映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「セイント・フランシス」

「セイント・フランシス」
2022年8月22日(月)新宿武蔵野館にて。午後12時10分より鑑賞(スクリーン1/C-8)

~人生迷走中の女性の子守体験を赤裸々に、そしてユーモラスに

ベビーシッターとナニーの違いがよくわからない。赤ん坊の面倒を見るのがベビーシッターで子供の面倒を見るのがナニーかと思ったら、どうやらそうではないらしい。ネットを見れば、ナニーは職業でベビーシッターはアルバイトという解説や、ベビーシッターはアメリカで行われている保育サービスの1つで、ナニーはイギリスで行われている乳幼児専門の職業という説明などもあるが、それでもイマイチよくわからない。

まあ、どっちにしても子守の仕事であることを間違いなさそうだ。というわけで、6歳の少女のナニーをすることになった女性を描いた映画が「セイント・フランシス」だ。

34歳のブリジット(ケリー・オサリヴァン)は大学を中退し、今はレストランの給仕係として働いていた。そんなある日、ブリジットは夏の間ナニーとして6歳の娘フランシス(ラモナ・エディス・ウィリアムズ)の子守をする仕事を得る。フランシスの両親はレズビアンカップル。彼らとの出会いを通して、ブリジットの人生が少しずつ変わっていく……。

人生迷い中の主人公が、子守をする子供や家族などとの交流を通して変わっていく。この設定自体はありがちなもの。それでもリアルかつ軽妙に物語を展開して、とても魅力的な作品に仕上がっている。
    
まず目を引くのが主人公ブリジットのキャラ。これが何ともリアルなのだ。

大学を中退して、これといってやりたいこともなく、その日暮らしをしている。親友は結婚して今では子どもの話に夢中。それに対してブリジットは独身で子供もいない。自分では一生懸命生きているつもりなのに、周囲からは同情の視線を浴びて身の置き所がない。それでいて初めて会った男と関係を持ったりする。彼との子供を中絶するのにも躊躇がない。まあ、かなり不安定な状況なのである。

そんな彼女が出会うのが6歳の娘フランシス。これがヒネクレた娘なのだ。ブリジットに懐かないばかりか、平気で反抗したりする。

前半はこの2人の交流が生き生きと描かれる。当初はフランシスに手を焼いていたブリジットだが、お互いに少しずつ変わっていき心を通わせていく。

一方、フランシスの両親はレズビアンカップル。当初は理想的な家庭のように思えたが、次第にカップルそれぞれの心の闇が見えてくる。ブリジットは図らずもそこに巻き込まれていく。

ちなみに、この両親の片方が熱心なカトリック信者というのが何とも皮肉。そのせいで宗教的な話題もけっこう出て来る。

こうした中でブリジットは様々な経験をする。そして、ある出来事をきっかけにフランシスや家族との関係が変化し、それが彼女にも好影響を与えるのだ。

といっても、シンプルにそういう話が展開するわけではない。年下の男性との関係に自信が持てない彼女は、年上のギター教師に入れ込んだりもする。行きつ戻りつしながら、少しずつ、そして確実にブリジットは変化していくのだ。

その描き方が自然体でバランスが良い。ユーモアもタップリ込められている。

印象的な場面がたくさんある映画だ。教会の告解室でのブリジットとフランシスのやり取り。花火大会前のひと悶着。学校でのブリジットとフランシスの別れのシーンなどなど。

ブリジットの両親とのエピソードも印象深い。そこで母親はかつてブリジットに対して抱いた気持ちを正直に打ち明けるのだが、それが実に自然でウソがない。

とにかく変な気負いがなく、良い意味で力の抜けた脚本と演出である。脚本を手がけたのは本作で主演を務めるケリー・オサリヴァン。等身大の演技も素晴らしければ、脚本も素晴らしい。監督は、彼女の私生活でのパートナーでもあるアレックス・トンプソン。これが長編デビューとなる。

フランシス役のラモナ・エディス・ウィリアムズの、小生意気と可愛さの同居した演技もなかなかのもの。

さて、本作でもう一つ言っておかなければいけないことがある。中絶、産後ウツ、生理、尿漏れなど、これまでの映画ではタブーとされてきた女性の事情が赤裸々に描かれているのだ。

とはいえ、それもバランスがいい。タブーを破るといった気負いがない。シリアスさと軽妙さが絶妙に配合されているので、男性の観客が見ても引くことはないだろう。

女性はもちろん男性も笑いながら共感して、感動できる映画だ。世間のしがらみや固定観念にとらわれるのではなく、自分の心のままに生きることの大切さが伝わってくる。なかなか見事な一作である。

◆「セイント・フランシス」(SAINT FRANCES)
(2019年 アメリカ)(上映時間1時間41分)
監督:アレックス・トンプソン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモナ・エディス・ウィリアムズ、チャリン・アルバレス、リリー・モジェク、マックス・リプヒツ、ジム・トゥルー=フロスト、メアリー・ベス・フィッシャー、フランシス・ギナン、レベッカ・スペンス
*ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほかにて公開中
ホームページ https://www.hark3.com/frances/


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