映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ヒューマン・ボイス」

「ヒューマン・ボイス」
2022年11月9日(水)Bunkamuraル・シネマにて。午後1時5分より鑑賞(ル・シネマ1/C-6)

ティルダ・スウィントンの一人芝居がすごい!アルモドバル初の英語劇

2~3年前までは1日5本とか、平気に映画館で映画を観ていた私だが、コロナ禍や心臓の手術などあって今は1日1本がやっと。あ、でもこの前は、「千夜、一夜」と「マイ・ブロークン・マリコ」をハシゴしたっけ。

この日も2本の映画をハシゴ。といっても、1本は30分の短編だから、どうってこともないのだが。

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の新作「パラレル・マザーズ」の公開に合わせて、2020年の短編映画「ヒューマン・ボイス」が併映された。こちらは特別料金800円也。

ジャン・コクトーの戯曲「人間の声」を大胆に翻案した30分の短編映画である。アルモドバルにとっては初の英語作品ということになる。ちなみに製作されたのはコロナ禍の真っただ中で、色々と制約もあったらしく、それを逆手にとって製作されたらしい。

映画の序盤、ティルダ・スウィントンが工具店に出向いて斧を買ってくる。何をする気だ?この女。

家に帰った女は、男物のスーツをその斧で切り刻むのだ!

というわけで、彼女の恋人は3日前から家に帰ってこないことが独白で告げられる。どうやら彼女のもとを去って行ったらしい。女は無力感にさいなまれ、絶望に打ちひしがれる。

ちなみに、「いつもは映画を見ているうちに必ず帰ってきたのに……」と彼女がボヤく場面で映るDVDのパッケージは、「キル・ビル」?

細かな装飾やティルダの着ている衣装、セットなどにアルモドバルらしい鮮やかな色彩感覚やこだわりが感じられる。映画の冒頭では、ティルダが鮮やかな赤色の衣装を着て登場する。

とはいえ、本作は間違いなくティルダ・スウィントンの映画である。

その後、ついにその男から電話がかかってくる。ただし、相手の声は聴こえない。ティルダはハンズフリーのイヤホンらしきものをつけている。その分心おきなく演技ができるわけだ。この電話のシーンこそが、この映画の真骨頂!

最初は男に対して、「あたしは平気よ」オーラを発している女。あくまでも誇り高く。普通と変わりなく行動していると告げる。だが、その言葉の端々から違う感情がチラリチラリと現れる。

そのうちに女は男に一度戻ってきて欲しいという。いやいや、あからさまに復縁を求めているわけではない。一度家に荷物を取りに来いというのだ。男の飼い犬も連れて行けという。そんなこんなで会話を続けるうちに、次第に女の感情が高ぶっていく。

それがついに爆発する!女は冷静さを忘れ、心のうちに溜まっていたものをすべて吐き出す。絶望、落胆、怒り、悲しみ……。それはもう壮絶な会話である。

その後、一度電話が切れる。その間に女は部屋にガソリンをまく。その部屋がスタジオに組まれたセット感丸出しなのだが、それはアルモドバルが意図したものだろう。もしかしたら、その恋愛が映画のセットのように、もろいものだったことを示しているのかもしれない。

その後、再び電話がかかってくる。彼女は不穏なことを口にする。電話を切った彼女はどんな行動に出たのか?

ティルダ以外の出演者は、工具店のおやじや消防士、そして犬などほんのわずか。ほぼ完全な一人芝居状態。しかも、そのほとんどが電話の会話である。それで愛を失った女のグラグラ揺れる心を表現してしまうのだから、ティルダ・スウィントン恐るべし!

30分と言わず、もっと長く彼女の演技を観ていたくなったのだった。

 

◆「ヒューマン・ボイス」(THE HUMAN VOICE)
(2020年 スペイン)(上映時間30分)
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ティルダ・スウィントン、アグスティン・アルモドバル
Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://pm-movie.jp/

 


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