映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「さかなのこ」

「さかなのこ」
2022年9月3日(土)シネ・リーブル池袋にて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン2/H-4)

~「普通」を飛び超えて「好き」を貫くことの素晴らしさと困難さ

なに?さかなクンの自伝的エッセイを「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一監督が映画化?主演はのん?

ワケがわからなかった。

予告編を観ても、のんがさかなクンを演じることはわかったが、それ以上はやはりモヤモヤしたままだった。

だが、実際に映画を観て疑問は完全に氷解した。

小学生のミー坊(のん)は魚が大好き。いつも魚のことばかり考えている。そんな我が子を父(三宅弘城)は心配するが、母(井川遥)は温かく見守り応援し続ける。やがて高校生になってミー坊の魚好きにはますます拍車がかかり、町の不良たちとも仲良くするなど楽しい毎日を送るのだが……。

子供の頃から魚が大好きだった主人公が、多くの人との出会いを通して、自分の好きなことを仕事にするまでが描かれる。物語の基本はさかなクンの半生をたどったものだろうが、沖田監督はそこに大胆にフィクションを組み込んでいる。

映画の冒頭、いきなり「男か女かは、どっちでもいい」というテロップ。堂々たるジェンダーレス宣言である。この映画では男も女も関係ない。一人の人間として主人公を描くのだ、というわけだ。その言葉通りに、主人公のミー坊が男か女かなどということは、観ているうちに全く気にならなってくるのだ。

序盤は子供時代のミー坊(西村瑞季)がユーモラスに描かれる。ひたすら「魚好き」を貫き通すミー坊。母の理解もあって、心ゆくまで魚を観察し、「お魚新聞」なるものを発行し、魚料理を食べる毎日。

そんな中、いかにも怪しそうギョギョおじさんなる人物が登場。なんとさかなクン自ら演じている。それもどうでもいいチョイ役ではなく、誰にでもある子供時代の怪しい体験をもたらす重要人物として登場するのだ。

続いて、高校時代のミー坊(のん)が描かれる。魚好きの道をまっしぐらに突き進み、常に魚とともに過ごす日々。カブトガニの人工ふ化に成功して、新聞に載ったりもする。ちなみに、ミー坊は学生服で登場する。

そこで時間を割いて描かれるのが、不良たちとの交流。磯村勇斗演じる総長率いる不良グループが、ミー坊に因縁をつけに来る。とはいえ、この不良たち、乗っているのはバイクではなく、スクーターや自転車。その言動も何となくユルい。そんな彼らとミー坊のやりとりは、オフビートな笑いに満ちている。

ミー坊が不良グループのメンバーからナイフを借りて、釣った魚をさばくシーンが傑作。「お前、ナイフぐらい持ってねえのかよ」という不良に対して、ミー坊が「持ってるよ。でも、クサくなったら嫌じゃない」。これには不良グループも形なしだ。

一方、そんな不良グループと対峙する地元の不良もこれまたユルい。率いるのはミー坊の幼なじみのヒヨちゃん(柳楽優弥)。不良同士の対決は迫力満点といいたいところだが、間が抜けていて自然に笑ってしまう。

ただし、この不良たちが後にミー坊の運命を大きく変えるのだ。

そして、ここでも母がミー坊の背中を押す。学校の進路相談で、先生から成績アップを求められると、「成績が良い子もいるし、そうでない子もいる。それでいいじゃありませんか」と反論するのである。この母がいたからこそ、ミー坊は魚好きを貫けたのである。

その後は、さらに時間を経たミー坊が描かれる。魚に関係した仕事として、水族館や寿司屋に努めるものの、なかなかうまくいかない。挫折の連続。そこで、彼女は幼なじみのシングルマザーのモモコ(夏帆)と彼女の娘とともに暮らすことになる。

モモコは海辺で言う。「こういうの普通じゃないよね」。それに対してミー坊は言うのだ。「普通ってなに?」。

というわけで、このドラマは世間の「普通」に疑問を提示する。普通であることを強いられ、多くの人が窮屈さを感じ夢を諦めている。その現状に「?」を突きつける。

終盤、ミー坊に手を差し伸べる人たちが現れる。それもこれもミー坊が徹底的に「魚好き」を貫いたからだ。ミー坊はついに夢をつかんだのだ。こうして好きなことを追求する大切さと同時に、その困難さも見せてドラマが終わる。

もちろん、すべての人がミー坊のように夢をかなえられるわけではない。それでもひたすら、「好き」に向かって突き進むミー坊を見ているうちに元気がもらえる。沖田監督らしい秀作だと思う。

のんはこういう役がハマリ役だ。彼女でなければなかなかできない役だ。幼なじみ役の柳楽優弥磯村勇斗夏帆もいい演技をしている。そして、母親役の井川遥のさりげない温かさが心に染みる。

◆「さかなのこ」
(2022年 日本)(上映時間2時間19分)
監督・脚本:沖田修一
出演:のん、柳楽優弥夏帆磯村勇斗岡山天音、西村瑞季宇野祥平、前原滉、鈴木拓島崎遥香、賀屋壮也、朝倉あき、長谷川忍、豊原功補さかなクン三宅弘城井川遥
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://sakananoko.jp/


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