映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「宮松と山下」

「宮松と山下」
2022年11月29日(火)渋谷シネクイントにて。午後1時50分より鑑賞(スクリーン2/D-8)

~虚構と現実の境目がないエキストラの不思議な人生

いつも読んでくださりありがとうございます。
メジャーな映画から地味なインディーズ映画まで、節操もなく取り上げるブログです。
というわけで本日はこちらの映画を……。

教育番組「ピタゴラスイッチ」などで知られるクリエイティブディレクターの佐藤雅彦NHKでドラマ演出に携わってきた関友太郎。「百花」の共同脚本を務めた平瀬謙太朗。東京芸大大学院映像研究科で佐藤が研究室を率い、関と平瀬は教え子という関係でもある。

この師弟3人は監督集団「5月」結成して、これまでに何本かの短編映画を作ってきた。そして、いよいよ長編デビュー作となったのが「宮松と山下」だ。上記3人が監督、脚本、編集に名を連ねている。

エキストラ俳優の宮松(香川照之)のもとに、ある時、谷(尾美としのり)という男が訪ねてくる。彼によれば宮松は本当は山下という名前で、かつてタクシー会社で同僚だったという。だが、宮松はその記憶をすっかり失っていた。年の離れた妹がいると聞き、宮松は会いに出かける。妹の藍(中越典子)と夫の健一郎(津田寛治)は彼を大歓迎するのだが……。

この作品については、事前にかなり実験的な映画だという噂を聞いていた。だから、どれだけぶっ飛んだ映画だろうと思ったのだが、実際はそれほどもなかった。

とはいえ、かなり挑戦的な作品なのは間違いない。

映画の冒頭は時代劇。しかも殺陣のシーンだ。主人公と思しき侍が、バッタバッタと敵を斬っていく。なるほど、この映画は時代劇なのか……。

いや、違う。その後、斬られた男がむっくりと起き上がり、大急ぎで次の準備をする。そしてまた斬られに行く。そうなのだ。彼はエキストラ俳優なのだ。

宮松というそのエキストラ俳優は、今度は居酒屋に行き焼き鳥とビールで一息つく。なるほど、仕事終わりの一杯だな。

と思ったら、いきなり銃声が響き宮松は撃たれる。だが、次の瞬間、彼はやおら立ち上がる。そう。これもまたエキストラの仕事だったのだ。

そんな宮松はケーブルカーの係員をしている。エキストラだけでは食べていけないからだ。

そして、宮松は自宅に帰れば里帆という女性と暮らしている。一見ラブラブな2人だが、どうも里帆には男がいるらしい。はたして、この先どんな修羅場が訪れるのか。

と思ったら、カットがかかった。これもまたまたエキストラの仕事だったのだ。現実だと思った彼の私生活もやっぱり虚構だった、というわけ。いったい何が虚構で、何が現実なのかさっぱりわからんぞなもし。

これこそ「5月」の3人の思う壺だろう。虚構と現実の境目をなくし、何が本当で何がウソかわからなくする。観客を混乱させて喜ぶなんてまったく人が悪い。でも、まあ、それによってミステリアスでスリリングなドラマが現出しているのは確かである。

こうして毎日数ページだけ渡される台本に沿って、まったく別の虚構の人生を演じてきた宮松だが、現実生活で衝撃的な出来事が起きる。記憶を失った彼の過去を知る人物が現れたのだ。そして妹の存在も……。

後半は、妹との再会を果たした宮松が描かれる。妹の藍は宮松を大歓迎するが、その視線は何やら意味深だ。単に兄を見るといった視線とは違う何かがそこにはある。また、妹の夫の健一郎も怪しい態度だ。こちらも義兄を歓迎しつつ、何やら奇妙な態度をとる。いったい過去に何があったのか。どうして宮松は記憶喪失になったのか。

というわけで、サスペンスフルな展開の後半なのだが、こちらは前半にあれだけ虚構を見せられているものだから、どうしても疑い深くなってしまう。もしかしたら、今目の前で展開しているドラマも虚構なのではあるまいか。そんな疑問が頭を離れないのである。それもまた「5月」の3人の思う壺なのだろう。

ラストは意外に普通の終わり方だった。でも、まさかこれもまた虚構じゃないよね?

キャラクターを掘り下げるわけでも、繊細な心理描写をしているわけでもないこの映画。それでもちゃんとした映画になっているのは、実力派俳優を起用しているからだろう。香川照之の演技の巧さは今さら語るまでもないが、今回は極端にセリフが少ない中での演技だけにその演技力が際立つ。特に終盤、タバコを吸いながら記憶を取り戻したらしいシーンでの演技は絶品。

中越典子も秀逸な演技を見せている。兄との微妙な関係を繊細な感情描写で表現。これまでも存在感のある演技を見せていたが、あらためて素晴らしい俳優だと実感した。津田寛治の危険な香りタップリの演技、野波麻帆の女優オーラ前回の演技なども印象的。

それにつけても、香川のセクハラ事件。おかげで彼が前面に出たPRも不可能となり、もともと地味なこの映画がなおさら地味になってしまった。なかなか刺激的な映画だっただけに、もったいない。ゆめゆめ、セクハラなどしてはいけませぬぞ!

◆「宮松と山下」(ROLELESS)
(2022年 日本)(上映時間1時間27分)
監督・脚本・編集:関友太郎、平瀬謙太朗、佐藤雅彦
出演:香川照之津田寛治尾美としのり中越典子野波麻帆大鶴義丹、尾上寛之、諏訪太朗黒田大輔
新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほかにて公開中
ホームページ https://bitters.co.jp/miyamatsu_yamashita/

 


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