映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「フラッグ・デイ 父を想う日」

「フラッグ・デイ 父を想う日」
2022年12月28日(水)池袋HUMAXシネマズにて。午後1時25分より鑑賞(シネマ6/C-8)

~実の親子が演じる断ちがたき父娘の絆の不思議

俳優のショーン・ペンといえば、なかなかの才能の持ち主で、過去にも監督作品がある。その最新の監督作「フラッグ・デイ 父を想う日」は、監督に加えて自身も出演している。

本作は実話である。原作は、ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが2005年に発表した回顧録。脚本は「フォードvsフェラーリ」のジェズ・バターワース&ジョン=ヘンリー・バターワース。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。

フラッグ・デイとは6月14日のアメリ国旗制定記念日。その日に生まれた父を持つ娘のドラマである。

といってもこれが立派な父ではない。ロクデナシなのだ。「こんなめでたい日に生まれたんだから、俺は祝福されて当然だぜ」と、やたらプライドばかり高いウソつき野郎なのだ。そんな父でも断ちがたい父娘の絆があることを、愛憎まみえて描き出している。

1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ヴォーゲルショーン・ペン)が、裁判を前にして逃亡する。娘のジェニファー(ディラン・ペン)が捜査官からその顛末を聞かされる。彼女の表情をアップで捉えた映像が、その揺れ動く心をリアルに伝えている。だが、その偽札を手に取ってジェニファーはこう言うのだ。「美しい……」

「美しい……」じゃねえよ!犯罪者の父ちゃんが逃亡したんだぞ!!

だが、実はここに至るまでにこの親子には様々なドラマがあったのだ。そのドラマをたどるのが本作である。

1970年代。ヴォーゲル夫婦とジェニファー、弟ニックの4人は仲の良い家族だった。子供たちが幼い頃の父ジョンは、「平凡な日々を見違えるほど驚きの瞬間に変えてくれる」父親で、いつも家族を喜ばせようとしていた。その鮮烈な思い出が、8ミリフィルムなども使いつつ美しい映像で綴られる。光を効果的に使ったキラキラ輝く、そしてどこかノスタルジックな映像。これがこの後のドラマで大きな効果を果たす。

その後、実はジョンがとんでもない男であることが明らかになる。事業の失敗を家族に押し付けて逃亡し、言い訳ばかり並べるロクデナシなのだ。しかも、たちの悪いことに自分を美化するために平気でウソをつくのである。

だが、子供たちはそんなことを知る由もない。だって、子供の前では本当に良い父親の顔をするのだから。父に去られた母は借金苦に追われ、アルコールに溺れる。必然的に彼らはますます父の肩を持ち、一時は父のもとへ身を寄せる。

やがて1980年代になり、ジェニファーが高校生になると、彼女はドラッグに溺れる。母の再婚相手の存在など危険な兆候もあった。ジェニファーは自分を守ってくれない母に愛想をつかして、父ジョンのもとへ行く。

だが、そのころのジョンは相変わらずダメな生活を送っていた。それを見たジェニファーは、2人で再出発を図ろうとする。だが……。

父親に対する憧れがいつしか揺らぎだし、ある決定的な出来事によってジェニファーは父への反抗心を抱くようになる。そして、彼女は自立への道を模索する。それだけなら彼女の成長譚として十分に成立するのだが、そこに抜き差しならない父娘の絆というものが関わってくる。どんなに父を嫌いになろうとも、ジェニファーは完全には絆を断ち切れないのである。それを物語るのが冒頭の偽札を手にしたシーンだ。

実は父を見放して、ジェニファーがジャーナリストを目指すべく、大学に入ろうとする場面がある。そこで彼女は願書にウソを書く。それはもちろん父の存在を知られたくない一心からなのだが、父のジョンが虚勢を張って平気でウソをつく人であることを考えれば、何とも皮肉なことである。

心の中で見限ってはいても、その奥底ではまだ愛を感じている。どうなってもかまわないと思いつつ、それでも放っておけない。そんなジェニファーの微妙な心理の綾や、他人から見れば理解しにくいだろう家族の関係性をスクリーンに描き出して、見る者に問いかける。家族の絆とは何か、と。それが本作の肝なのだ。

1970年代以降の時代を象徴する楽曲など、音楽の使い方も巧みで、ドラマを大いに盛り上げている。

本作で父と娘を演じているショーン・ペンとディラン・ペンは、親子である。ディランはショーンと元妻の女優ロビン・ライト(当時は確かロビン・ライト・ペンと名乗っていた)の娘なのだ。オシドリ夫婦として知られた2人は、ある日突如として離婚して世間を驚かせた。当時、ディランはたぶん10代だろう。その時の彼女の気持ちや、実際の父と娘の関係性を何かと想像してしまう。

はたして、それはショーンが意図したものなのかどうかは知る由もないが、とにもかくにも、繊細なジェニファーの心理を表現して見せたディランは、今後が楽しみな女優である。

そして、ショーン・ペンは、良き父親とロクデナシという二面性を見事に演じ分けて見せている。特に、久しぶりに会ったジェニファーの前で無理してカッコをつける姿が切なくて、哀愁を漂わせている。

ついでにジェニファーの弟役は、同じくショーン・ペンロビン・ライトの実の息子であるホッパー・ジャック・ペンが務めている。こちらも出番はそんなに多くないが、存在感を見せている。

◆「フラッグ・デイ 父を想う日」(FLAG DAY)
(2021年 アメリカ)(上映時間1時間52分)
監督:ショーン・ペン
出演:ディラン・ペン、ショーン・ペンジョシュ・ブローリン、ノーバート・レオ・バッツ、デイル・ディッキー、エディ・マーサン、ベイリー・ノーブル、ホッパー・ジャック・ペン、キャサリン・ウィニック
*TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中
ホームページ https://flagday.jp/

 


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