映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「七人樂隊」

「七人樂隊」
2022年10月11日(火)新宿武蔵野館にて。午後3時より鑑賞(スクリーン1/C-5)

~7人の香港のベテラン監督によるノスタルジックなオムニバス映画

昔、何度か香港に行ったことがある。とても良いところで楽しかった。特にホテルのラウンジから見た夜景は忘れ難い。今ではもう色々な意味で変わってしまったけれど、また訪れてみたい気もする。

「七人樂隊」は香港の7人の有名ベテラン監督によるオムニバス映画だ。1950年から未来までを舞台に、1話15分程度の7つの物語が展開する。恋人たちの悲しい別れからコントのような爆笑のエピソードまで、バラエティーに富んだ内容だ。

1作目はサモ・ハン監督の「稽古」。おそらく監督の自伝的エピソードなのだろう。1950年代に仲間とともに、師匠の下で必死にカンフーの稽古をした幼い日が描かれる。いかにもカンフー映画で知られる監督らしい作品だ。

2作目はアン・ホイ監督の「校長先生」。教育に情熱を注ぐ校長先生と彼を慕う同僚の女性教師、そして生徒たちの姿が生き生きと描かれる。同時に、後年彼らが集い若くして亡くなった女性教師を追悼する姿には、思わずホロリとさせられた。

3作目はパトリック・タム監督の「別れの夜」。1組の若いカップルの別れを描いた作品だ。彼女が家族とともに外国へ移住するため、彼氏と最後の一夜を過ごす。それをスタイリッシュな映像で綴っている。ラストに流れる救急車の音が意味深だ。ちなみに、劇中では山口百恵の「秋桜」のカバーが流れるのだが、その歌詞の内容はドラマに沿うようにて男女の別れを歌っていた。

4作目はユエン・ウーピン監督の「回帰」。香港に残る祖父のもとに、香港を去る孫の女の子が訪ねて来て短期間一緒に過ごす。その交流をユーモアたっぷりに描く。両者のかみ合わない会話の面白さ、カンフーの達人の祖父が孫を助けるエピソードなど、ほのぼのとした味わいを持つ作品。最後の後日談も清々しく、個人的には一番好きな作品かな。

5作目は本作のプロデューサーも兼ねるジョニー・トー監督の「ぼろ儲け」。飲食店を舞台に、ITバブル、SARSの流行など様々な時代に、大儲けを夢見る3人の市民が株や家の値段に一喜一憂する姿をユーモラスに描く。これもなかなか面白い作品で皮肉もきいている。

6作目はリンゴ・ラム監督の「道に迷う」。イギリスに家族とともに移住していた男性が、久々に香港に帰って来て浦島太郎気分を味わう。さらに、タイトル通りに道に迷い悲劇にあうというお話。変わりゆく香港の姿を強烈に印象づけるとともに、ラストには切なさも味合わせてくれるドラマだ。ちなみに、リンゴ・ラム監督はこれが遺作となった。

最後に登場するのは、ツイ・ハーク監督の「深い会話」。精神病院を舞台に、医師と患者がたたみかけるような会話を展開する。その中には映画ネタが満載。特にこの映画自体を揶揄したような話(「どうせ賞狙いなんだろう」とか)には爆笑してしまった。しかも、なんとこの医師と患者の正体が意外なもの。それを見ている医師たちも実は……。という混乱の極みを生み出すなどアナーキーともいえる展開。バラエティーに富んだ本作を締めくくるのにふさわしいエピソードだった。

エンドロールで流れる音楽も心地よい。

というわけで、1話15分程度ということもあり、最後まで飽きずに観ることができた。短い時間では深いドラマは描けないと予想していたが、さすがにそこは名だたる監督だけあってどれも過不足なく仕上げていた。

そこには1950年代以降の様々な人間模様や香港の姿が描かれており、ノスタルジックな雰囲気が漂っている。7つの物語には、各時代を特徴づける風景、音楽、ファッションが満載。デジタルカメラが主流の現代にあえて35mmフィルムで撮影を行った映像も、独特の色合いを本作に加えている。

香港映画の歴史を作ってきたフランシス・ン、サイモン・ヤム、ラム・シューらから気鋭の若手までを集めたキャストも味わい深い。

香港映画の歴史を知るとともに、変わりゆく香港の姿がよくとらえられた作品だ。殊更に現在の香港を投影したエピソードは登場しないが、返還前とはずいぶん違ってしまった今の香港を見るにつけ感慨深いものがある。

何度か登場する旧啓徳空港の時代の航空機の超低空飛行の映像が、とても懐かしくて思えた。

 

◆「七人樂隊」(七人樂隊/Septet:The Story of Hong Kong)
(2021年 香港)(上映時間1時間51分)
監督:サモ・ハン、アン・ホイ、パトリック・タム、ユエン・ウーピンジョニー・トーリンゴ・ラムツイ・ハーク
出演:ティミー・ハン、フランシス・ン、ジェニファー・ユー、ユン・ワー、ン・ウィンシー、トニー・ウー、ミミ・クン、サイモン・ヤム、チョン・ダッミン、ラム・シュー、ローレンス・ラウ
新宿武蔵野館ほかにて公開中

ホームページ https://septet-movie.musashino-k.jp/


www.youtube.com

 

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