映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「恋する惑星」4Kレストア版

恋する惑星」4Kレストア版
2022年8月30日(火)グランドシネマサンシャインにて。午前11時20分より鑑賞(スクリーン6/f-8)

~スタイリッシュで鮮烈な恋愛映画の名作が今蘇る

1995年に日本公開された「恋する惑星」。たぶん劇場では見逃したと思う。そのうちに評判が聞こえてきて、友達がべた褒めしていたので、ビデオを購入して鑑賞。それまでの香港映画のイメージを覆すスタイリッシュなタッチ、鮮烈な映像、存在感たっぷりの俳優たちに完全にノックアウトされたのだった。これは名作、いや傑作ではないか!

そして、このたび4Kレストア版が登場。他のウォン・カーウァイ作品とともに「WKW4K ウォン・カーウァイ4K」として上映された。そしたらこれが連日ほぼ満席。ウォン・カーウァイ監督ってこんなに人気があったっけ?

そんな中、珍しく平日の昼間の上映があったので、いくら何でも満席にはならんだろうというので出かけてきた次第。とはいえ、さすがに満席にはならなかったものの、平日の昼間にもかかわらずかなりの入りだった。

どんな映画かというと2組の恋愛劇だ。1つめのエピソード。エイプリルフールに失恋した刑事223号(金城武)は恋人を忘れるため、知り合いの女の子を電話で誘うものの(その中の1人には日本語でアプローチする)、あえなく全滅。一方、麻薬取引にかかわる金髪の女(ブリジット・リン)は、雇ったインド人たちに逃げられ香港の夜の街を走り回る。そして、そんな2人がバーで出会う。

2つめ。小食店の新入り店員フェイ(フェイ・ウォン)は、店の常連である刑事633号(トニー・レオン)に恋をする。彼はCAの恋人にフラれて未練を抱えていた。ある日、フェィは刑事633号宛の手紙を店主から託される。それは元恋人のCAからの手紙で、彼の部屋の鍵が同封されていた。フェイは、その鍵を使って彼の部屋に忍び込む。

ストーリーだけ聞けば、どうってことのない恋愛ドラマだ。だが、これがウォン・カーウァイの手にかかると、とびっきり素敵でカッコいい映画になってしまう。全編を貫くスタイリッシュなタッチ。クールなモノローグ。ディテールへの半端ないこだわり。何度カッコいい!と叫びそうになったことか。

ただし、スタイリッシュとはいっても、気取っているわけではない。失恋した刑事223号は恋人とヨリを戻せると信じて、フラれた日から1カ月後の自分の誕生日までパイナップルの缶詰を毎日買い続けている。賞味期限が近付いたものは店から撤去され、それに猛然と抗議する。ホームレスにあげようとすると、「もう賞味期限だろ」と相手にされない。そして、最後は猛然と30個のパイナップル缶を食べるのだ。そこには刑事223号の必死さ同時に、そこはかとないユーモアも込められている。

2つめのエピソードもスタイリッシュな描写が目立つ。スタイリッシュすぎて、ブリーフ姿のトニー・レオンさえオシャレに見えるのだ。彼の部屋にフェイが忍び込むシーンも、実に洗練されていてテンポがいい。飛行機の模型、水槽の金魚、ぬいぐるみなどのアイテムも巧みに使われる。描きようによってはフェイはただのストーカーなのだが、センスの良い描写のおかげでそんなことを感じさせない。

そして、忘れてはならないのがクリストファー・ドイルによる映像である。冒頭では刑事223号と金髪の女が、それぞれ香港の街を疾走するシーンが描かれるが、そこからすでにドイルにしかできない独特の映像が炸裂する。鮮烈という言葉が陳腐に思えるほど鮮烈な映像。縦横無尽なカメラワーク。これはもはやアートといってもいいだろう。すべてのシーンがアート作品なのだ。今回4K映像になったことで、映像の凄みがますます際立った。

音楽の使い方も素晴らしい。インド音楽からオールディーズまで場面場面に合った音楽が流される。その中でもくどいほど流されるのが、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」。フェイがカリフォルニアに憧れているという設定ゆえに使われているのだが、その曲に合わせて彼女が身体をくねらせて踊るシーンが絶品。最初に見た時から今までずっと頭に残っているシーンだ。

そしてフェイ・ウォンが歌う「夢中人」。元歌はクランベリーズの曲だが、個人的にはこちらのほうが魅力的でもう何百回と聞いている。それはこの曲自体が持つ魅力以上に、この映画のシーンと見事にマッチしているからだろう。フェイの恋心のスパークがこの曲の出だしに見事に象徴されている。

夢のカリフォルニア」と「夢中人」が流れてくると、自然に「恋する惑星」のシーンが浮かんでくるのである。

俳優たちがみんな輝いて見えるのもこの映画の凄いところ。金城武の青さ、ブリジット・リンのミステリアスさ、トニー・レオンのカッコよさ、フェイ・ウォンのキュートさ。特にフェイ・ウォンのはじけ方が良い。彼女なしにこの映画は成立しないだろう。素晴らしい存在感。ラストのCA姿も可愛らしい。彼女こそ永遠のアイドルなのだ!

ちなみに、この映画は過去の映画作品へのオマージュにもあふれていて、例えば、フェイの髪型はゴダールの「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグを意識した髪型。ブリジットが扮した金髪にトレンチコート姿の女性は、ジョン・カサベテスの「グロリア」のジーナ・ローランズへのオマージュと言われている。この映画のカッコよさの原点は、そのあたりにもあるのだろう。

30年近く前の映画なのに、今回観てまったく旧さを感じなかった。ストーリーはベタな恋愛映画でも、これだけ素晴らしい作品になるという映画のマジック。それを見せてくれたウォン・カーウァイ監督。間違いなく、個人的には今まで観た映画の中で上位にランクされる名作である。

◆「恋する惑星」(重慶森林/CHUNGKING EXPRESS)
(1994年 香港)(上映時間1時間42分)
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオンフェイ・ウォン、ブリジット・リン、金城武、バレリー・チョウ
*シネマート新宿、グランドシネマサンシャインほかにて公開中
ホームページ http://unpfilm.com/wkw4k/


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