映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「こちらあみ子」

「こちらあみ子」
2022年7月20日(水)新宿武蔵野館にて。午後3時より鑑賞(A-2)

~邪心のない天衣無縫な子供が招く悲劇を飄々と

新型コロナの感染者増大中。頭の中で「人混みは避けた方がいい」という声と、「いやいや。映画館は換気もバッチリで大丈夫」という声がせめぎ合っている。さーて、どうしようか。

で、結局後者が勝って新宿武蔵野館へ。この日はサービスデーで1100円で映画が観られるとあって、なかなかの入りなのであった。

観たのは「こちらあみ子」という日本映画。芥川賞作家・今村夏子のデビュー小説の映画化だ。監督は大森立嗣監督の作品などで助監督を務めてきた森井勇佑。これが長編監督デビューとなる。

あみ子(大沢一菜)という名の風変わりな少女のドラマだ。この子ときたら、天衣無縫というか、傍若無人というか、やることなすこと社会の常識からかなり外れている。誰にも気兼ねせずに生きているのだ。

あみ子は広島の小学5年生。優しい父(井浦新)と面倒見のいい兄(奥村天晴)、書道教室の先生でお腹に赤ちゃんのいる母(尾野真千子)とともに4人で暮らしている。学校でも家庭でも浮いた存在のあみ子。その言動は周囲を振り回し、大好きなノリ君にしつこくつきまとってウザがられたりもするが、周囲の理解もあって元気に過ごしている。

あみ子はもうじき生まれてくる弟か妹が、待ち遠しく来て仕方がない。誕生日にトランシーバーをプレゼントしてもらい、赤ちゃんと交信するのだと大はしゃぎする。

だが、そんなある日、母が死産してしまう。それでも優しい家族に支えられて母は元気を取り戻しかけるが、やがて決定的な出来事が起きる。以前から金魚などのお墓を作るのを習慣としていたあみ子は、弟の墓を作り母に見せる。それを見た母は号泣する。そこからすべてが狂い始める。

冷静になってみると、かなり深刻な話である。本作ではその言葉は出てこないが、あみ子はいわゆる発達障害の子供だろう。純真無垢で思いのままに行動し、他人を慮ることができない。それが他人を振り回し、ついには家庭崩壊まで招いてしまう。あみ子に悪意はないだけに、それがとても切ない。

あみ子の例は極端にしても、純真無垢な子供の言動が、周囲の人たちを困らせるというのはよくある話。そんな時、子供にどう向き合えばいいのか。それを考えるきっかけにもなるドラマだと思う。

ちなみに、あみ子の母は父の後妻であることが、のちになって明かされる。最初からあみ子のことを「あみ子さん」とさん付けで呼んでいるので、そのあたりは察しが付くが、それもまた状況を複雑にしているように思える。

とはいえ、映画全体のトーンはけっして暗くない。母の特徴である大きなホクロだけを強調した顔のアップなど、あみ子目線の描写が秀逸だ。途中で変な音が聞こえるようになり、お化けがいるに違いないと信じたあみ子の前に、お化けたちが現れて「おばけなんてないさ」の歌とともに行進する、といったユーモラスなシーンもある。その他の演出も飄々としたタッチで観客を微笑ませる。登場人物たちの広島弁もいいアクセントになっている。

そしてなによりも、あみ子の前向きさがこの映画の明るさの原動力になっている。あみ子はどんなことがあっても、元気いっぱいで走り回る。

あみ子を演じた大沢一菜の存在感が抜群だ。オーディションで選ばれ、これまでに演技経験もないらしいが、よくぞこんな難しい役をこなしたもの。不思議な魅力を持つ子で特に目が印象的だ。日本にもこういう子役がいたのねぇ。彼女がいたからこそ、あみ子という存在が説得力を持って成立したのだろう。

後半は、あみ子が中学一年生になった話。状況はますます悪くなり、あみ子は相変わらず浮いた存在だ。それでもあみ子は心のままに行動する。あみ子のことが気になる同級生の男の子との交流なども描かれる。だが、あみ子は今でもノリ君だけを見続けている。

終盤、事態は抜き差しならないところに追い込まれ、あみ子は新たな環境で生きることを余儀なくされる。はたしてどういうエンディングが待ち受けているのか。暗いエンディングも予想したが、最後も飄々とした軽快なタッチの終わり方。自らの決意表明とも思える、海辺のあみ子の元気な姿に救われる思いがした。あみ子はきっと大丈夫!

原作は未読なのだが、はたしてどんな作品なのだろうか。映画とはどのあたりが違うのか。読んでみたい気持ちになった。

風変わりな少女の成長物語だ。明るく笑ってちょっぴり切ない気分にさせられる。子供との向き合い方、社会の常識から外れた人との接し方についても考えさせられた。

◆「こちらあみ子」
(2022年 日本)(上映時間1時間44分)
監督・脚本:森井勇佑
出演:大沢一菜、井浦新尾野真千子、奥村天晴、大関悠士、橘高亨牧、播田美保、黒木詔子、桐谷紗奈、兼利惇哉、一木良彦
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://kochira-amiko.com/


www.youtube.com

●そろそろ何か新展開を、と思って今さらながら「にほんブログ村」というのに参加してみました。まだよくわかっていないのですが。どうやら下のバナーをクリックしていただけると良いらしいです(そうなの?)。

 にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村