映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「夜、鳥たちが啼く」

「夜、鳥たちが啼く」
2022年12月21日(水)新宿ピカデリーにて。午後1時15分より鑑賞(シアター10/E-8)

佐藤泰志原作。傷ついた男女の危うい恋愛

佐藤泰志芥川賞候補に5度ノミネートされながら、41歳で自殺してしまった作家。死後、その作品は高く評価されて、これまでに「海炭市叙景」(2010年)、「そこのみにて光輝く」(2014年)、「オーバー・フェンス」(2016年)、「きみの鳥はうたえる」(2018年)、「草の響き」(2021年)と、5本の映画が製作されている。ちなみに、私は「草の響き」以外はすべて鑑賞している。

そして、6本目の映画化となったのが、同名短編小説を映画化した「夜、鳥たちが啼く」である。監督は城定秀夫。脚本は「そこのみにて光輝く」の高田亮

しかしなぁ。城定監督の映画はエロいのが多いからなぁ(除く「アルプススタンドのはしの方」)。この間の「ビリーバーズ」なんて、よくもR15で収まったと思うほどエロかったもんなぁ。今回もR15でエロ必至。この年末にエロはちょっとなぁ(笑)。

などと思いつつ、映画館に足を運んだのだが、結果的にはエロ度はそれほど高くなかった。まあ、1カ所ある濡れ場はかなり濃密なものなので、R15は仕方のないところだろうが。

売れない小説家の慎一(山田裕貴)。若くして賞を取ったものの今は鳴かず飛ばず。昼間はコピー機の保守のアルバイトをしながら、夜は自身のみじめな姿を綴った小説を書いていた。

ある日、慎一のもとに、シングルマザーの裕子(松本まりか)が幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は一軒家を母子に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きする。こうして母子と慎一の奇妙な半同居生活が始まる。

簡単にいえば、傷ついた男女のピュアな恋愛物語である。佐藤泰志の原作モノとしては異色と言っていいほどのシンプルなドラマだ。

最初は慎一と裕子の関係はわからない。恋人とも呼べないし、かといって赤の他人でもない。いったいこの2人はどうなっているのだ???

とにもかくにも、母子と慎一は少しずつ交流を重ねる。何しろ冷蔵庫と風呂は母屋の一軒家にあるから、自然に接触せざるを得ないわけだ。それでも最初は互いに深入りしないように、距離を置いて交流を重ねる。

そんな現在進行形のドラマの合間に、回想が挟み込まれる。慎一はこの家で恋人と同棲していたが、彼のあまりの嫉妬深さから、恋人と勤務先の店長との関係を邪推し、さらには小説がうまくいかないこともあり、大暴走してしまうのである。そして2人は別れることになる。

一方、現在進行形のドラマでは、父親の不在を埋め合わせるかのようにアキラは慎一を慕うようになる。慎一もどこか寂しげなアキラのことを気遣うようになる。

その合間にさらに回想は続く。今度は裕子の過去が明らかになる。そして慎一との関係も。要するに、裕子は慎一のバイト先の先輩の奥さんだったのだ。しかし、ある事情によって彼女は夫と別れることになる。それがまた信じがたい事情なのだ。

うーむ、これって、佐藤泰志の原作通りなのだろうか。だとしたら、ずいぶん安直な展開だと思うのだが。原作を読んでないのでよくわからんが。

ちなみに、慎一のバイト先がライブハウスなのだが、そこで演奏しているのがなんとG.D.FLICKERS。懐かしいなぁ。でも、なぜこうなった?

まあ、そんなこんなで現在に至る2人なのだが、どちらも過去の心の傷に苦しめられている。その反動か、慎一は癇癪を爆発させたりするし、裕子に至っては子供を置いて夜な夜な男漁りをしているらしいのだ。「らしい」というのは、その場面がほとんど出てこないからなのだが。

そんな2人がお互いの傷をなめ合うように、少しずつ距離を縮め、ついに関係を持つ。「今日は他の人とはしていない」てな発言を裕子がするところは、妙になまめかしい。

それでもこれ以上関係を深めることに裕子はためらう。期待すると裏切られる。そうなるのが怖いのだ。一方の慎一も、過去と同じようなことを繰り返すのを恐れている。はたして、2人に未来はあるのだろうか。

城定監督は、そんな2人の揺れ動く心情を、得意の長回しの映像でリアルに映し出す。全編に漂うどこか不穏な空気感も、2人の関係性を象徴するようだ。タイトルにある幼稚園で飼っている鳥も不気味な感じがする。

だが、ラストは意外にも明るい。2人は問題を抱えつつも、とりあえず今の関係を続けながら、未来を探るつもりのようだ。単なる傷のなめ合いから、もう一つ先へと進むのかもしれない。アキラとともに3人で見る花火の鮮やかさが心をやわらげてくれる。

主演の山田裕貴は、これまであまり強い印象はなかったのだが、本作の慎一役の演技はとても良かった。過去の傷を抱えて、寡黙で、苛立ち、時にこらえきれずに爆発する。そんな姿をうまく表現していた。

一方の松本まりかは、エロすぎるだろう(笑)。城定監督の映画だから当然そうなるわけだが、「ビリーバーズ」の北村優衣に負けず劣らずエロい。もちろんエロいだけでなく、迷える裕子の心を繊細に表現する演技も絶品。あんな人が実際にいたら。絶対にヤバイ!

◆「夜、鳥たちが啼く」
(2022年 日本)(上映時間1時間55分)
監督:城定秀夫
出演:山田裕貴松本まりか、森優理斗、中村ゆりか、カトウシンスケ、藤田朋子宇野祥平吉田浩太、縄田カノン、加治将樹
新宿ピカデリーほかにて公開中
ホームページ https://yorutori-movie.com/


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