映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「LAMB/ラム」

「LAMB/ラム」
2022年9月27日(火)グランドシネマサンシャインにて。午後3時50分より鑑賞(スクリーン10/D-8)

~羊をめぐる奇怪なドラマ。ジャンル分け不能の怪作!

国葬というものが行われるこの日。当然ながら招待されるわけもなく(されても行かないよ!)、仕事が入っていたので反対派の集会にも行けず(前日の新宿西口の集会には行ったけど)というので、仕事が終わって行ったのはいつものように映画館なのだ。

予告編を観て面白そうだった「LAMB/ラム」を鑑賞。何でもホラー映画の怪作だという評判で、土日はほぼ満席に近い入り。さすがに平日はそこまでの入りではなかったが。

アイスランドを舞台にしたドラマだ。人里離れた山間の土地に住む羊飼いの夫婦イングヴァル(ヒルミル・スナイル・グドゥナソン)とマリア(ノオミ・ラパス)。羊の出産に立ち会った彼らは、羊ではない「何か」が産まれてくるのを目撃する。夫婦はその「何か」にアダと名付けて育てる。夫婦に溺愛され、すくすくと成長していくアダだったが……。

確かに全体に漂う雰囲気はホラー映画のようだ。静謐で雄大アイスランド大自然。そこで暮らす1組の夫婦。彼らが飼う羊たちや犬猫。それらを不気味なタッチで映し出す。流れる音楽も何やら不穏な音楽だ。

だが、はたしてこの映画はホラー映画なのか。神話的な世界を描いたファンタジーともいえる。謎に満ちたスリラーともいえる。人間の悲しみを描いたドラマともいえる。要するにジャンル分け不能。唯一無二の映画なのだ。

冒頭は深い霧の中を行く動物たちの群れ。それを上空から俯瞰で映す。うむ、羊が重要なカギを握るドラマだけに、きっと羊の群れだろう。と思ったら馬かよ!それでも、何やら意味深な導入部で心をざわつかされる。

続いていよいよ羊たちが登場。これがまあ何とも恐ろしげなのだ。映るのは普通の羊なのだが、いかにも意味ありげなタッチで描写している。何か恐ろしいことが起こることを予感させるのだ。

本作は3章構成になっている。第1章は、イングヴァルとマリアの夫婦が、羊の出産に立ち会い、そこで羊ではない「何か」が産み落とされるのを目撃し、それを自宅に連れ帰って大切に育てるというお話。

実は、この夫婦、ほとんど口もきかず笑顔も見せない。そこには何かがあるのだろうと想像させるが、同時に不気味な雰囲気を煽る効果を見せている。

羊が「何か」を産み落とした瞬間の夫婦にも注目だ。あんなものが登場したら、普通はビックリ仰天して大騒ぎになるはず。ところがこの夫婦、一瞬驚いた表情を見せるものの、すぐにその「何か」を抱き上げ、ごく自然に自宅に連れ帰るのである。

ちなみに、「何か」はもちろん羊絡みのものである。最初は羊の顔だけ見せているが次第に全身を映す。その造型はたくさんの子役や実際の子羊、特性スーツなどを駆使して描いたものらしい。何やら謎めいた中で、その愛くるしさが際立つ。

第2章は夫のロクデナシの弟が、家に戻って来るところから始まる。弟は元ミュージシャンで、彼が使っていたドラムセットや昔のPVなども登場する。彼は夫婦が溺愛する「何か」を見て驚く。そればかりか傷つけようともする。その一方で、彼は兄の妻に色々とちょっかいを出す。それでも夫婦の絆は揺るがない。

その頃には、夫婦はこの間までの態度がウソのように快活になり、明るい毎日を送っていた。「何か」が夫婦の生活を一変させたのである。

第3章。弟は兄嫁に促されて家を去る。これでまた元通りに、夫婦と「何か」の3人での幸せな日々が始まるかと思いきや……。

実は3章で明かされるのだが、この夫婦は我が子を失っていたのだ。その子の名前はアダ。だから「何か」にもアダという名をつけ、ごく自然に受け入れたのである。喪失の悲しみが、通常では考えられない行動をとらせたのである。

そして、3章の終わりには悪夢的な結末が待っている。破滅に向かう夫婦。そこで登場するのがラスボス的な「あれ」。「何か」とか「あれ」とかもったいぶって申し訳ないが、どうもネタバレになるらしいのでご容赦を。

その悲劇で描かれるのは喪失の悲しみの連鎖だ。妻のマリアが我が子の喪失の悲しみを味わったのと同様に、「あれ」も親子の絆を断ち切られるという喪失の悲しみを体験した。そして、そこで起きる悲劇よ!

まさに因果応報。羊の母ちゃんの恨みは恐ろしいのだ。

しかし、まあ、こんなB級映画紛いのネタを、よくぞこれだけユニークな映画に仕上げたものである。監督のアイスランド出身のヴァルディマル・ヨハンソンは、色々と映画周りで活動していて、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などの特殊効果も担当したとのこと。これが長編監督デビュー作。何やら神話的なその世界の背景には、宗教的な要素もありそうだ。うーむ、デビュー作でこんな怪作を撮るとは。

主演のノオミ・ラパスは「ミレニアム」シリーズなどで日本でもおなじみだが、子供の頃アイスランドに住んだことがあるそうで、見事にアイスランド語を操っている(そもそもアイスランド語を知らんけど(笑))。本作の製作総指揮も務めている。ラストシーンの彼女の表情が、この映画の立ち位置をより深遠なものにしている。

ジャンル分け不能のまさに怪作!色々と賛否はありそうだが、不気味でシュールな神話のような世界は一見の価値がある。

◆「LAMB/ラム」(LAMB)
(2021年 アイスランドスウェーデンポーランド)(上映時間1時間46分)
監督:ヴァルディマル・ヨハンソン
出演:ノオミ・ラパスヒルミル・スナイル・グドゥナソン、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソン、イングヴァール・E・シーグルソン
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://klockworx-v.com/lamb/


www.youtube.com

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