映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ツユクサ」

ツユクサ
2022年5月10日(火)シネ・リーブル池袋にて。午後12時50分より鑑賞(シアター2/D-6)

ホンワカした雰囲気の中で描かれるワケあり男女の爽やかな恋

ついに、ついに、ほぼ3か月ぶりに映画館へ行ってきたのだ。心臓手術以来初!積極的に行く気はなかったのだが、ネットを見たら平日の昼間とあって、けっこう空いているではないか。これでコロナに感染したら、よっぽど運が悪いと腹をくくって、いざシネ・リーブル池袋へ!

鑑賞したのは、先日「閉鎖病棟 -それぞれの朝-」を取り上げたばかりの平山秀幸監督の新作「ツユクサ」。前作は脚本も平山監督だったが、今回は安倍照雄によるオリジナル脚本だ。

50歳目前の主人公・五十嵐芙美(小林聡美)は小さな港町で一人暮らしをしている。同僚の直子(平岩紙)や妙子(江口のりこ)とくだらないおしゃべりをしたり、直子の息子・航平(斎藤汰鷹)と遊びに出かけたりと明るく楽しい日々を過ごしていた。そんなある日、芙美の前に草笛が上手な篠田吾郎(松重豊)という男性が現れる……。

とりたてて大きなことは起こらないドラマだ。登場人物が泣き叫ぶような場面もない。派手なところは何もない。

とはいえ冒頭の展開にはビックリさせられた。芙美の小さな親友・航平が隕石について語る。すると次の瞬間、芙美の運転する車が落下してきた隕石のかけらと衝突するのだ。

隕石と衝突するなんてよほど珍しいこと。芙美はそれを幸運のしるしと捉える。はたして、彼女は本当に幸せになれるのか。芙美と吾郎の恋模様を中心にドラマが進行する。

全体の雰囲気がとても良い映画だ。舞台となる港町は自然豊かな場所。その中で展開するドラマは、のんびり、ほっこりとした空気に包まれている。深刻なところもあるにはあるが、過剰に悲惨な描き方はしていない。

芙美と吾郎の恋の行方は、けっしてドロドロしていない。一気に恋が燃え上がるなどということもない。淡々とした日常の中で、少しずつお互いに距離を縮めていく。実に落ち着いた大人のラブストーリーなのだ。

そして、芙美の周辺の人物のドラマも描かれる。同僚の直子は、再婚で息子の航平が夫に懐かないのが悩みの種。同じく同僚の妙子は、亡き夫が眠る寺の坊さんとつきあっているのを隠している。ついでに航平には好きな女の子がいるが、その子は別な子と何やら怪しい雰囲気だ。要するにみんないろいろと事情があるわけだ。

ユーモアがたっぷりなのもこのドラマの特徴。妙子がつきあっている坊主はサーファーで、絶えず有名人の名言を口にしている。芙美たちの職場の工場長は、台湾の婚活パーティーに出かけたものの願いはかなわず、太極拳だけ習得してくる。そのため全員で行うラジオ体操のポーズが太極拳風。それらが自然に笑いを誘う。

芙美と吾郎の恋が一気に燃え上がらないのは、2人の過去にも関係している。芙美は酒を断つために断酒会に入っているが、彼女が酒におぼれるようになった背景には哀しい事件があった。一方の吾郎にも哀しい過去がある。元歯科医だという彼が、この港町で工事現場の警備員になっているのはそのせいだった。

芙美と吾郎を中心にワケありの人々の人間模様を映し出しながら、ドラマは終盤へと向かっていく。そこでは航平の親子の絆のドラマも描かれるが、やはり気になるのは芙美と吾郎の恋。

そこでラストシーンに待っているのが、これまたファンタジックなシーン。吾郎もビックリの芙美のジャンプ!だが、それは確実に芙美の再出発への決意を表している。過去に何があろうと、幸せになる権利はある。そこにはきっと明るい希望がある。そんなメッセージを感じるエンディングである。

悪人は1人も出てこない。こんなのは絵空事だという人もいるかもしれない。しかし、こういう映画があってもいいと思う。何よりも全体を包むホンワカした雰囲気が魅力的なドラマだ。

主演の小林聡美はこういう作品がよく似合う。何気ない日常を表現するのがうまい。松重豊との演技のハーモニーが絶妙だった。彼女の友人役の平岩紙、江口のり子の存在感も見逃せない。桃月庵白酒の坊さんもいい味出しています。

◆「ツユクサ
(2021年 日本)(上映時間1時間35分)
監督:平山秀幸
出演:小林聡美平岩紙、斎藤汰鷹、江口のりこ桃月庵白酒、水間ロン、鈴木聖奈、瀧川鯉昇、渋川清彦、泉谷しげるベンガル松重豊
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://tsuyukusa-movie.jp/


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