映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「母性」

「母性」
2022年11月24日(木)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午前11時30分より鑑賞(スクリーン5/G-13)

~「母性」とは何か?を追求し、「母」の概念に疑問を呈す母娘のドラマ

また廣木隆一かよ!

次々に映画を撮る廣木隆一監督。この秋冬だけでも「月の満ち欠け」「母性」「あちらにいる鬼」と監督作品が3本も公開だ。先日は「あちらにいる鬼」を取り上げたが、今回は「母性」を取り上げる。それにしてもよく働くなぁ~。

人気作家・湊かなえの小説が原作のミステリードラマだ。

映画の冒頭。ある事件の記事が学校の教員室で話題になる。女子高生が自宅の庭で死亡したのだ。発見したのは少女の母。それは事故なのか自殺なのか。

続いて、ルミ子(戸田恵梨香)という母が真相を語り始める。お嬢様育ちの彼女は実母(大地真央)の愛情を一身に受けて育ち、ルミ子もそんな実母を溺愛していた。やがて、ルミ子は絵画教室である男性と出会う。最初は気にもしていなかったルミ子だが、母がその男性が描いた絵を激賞したことが転機になる。母に気に入られたい一心でルミ子は、その男性とつきあうようになり、ついには結婚する。そして、2人の間には娘が生まれる。だが、そこで悲劇が起きる……。

原作はミステリーだが、映画はミステリーよりも人間ドラマが前面に出ている印象だ(原作は未読だが)。

そんな中で、冒頭のトリックには注意が必要だ。実はこの場面には大きな秘密がある。その時には気づかなかったが、錯覚を誘う仕掛けが施されていることがあとになってわかる。

その後は、ルミ子と娘の清佳(永野芽郁)、それぞれの視点で物語が語られる。同じ出来事を違った視点で描くのだ。前半はルミ子の視点で、中盤は清佳の視点で。

これをいわゆる「羅生門」方式という。黒澤明監督の「羅生門」で使われた手法だ。ただし、この映画の場合には、それほど事実関係が違ってくるわけではない。ルミ子と清佳、語り手が違うことによる微妙な解釈の違いや感じ方の違いが現れる程度である。

それにしても、ルミ子の実母のキャラがすごい。娘を思い、娘のためにひたすら尽くす。そしていつも優しい。まさに理想を絵に描いたような母なのだ。だが、それが極端すぎて見ようによっては不気味にさえ映る。そんな母のもとで、ルミ子は母を頼り、彼女に気に入られようとする。自分の娘への愛情も、母に気に入られたいという思いから生まれるのである。

一方、清佳は、幼い頃から母に気を遣い必死で母に気に入られようとする。母に言われれば自分の意志を押し隠し、ひたすら母の言うことに従う。そんな子供だった。

母と娘それぞれの視点で過去が振り返られたのちに、後半は今度は母と娘が共通して経験したことが描かれる。語り手はルミ子と清佳が随時入れ替わる。

自宅を失くしたルミ子と夫、そして清佳は夫の母、つまりルミ子の義母(高畑淳子)の家に身を寄せることになる。だが、この義母が凄まじい鬼姑なのだ。ルミ子を目の敵にしてこき使い、始終口うるさく文句ばかり言う。そうなのだ。義母は、ルミ子の実母とは両極端の不気味な人物なのである。

ルミ子はそんな義母に対して抵抗することもなく、ひたすら従い気に入られようとする。それはあたかも、かつて実母に気に入られようと必死になった姿と重なる。

だが、清佳にとってはルミ子の行動は疑問だらけだ。なぜ義母に抵抗しないで、唯々諾々として従うのか。そして、彼女にとってもっと大きな疑問があった。自分はルミ子に愛されたいと思い、自分を抑えて彼女のいうことに従っていた。しかし、母はどこがよそよそしい。ルミ子は自分のことを愛していないのではないか。

その後、ドラマは義母の娘の駆け落ち、父の不倫といった波乱の要素をばらまきつつ、終盤へと差しかかる。そこでついに決定的な事実が明らかになる。かつてルミ子と実母、そして清佳との間に起きたある出来事の真実が明らかになるのだ。

そのことが悲劇の序章になる。ここでルミ子と清佳の見解が決定的に分かれる。そして……。

本作で描かれるのは母娘のドラマだ。ルミ子と実母、ルミ子と清佳、そしてルミ子と義母。その中でも中心になるのはルミ子と清佳の母娘の物語である。いつまでも娘のまま愛されたい母親。そんな母親からの愛情に飢えた娘。その歪んだ親子の関係が悲劇につながる。

それを通して提示されるのは、「母性とは何か」というテーマだ。母性とは生まれ持ったものなのか?女性なら誰でも母性を持っているのか?

「母親はこうであるべき」というような固定的な概念が、多くの女性を傷つけ、生きづらくしていることを訴えているようにも見える。

その証拠に最後に提示されるのは未来への希望だ。ある人物が自らの妊娠を肯定的に捉える。そこに母娘のしがらみを超えた新たな女性の生き方を見出すのは、考え過ぎだろうか。

本作の俳優陣の演技はみな素晴らしい。戸田恵梨香は難しいキャラ(完全な悪女じゃないからね)の女性を葛藤しつつ演じている。永野芽郁は「マイ・グロークン・マリコ」とはひと味違う役を熱演している。

それに加えて、実母役の大地真央と義母役の高畑淳子の存在感がすごい。どちらも大げさなほどの演技を披露しているのは計算づくだろう。それによって母という存在が秘めた狂気を見せつけ、歪んだ親子関係を目の前に突きつける。

観る人によって受け止め方は違うだろう。原作のファンは不満かもしれない。それでも、母という存在を追求した映画として、観る価値は十分にある。

◆「母性」
(2022年 日本)(上映時間1時間55分)
監督:廣木隆一
出演:戸田恵梨香永野芽郁、三浦誠己、中村ゆり山下リオ吹越満、高橋侃、落井実結子、高畑淳子大地真央
丸の内ピカデリーほかにて全国公開中
ホームページ https://wwws.warnerbros.co.jp/bosei/

 


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