映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ラーゲリより愛を込めて」

ラーゲリより愛を込めて」
2022年12月12日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時20分より鑑賞(スクリーン7/F-10)

瀬々敬久監督がシベリア抑留の悲劇を真正面から描く

戦争は遠くなりにけり。とはいえ、海外に目を向ければロシアのウクライナ侵攻の例を引くまでもなく年中戦争をやっているわけで、日本でも何やら不穏な空気が流れ始めた。戦争の足音は確実に近づいているのかもしれない。それだけに反戦・非戦の声を上げ続けることは重要だろう。

というわけで、辺見じゅんのノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」を映画化した「ラーゲリより愛を込めて」。監督は「ヘヴンズ ストーリー」「64-ロクヨン-」「糸」「菊とギロチン」「護られなかった者たちへ」など、超売れっ子の瀬々敬久。けっこう昔に出た本なのに、「なぜに今映画化?」と思わないでもないが、そこに作り手たちの意図が隠されているのかもしれない。

第二次世界大戦終了直前、満州国ソ連軍が侵攻し、陸軍特務機関員の山本幡男(二宮和也)は混乱の中で家族とはぐれ、捕虜となってシベリアの収容所(ラーゲリ)に送られる。他の抑留者たちとともに零下40度にもなる過酷な環境の中、飢えと寒さと重労働に苦しみ、命を落とす者も続出する。それでも、山本は日本にいる妻(北川景子)や4人の子供との再会を信じ、懸命に生きていくのだが……。

冒頭は戦争末期の満州での結婚式シーン。エンディングは現代の日本での結婚式シーン。この間をつなぐドラマが展開する。もちろん、そのほとんどはシベリアの収容所での過酷な生活。山本は当初は、ロシア語に堪能だったことから通訳を任されるが、その真っ直ぐな気持ちが災いして、やがて手のひらを返したように冷たい仕打ちを受ける。

一度は帰国(ダモイ)の兆しも見えるが、帰国できると思って乗り込んだ列車から降ろされ、戦争犯罪人として刑を宣告される。そして再び収容所へ。そこでは、以前にも増して過酷な日々が待ち受けていた。それでも、山本は家族と日本で再会するという希望を失わず、常に前向きに暮らす。

そんな山本とともに、前半は他の捕虜たちのあれこれも描かれる。戦争で心に傷を負った松田、軍人時代の階級を振りかざす相沢、子犬のクロをかわいがる心優しい青年・新谷などだ。山本が彼らを励まし希望を抱かせるわけだが、さすがにこれだけの人物のあれこれを描くので駆け足気味なのは否めない。

それでも過酷な環境で行われたであろうロケの映像を通して、彼らが置かれた環境の壮絶さが伝わってくる。ぬくぬくとした客席にいながらも、どこかうすら寒い感覚を味わったのは、スクリーンの向こう側の凍てついた映像ゆえだろう。

瀬々監督といえば、手持ちカメラによる繊細な心理描写を得意とするが、今回は手持ちカメラはあまり登場しない。奇をてらった描写もなく、正攻法から被写体を捉える。あまりにも過酷な状況を、そのまま映すだけで十分に伝わるという考えだったのではないだろうか。その狙いは十分に成功している。

ただし、セリフに関しては、名言もどきのセリフがいくつも飛び出すものの、「全部セリフで説明するのかよ!」という思いが拭えなかった。もう少し余白を活かした脚本の方が、個人的には好きなのだが。脚本は「糸」でも瀬々監督とコンビを組んだ林民夫。

終盤は、山本が病に倒れる。だが、収容所側は専門病院に山本を診せることを拒む。捕虜たちはストライキでこれに抗する。その結果、重篤な病とわかった山本。周囲は彼に遺書を書かせるが、はたしてそれをどうやって日本に持ち帰るのか。

というあたりからは、感動の波状攻撃だ。このあたりの怒涛の展開は、いかにも瀬々監督らしい。病床に伏す山本。遺書を書く山本。彼を取り巻く仲間たち。そして日本で暮らす家族。それらが情緒たっぷりに描かれるが、けっして過剰にならないあたりで寸止めしている。北川景子の号泣も実に良いタイミングだ。ついでに、犬のクロも演技賞をあげたいぐらいの大活躍である。

同じような場面が続くその後の展開も、巧みに強弱をつけて描かれる。最後の最後まで、感動が続く。「8年越しの花嫁 奇跡の実話」のころにバッタリ会ったら、「自分の映画を女子高生が大挙して見に来るとは……」と苦笑していた瀬々監督だが、今や押しも押されもしない大監督だなぁ~、と実感した次第。

誤解しないで欲しいが、本作はあくまでも娯楽作品である。後半の感動の波状攻撃をはじめ、山本夫妻と家族の愛と別れのドラマがケレンたっぷりに描かれる。過酷な環境下で希望を失わず生き抜こうとした山本と、夫を信じて子供たちとともに懸命に生きる妻の姿が涙を誘い、見せ場は十分である。

その一方で、戦争の悲惨さ、愚かさが、押しつけがましくなく自然に伝わってくる映画でもある。しかも、それはどちらかに肩入れするようなものではない。収容所を管轄するのはロシア人だから、当然その蛮行は描かれるものの、戦時中の回想などで日本軍の蛮行や理不尽な態度も描いている。人類共通の問題として、戦争というものをあぶり出しているのである。

こうしてエンタメ性とメッセージ性を巧みに両立させたところが、本作の最大の見どころかもしれない。

俳優は、二宮和也をはじめ、北川景子松坂桃李中島健人桐谷健太安田顕らが、それぞれに個性的な演技を見せている。いずれも役に寄り添った印象的な演技だった。最後にチラッと出てくる寺尾聰は、30年前のこの原作をテレビドラマ化した時の主役だったらしい。

◆「ラーゲリより愛を込めて」
(2022年 日本)(上映時間2時間13分)
監督:瀬々敬久
出演:二宮和也北川景子松坂桃李中島健人寺尾聰桐谷健太安田顕、奥野瑛太金井勇太、中島歩、田辺桃子、佐久本宝、山時聡真、奥智哉、渡辺真起子、三浦誠己、山中崇朝加真由美、酒向芳、市毛良枝
*TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ http://lageri-movie.jp/

 


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