴァルツエドワード・ノートンジェイソン・シュワルツマンリーヴ・シュレイバー、エリザベス・モス、ウィレム・デフォーロイス・スミスシアーシャ・ローナンセシル・ドゥ・フランス、ギヨーム・ガリエンヌ、トニー・レヴォロリルパート・フレンド、ヘンリー・ウィンクラー、ボブ・バラバン、イポリット・ジラルド、アンジェリカ・ヒューストン
*TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
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