映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「虐待の証明」

「虐待の証明」
2022年6月1日(水)Gyao!にて鑑賞

児童虐待をテーマにした壮絶な映画。ハン・ジミンの演技が絶品

平日は仕事とリハビリ、週末は実家で父親の介護と、なかなか映画館に行けない日々が続いている。そんな中、夕方に時間があったので久々にGyao!で旧作を鑑賞した。2018年の韓国映画「虐待の証明」だ。

ところで、この映画、観ているうちに以前にも鑑賞していたことに気がついた。はたしてどこで観たのか。たぶん映画館ではないな。「のむコレ3」(2019年11月15日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)のみの上映だったようだから。

というわけで、色々と考えていたら東京国際映画祭で鑑賞したことを思い出した。2018年の第31回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で「ミス・ペク」のタイトルで上映されたのだ。とはいえ、まともなレビューを書いた記憶がないので、あらためてここに書いておく。

児童虐待をめぐる実話をもとにした韓国映画だ。どこまでが実話でどこまでが創作かわからないが、それはそれは壮絶な映画である。

母親から虐待を受け施設で育ったペク・サンア(ハン・ジミン)は、心に傷を抱えたまま生きていた。レイプ事件に巻き込まれた際には、犯人の父親が有力者だったため、逆に彼女が刑に服すことになる。刑事ジャンソプ(イ・ヒジュン)はそんなサンアを常に気にかけるが、彼女は出所後も荒んだ生活を送る。ある日、サンアは夜の街で震えている少女ジウン(キム・シア)と出会う……。

この映画の何がすごいかと言えば、主演のハン・ジミンの演技である。母に虐待され捨てられ、その後も不幸な事件で刑務所に入ったサンア。世間を呪い、荒んだ暮らしをする。その描写が絶品だ。まるで不幸を全部背負ったような演技。あんな女がいたら絶対に近づきたくない。

それが自分と似た身の上の少女ジウンとの出会いで少しずつ変わっていく。ジウンは実父とその内縁の妻から手ひどい虐待を受けていたのだ。彼女を見て自分の過去の痛みに否応なく向き合い、同時にその頑なだった心が少しずつ溶けていく。その繊細な描写も素晴らしい。

そして終盤ではジウンを守るために、鬼気迫る姿となる。その凄まじい情念!ハン・ジミンはこの演技で第38回韓国映画評論家協会賞で主演女優賞を受賞したというが、それも納得の演技である。

彼女に手を焼きつつも、何とか手を差し伸べようとする刑事ジャンソプを演じたイ・ヒジュンをはじめ脇役たちの演技も見応えがある。特にジウンを演じたキム・シアの健気さが胸を打つ。子役が輝くのは韓国映画の真骨頂。

アップを多用して、スリリングさを高めた映像も出色。ノワール映画のような緊迫感が全編に漂っている。エンターティメントとしてもよくできた映画だ。

ジウンの不幸な境遇を知ったサンアだが、初めは空腹な彼女に食事をさせただけで家に帰す。しかし、そこに過去の自分を重ね合わせて、次第に本気で彼女を救い出そうとする。そのあたりのサンアとジウンのぎこちない交流も印象深い。

児童虐待を描く本作には、もちろんその場面も描かれている。極力抑え気味にしてはいるものの、そのおぞましさはショッキングだ。それを通して、憎悪と悲哀の連鎖を描く。同時に、児童虐待に対して甘い警察の対応など社会の問題点も暴き出す。このあたりの語り口は韓国映画のお手のものだろう。

やがてサンアは自分を捨てた母の真情を知る(だからといって虐待が免罪されるわけではないが)。

そして終盤に待ち受けている壮絶過ぎるバトル。ジウンは誘拐されたと訴える実父と内縁の妻。彼らからジウンを守るべく決死の覚悟で戦うサンア。その結末は……。

ラストの後日談がこれまた良い。ジャンソプ刑事に引き取られて、彼の家(ドジョウ汁店)で暮らすサンア。学校でも楽しく生活している。その前に現れたのは……。そのさりげない場面も見事だった。

難を言えば、冒頭のサンアの母親の死から彼女の過去が描かれるあたりが駆け足で、いまいちわかりにくいところだろうか。

いずれにしても、児童虐待という深刻なテーマを扱いつつ、エンターティメントとしてもよくできた面白い映画だと思う。イベントのみでの上映とはいえ、こういう映画がお蔵入りにならなかったのは幸いである。

 


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◆「虐待の証明」(MISS BAEK)
(2018年 韓国)(上映時間1時間38分)
監督・脚本:イ・ジウォン
出演:ハン・ジミン、キム・シア、イ・ヒジュン、クォン・ソヒョン、ペク・スジャン、チャン・ヨンナム
*動画配信サイトにて配信中