映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ミセス・ハリス、パリへ行く」

「ミセス・ハリス、パリへ行く」
2022年12月1日(木)池袋HUMAXシネマズにて。午後3時30分より鑑賞(シネマ5/B-8)

~ロンドンの家政婦のおばちゃんがパリのファッション業界に殴り込み!?

 

ファッションにはまったく疎い私だが、クリスチャン・ディオールぐらいは知っているのだ。と言っても、単に名前を知っている程度の話なのだが。

そのクリスチャン・ディオールのドレスが、ストーリーの重要な要素になる映画が「ミセス・ハリス、パリへ行く」だ。ポール・ギャリコの同名小説を、ドキュメンタリーを中心に活躍して、長編劇映画はこれが3作目となるアンソニー・ファビアン監督が映画化した。

1957年のロンドン。夫を戦争で亡くした家政婦のミセス・ハリス(レスリー・マンヴィル)は、ある日勤め先の家で1着の美しいドレスと出会う。それは高価なクリスチャン ディオールのドレスだった。そのドレスにすっかり心奪われたミセス・ハリスは、絶対にディオールのドレスを買うと心に決める。どうにかお金を工面して、たった一人でパリへと向かいディオール本店を訪れるミセス・ハリス。しかし、上流階級やお金持ちしか相手にしないディオールのマネージャー(イザベル・ユペール)に追い出されそうになる。それでも、夢を諦めないミセス・ハリス。その姿が人々の心を動かしていく……。

いかにもイギリス映画らしい楽しく、ユーモアにあふれたコメディー映画だ。何しろロンドンの下町のおばちゃんが、パリのハイソなファッション業界に入り込むのである。その設定だけで楽しくなってくる。

映画の冒頭、ミセス・ハリスが帰国を待ち望んでいた夫が戦死したと判明する。だが、それを過剰にウェットに描くことはしない。ミセス・ハリスが新しい夢を抱く場面を生き生きと見せる。このバランス感覚が絶妙だ。

ミセス・ハリスの新しい夢とは、クリスチャン・ディオールのドレスを購入すること。彼女は勤め先の家でディオールのドレスを目撃したのだ。それがまた実に美しいドレス。ファッションに疎い私も、心を捉えられてしまった。

ちなみに衣装デザインを手がけているのは「クルエラ」などのジェニー・ビーバン。

ミセス・ハリスがそのドレスに憧れたのは、彼女の境遇も影響しているのではないだろうか。有能な家政婦として働いていたものの、周囲からは「透明人間」扱いで、しかも愛する夫を亡くしてしまった。彼女にとってディオールのドレスは、自分のアイデンティティーを取り戻す象徴だったのかもしれない。

ミセス・ハリスはドレスを買うため、必死でお金を貯めようとする。その過程ではドッグレースで全財産を失うというハラハラの展開もある。「オートクチュール」という名の犬を見て、「これは運命だ!」と全財産を賭けたのだ。そんなわけでお金集めには苦労するのだが、夫の年金が手に入るなどしてようやく目標額を達成する。

それからはパリでのミセス・ハリスが描かれる。おりしも、パリはストライキ中。そんな中、ディオール本店に乗り込んだミセス・ハリスだが、威圧的な支配人に追い出されかける。この支配人を演じているのが、ご存知、フランスの名女優イザベル・ユペール。主演のレスリー・マンヴィルとの英仏ベテラン名女優対決は迫力満点。これだけでも観る価値がある。

というわけで、窮地に追い詰められたミセス・ハリスだが、そこに救いの神が現れる。親切なシャサーニュ公爵が、彼女を自分の連れとして同行するように誘ったのだ。この侯爵は妻を亡くしていて、その後ミセス・ハリスと微妙な関係になったりする。このあたりのさじ加減もなかなかのものだ。

結局、ミセス・ハリスは若い会計士のアンドレやモデルのナターシャなどの協力もあって、ドレスを作ることになる。だが、まだまだ波乱の種はある。そのたびごとにミセス・ハリスは窮地を乗り越え、夢に向かって前進していくのだ。

終盤のドラマの背景には、ディオールの改革がある。あくまでもオートクチュールにこだわる支配人に対して、改革派のアンドレなどは広く一般に広めて、ビジネスとしてきちんと成立させたいと考えている。そこにミセス・ハリスが絡んでくるわけだ。

その間も、ミセス・ハリスがアンドレとナターシャの恋のキューピッドになるなど、サブストーリーの展開にも抜かりはない。

もちろん劇中には、目にも鮮やかなドレスが次々に登場する。ファッションに詳しい人なら、余計に楽しめるのではないだろうか。そういう点も含めて見どころは満載なのである。

対立していた支配人とミセス・ハリスだが、最後には和解が用意されている。このあたりも心憎いばかりの配慮だ。

そして、ラストには大きなサプライズが……。自分の情の厚さが逆に不幸を招いてしまったミセス・ハリスだが、最後にはその情の厚さゆえに多くの人が彼女を助けてくれる。絵に描いたようなハッピーエンドである。ラストシーンの軍人会でのミセス・ハリスのドレス姿が美しい。

まあ都合よすぎの展開が多いし、見方によってはお気楽とも思えるドラマだが、それはそれ。この手のドラマとして、実にウェルメイドな作品に仕上がっている。

何よりも、どんな困難にもめげず、前向きに、少女のように純真に、そしてユーモラスに突き進むミセス・ハリスから元気をもらえる映画だ。

◆「ミセス・ハリス、パリへ行く」(MRS. HARRIS GOES TO PARIS)
(2022年 イギリス)(上映時間1時間56分)
監督:アンソニー・ファビアン
出演:レスリー・マンヴィルイザベル・ユペールランベール・ウィルソン、アルバ・バチスタ、リュカ・ブラヴォー、エレン・トーマス、ローズ・ウイリアムズ、ジェイソン・アイザックス
*TOHOシネマズ シャンテほかにて公開中
ホームページ https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris

 


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