映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「子猫をお願い」

子猫をお願い」4Kリマスター版
2022年12月20日(火)ユーロスペースにて。午後2時20分より鑑賞(ユーロスペース1/E-8)

~5人の女性の友情物語。何年たっても色あせない青春映画の傑作!

私の大好きな韓国の女優ペ・ドゥナ。過去の出演作はできる限り観るようにしているが、見逃している作品も多い。青春映画の名作と言われる2001年の「子猫をお願い」は観ただろうか。劇場では観ていないが、配信で観たような気もする。しかし、記憶は曖昧だ。

そんな中、なんと約20年の時を経て、4Kリマスター版が製作されて公開になるというから、さっそく出かけてきた。

結論から言えば、これは紛いもなく青春映画の名作、いや傑作だ!

描かれているのはインチョンに住む高校時代の仲良し5人組の卒業後。

ヘジュ(イ・ヨウォン)はソウルの証券会社で働きながら、出世を夢見ている。だが、実際の仕事は雑用係。それでも忙しい毎日を送っている。

ジヨン(オク・チヨン)は芸術の才能があり、海外で勉強することを夢見ている。だが、父母はすでに亡く、祖父母とともに貧しい暮らしを送っている。しかも、失業して仕事がなかなか見つからない。

いつも明るい双子ピリュとオンジョ(イ・ウンジュ&イ・ウンシル)は、中国系の母親のもとで育ったが、祖父母と母との仲は険悪らしい。

一方、テヒ(ペ・ドゥナ)は、無給で家の仕事を手伝いながらフリーターをしていた。いつか広い世界に飛び出すことを願っていたが、今はボランティアで知り合った脳性麻痺を患った詩人を好きになり、彼の詩を口述筆記していた。

この5人は折あるごとに集まって、楽しくやっていた。だが、環境が変われば、徐々に5人の距離にも微妙な変化が見える。

ヘジュは華のOL生活を楽しんでいる。洋服を買うのが大好きだ。だが、無職のジヨンはそんなヘジュの行動が気に障ってしょうがない。2人は互いに反発するようになる。

テヒはそんな2人の中を何とか修復しようとする。だが、彼女もまた惑いの最中だ。口うるさく無理解な父親に不満タラタラなのだ。とはいえ、家を飛び出す勇気もまだ持てなかった。

チョン・ジェウン監督は、そんな5人の揺れる心をビビッドにスクリーンに刻む。20年前とはいえすでに携帯は普及しており、その文字をスクリーン上に巧みに投影させたりする。音楽の使い方もおしゃれだ。ソウルやインチョンの街並みも効果的に使われている。

タイトルにある「子猫」は、5人を結び付ける存在として登場する。最初ジヨンが子猫を拾いティティと名付ける。だが、祖父母が嫌ったこともあり、彼女は誕生プレゼントにヘジュにティティをあげる。ところが、ヘジュは世話が大変だと突き返す。このあたりから。両者の仲がギクシャクし始める。

5人に共通しているのは、将来への不安だらけだという点だ。それが5人の関係にも影を差す。高校時代のように、無邪気にはしゃいでばかりはいられないのである。

最近の韓国映画には、様々な社会問題が背景に織り込まれていることが多いが、20年前に製作された本作にもそれが見て取れる。一握りのキャリアを覗いて女性の社会進出はまだまだ難しく、ほとんどの人は雑用係をさせられてしまう現実。あるいは貧富の格差。学歴社会。家父長制の呪縛もある。それらは今も韓国社会のみならず、日本にも共通する課題だ。本作が今でも色あせないのは、そうしたことも影響しているのではないだろうか。

彼女たちは、そうした社会問題や世間の呪縛から逃れて自由になれるのか。不安を振り払って前に進んでいけるのだろうか。その象徴として、劇中に「ナイフ」が登場するという指摘を読んで、なるほどと思ったりもした。

終盤は大きな出来事が起こる。事故でジヨンの祖父母がなくなってしまうのだ。そして、それに絡んでジヨンは……。

それでも最後は明るい未来を感じさせる。ジヨンとテヒの旅立ちを描く。それは不安だらけで先の見通しの立たないものだ。だが、彼女たちは確実に自由への第一歩をつかんだのである。もちろん、ティティの落ち着き先はちゃ~ん考えての旅立ちだった。

この先も5人は、傷ついたり葛藤しながらも、前を向いて生きていく。そう感じさせるエンディングだった。

ちなみに、本作に出演した5人は、バリバリの第一線で活躍しているペ・ドゥナはじめ今も元気で活躍しているという。それもまた素敵なことだと思う。

それにしても、ペ・ドゥナは20年前からタバコ姿が似合っている。ヤサグレ感が半端ない。最近では三浦透子のタバコ姿も似合っていたが、まだまだ先輩には負けるわ。

あの時代、この役者、この監督だからできた映画という気がする。名作は色あせないというが、本作はまさにそういう映画。もう一度言う。青春の光と影を見事にスクリーンに刻んだ青春映画の傑作だ!

◆「子猫をお願い」(TAKE CARE OF MY CAT)
(2001年 韓国)(上映時間1時間52分)
監督・脚本:チョン・ジェウン
出演:ペ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・チヨン、イ・ウンシル、イ・ウンジュ
ユーロスペースほかにて公開中
ホームページ https://konekowoonegai4k.com/

 


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