映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ビリーバーズ」

「ビリーバーズ」
2022年7月17日(日)池袋HUMAXシネマズにて。午後12時30分より鑑賞(B-9)

~滑稽で恐ろしくてエロいカルトの人たち

またまた新型コロナ感染者が増えてきた。第7波らしい。こんな時に映画館に行く奇特な人はいないだろうなぁ、と思ってサイトを覗いたら、何の何の3連休はかなりの入り。「エルヴィス」なんてほぼ満席だもんなぁ。みんな勇気あるなぁ。

そんな中、ワクチンも受けておらず(というか体調のせいで受けられず)、感染が怖くて仕方ない私は、必死で空いた映画館を探したのだった。そしたら、あった、あった。池袋HUMAXシネマズの「ビリーバーズ」。本家(?)テアトル新宿ではそれなりの動員のようだが、こちらはそれほどでもなかったのでGO!

「ビリーバーズ」は、漫画家・山本直樹カルト教団をモチーフに描いたコミックが原作。この人、エロい漫画も描くが、そればかりではなく連合赤軍事件をモチーフにした「レッド」など、社会問題を扱った作品も描いたりする。「ビリーバーズ」は1999年の作品なので、おそらくオウム真理教事件をヒントにしたのではないだろうか。

監督は城定秀夫。一般には「アルプススタンドのはしの方」で有名になったが、とにかくものすごい数の映画を監督している(早撮りなのだろう)。脚本も書く。昨年から今年にかけて、「女子高生に殺されたい」(監督・脚本)、「猫は逃げた」(脚本)、「愛なのに」(監督・脚本)、「欲しがり奈々ちゃん~ひとくち、ちょうだい~」(監督)、「扉を閉めた女教師」(監督・脚本)など大量の作品が公開になっている。いわば職人なのだ。それだけに、本作もいろんな要素を巧みに詰め込んだ職人らしい映画になっている。

ある無人島で暮らす2人の男と1人の女。カルト宗教・ニコニコ人生センターに所属する彼らは、互いをオペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、議長(宇野祥平)と呼び合い共同生活を送っている。時折届くわずかな食料を糧に、俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行をする彼ら。だが、その日常はほんの些細な問題から綻びを見せ始める。

最初に行っておくが、この映画、エロ満載である。何度もエッチなシーンが出てくる。北村優衣のオッパイもしつこいぐらいに拝める。これでよくR18にならずにR15で済んだなと思ったら、よく考えたら肝心なところはギリギリ映さない。これもまた城定監督の職人技なのかも。

全体を通して感じたのは、無人島で暮らす3人の信者の言動の滑稽さだ。とにかく笑っちゃうのである。もちろん彼らにしたら真面目に修行しているのだが、それはあまりにも世間とかけ離れたもの。したがって、観ているこちらはおかしくて仕方がない。まさしくブラックコメディである。

特に彼らが重視するのは夢だ。昨夜観た夢の内容を翌朝告白し合う。それが嫌らしい夢だったりすると「淫夢だ!」と糾弾し、浄化のために下半身を穴に埋められるのである。もうバカとしか言いようがない。だが、そのバカを大真面目にやるから、滑稽なのを通り越して恐ろしくさえある。

教団の本部は混乱しているらしく、まともに食料も届かなくなる。そこで彼らはわずかな小麦粉と、海水と採取した貝でパスタを作り食す。そんなものまずいに決まっているのだが、「なかなか行けますね」などといって笑い合うのである。これまた滑稽を通り越して憐れである。

その後、腐ったまんじゅうを食った議長が高熱を発して瀕死の重症となり、奇跡の回復を見せるがその言動はますますおかしくなる。また、よそ者が島に立ち入って大騒ぎになり、何とか「最終的処理」をして平穏を取り戻す。

といったように色々あるのだが、後半にかけての大きなポイントになるのは「性」。オペレーターと副議長は、さすがに若い男女だけあってただならぬ関係になる。それに嫉妬した議長がとんでもない指示を出す。宗教的な理屈をコネてはいるが、要するに自分もただヤリたいだけなのである。

こうして今まで抑え込んでいた本能と欲望が全開になり、3人の関係に変化が生じ、ついに共同生活は崩壊してしまうのだ。

クライマックスは、教団の残党が島になだれ込んできて集団自殺騒ぎを起こし、警察と思しき集団と大バトルを繰り広げる。ド派手な銃撃戦もある。この映画で一番予算を使ったシーンかもしれない。ちなみに、先生こと教団の教祖は原作者の山本直樹が演じている。

この展開に加え、その後のオペレーターの運命を通して、カルト宗教の恐ろしさと、そこに足を突っ込んだ者たちの悲劇をあぶり出してドラマは終わる。

カルトはもちろん、アクション、エロ、コメディ、サスペンス、ロマンスなどいろんな要素が詰め込まれた映画だ。ただし、あまりにもエロ要素が強すぎて、他の要素がやや霞んでしまったのが残念なところ。特にサスペンスに関しては、もう少しゾクゾクさせるようなところがあってもよかった。

まあ、それでも、カルト宗教の滑稽さは十分に伝わってきた。いや、笑ってばかりもいられないだろう。最近話題になっている旧統一教会など、カルトは現在進行形の問題なのだ。劇中で、オペレーターは入信した母を脱会させようとして自分がハマったこと、副議長はDV夫から逃れて入信したことが語られる。カルトは日常と地続きであり、ヘタをすれば誰もがハマる可能性があるのだ。あなたにも、私にも、無関係とは言い切れないのである。

議長役の宇野祥平が絶品の演技。「夜を走る」の教祖役もそうだったが、こういう役がぴたりと似合う。ブラックコメディ色が強くなったのも彼の功績だろう。最近「前科者」「PLAN75」など出まくりの磯村勇斗は、これが初主演らしいが、よくぞこんな過激な作品を選んだもの。今後も大注目だ。そして北村優衣。オッパイだけじゃないぞ。演技もなかなかに魅力的な俳優なのであった。

◆「ビリーバーズ」
(2022年 日本)(上映時間1時間58分)
監督・脚本・編集:城定秀夫
出演:磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹
テアトル新宿ほかにて公開中
ホームページ https://believers-movie2022.com/


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