映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ウエスト・サイド・ストーリー」

「ウエスト・サイド・ストーリー」
2022年2月17日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後12時20分より鑑賞(スクリーン3/E-16)

スピルバーグが現在の社会情勢を反映させた名作ミュージカルの再映画化

いつもありがとうございます。
実はしばらく入院することになりましたので、その間ブログの更新をお休みします。一応2~3週間の予定ですが、退院したらまたよろしくお願いいたします。

さて、お休み前の最後の映画は華々しく「ウエスト・サイド・ストーリー」だッ!!

「ウエスト・サイド・ストーリー」といえば、1961年のロバート・ワイズ監督による名作ミュージカル映画(タイトルは「ウエスト・サイド物語」)。もともとは1957年に発表されたブロードウェイ・ミュージカルである。オリジナルの映画はどこかで観た記憶があるのだが(たぶんテレビ放送だと思う)、今となっては細かなディテールなどは忘れてしまった。

その「ウエスト・サイド物語」のリメイク映画が登場した。いや、正確に言うと舞台版の再映画化ということらしい。監督はあのスティーヴン・スピルバーグ。そりゃあ映画史に残るミュージカル映画の再映画化ともなれば、「俺がやるしかない」となるわけだ。スピルバーグ監督にとって初のミュージカル映画となる。

ロミオとジュリエット」を下敷きにしたお話だ。1950年代後半のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドでは、多くの移民が暮らしていた。貧困と差別の中で彼らは同胞の仲間たちでグループを作り、各グループは対立しあっていた。そんな中、プエルトリコ系の若者たちで構成された「シャークス」とヨーロッパ系移民グループ「ジェッツ」は激しく敵対していた。

ある日、シャークスのリーダー、ベルナルドを兄に持つマリア(レイチェル・ゼグラー)は、ダンスパーティでトニー(アンセル・エルゴート)という青年と出会い、2人は互いに惹かれ合う。しかし、トニーはジェッツの元リーダーで、2人の禁断の恋は多くの人々の運命を変えていく……。

基本となるプロットは昔と同じ。地元の再開発によって、自分たちの住処を追われようとする貧困住民。そんな中、敵対勢力に関わりのあるトニーとマリアが愛し合うようになる。

実のところミュージカルはあまり得意ではない。唐突に登場人物が歌い踊る展開に、どうしても違和感を感じてしまうのだ。最近のミュージカルはそれを意識させない工夫をしたものが多いのだが、この映画に関しては比較的オールドスタイルでつくられているから意識せざるを得ない。

しかも、歌と踊りにかなり比重を割いているため、ドラマ的にはどうしても薄味になってしまう。例えば、トニーとマリアがダンスパーティーで出会い、恋に落ちるところなど、「オイオイ、いくら何でもお手軽だろ!」とツッコミの1つも入れたくなってしまうのだ。

だが、そこであの名曲が流れてくる。オリジナル版でもおなじみのレナード・バーンスタイン(作曲)とスティーヴン・ソンドハイム(作詞)による楽曲だ。歴史に残る名曲の数々は下手な芝居よりも説得力十分。それを聴いているうちについつい納得してしまうのである。

劇の進行とともに「Tonight」「America」「Maria」など、おなじみのあのメロディーが次々に登場。ミュージカルに疎い自分でも、ほぼみんな知っている。というわけで、いつの間にかスクリーンに引き込まれてしまった。

おまけにダンスもダイナミックで迫力十分だ。スピルバーグ作品ではおなじみの名撮影監督ヤヌス・カミンスキーによる映像が、さらにその迫力を倍加する。特にダンスパーティでの躍動感あふれるダンスには心がかき立てられた。歌と踊りを見ているだけで、十分に魅力的な映画なのだ。

ただし、これだけならスピルバーグ作品としては物足りない。最もスピルバーグらしさを物語るのは、この映画の社会性にある。もともとがヨーロッパ系移民とプエルトリコ系移民の対立という図式を持つこの映画。スピルバーグはさらにそれを強調し、異民族同士の対立感情をより明白に示す。それはすなわち、分断した今のアメリカ、いや世界の情勢を色濃く反映させたものだろう。

オリジナル版と違って、実際にプエルトリコ系の俳優をキャスティングしているのもスピルバーグ監督のこだわりに違いない。

なるほど、これならスピルバーグが監督する価値がある。そう思わせるのだ。

主演の「ベイビー・ドライバー」のアンセル・エルゴートは、こんなにミュージカルの才能があるとは思わなかった。ダンスはもちろん、歌声もなかなかのものだった。

だが、それを上回るのが相手役のレイチェル・ゼグラーだ。オーディションで約3万人の中から選ばれたというが、その歌声は神々しくさえある。こんな人が無名だというのだからアメリカは恐ろしい。

さらに、1961年版に出演していたリタ・モレノも出演。トニーやマリアを見守るキーキャラクターのバレンティーナを抜群の存在感で演じきっている。

古典ミュージカルをそのままのスタイルでパワーアップし、さらにスピルバーグ流の味付けをした高揚感あふれる映画だ。ミュージカル好きはもちろん、そうでない人も見応えがありそう。

 

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◆「ウエスト・サイド・ストーリー」(WEST SIDE STORY
(2021年 アメリカ)(上映時間2時間37分)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・フェイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://www.20thcenturystudios.jp/movie/westsidestory

 


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