映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「猫たちのアパートメント」

「猫たちのアパートメント」
2022年12月29日(木)ユーロスペースにて。午後2時15分より鑑賞(スクリーン2/C-9)

~猫たちをお引越しさせようとする住民たちの愛にあふれた活動

今年最後の更新です。1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

猫は可愛い。犬も可愛い。さてどっちを飼うか。と迷い続けて○十年。ペット禁止のアパートに住み続けているので、その夢はかないそうにない。

「猫たちのアパートメント」は文字通り猫の映画。舞台となるのは、かつてアジア最大と呼ばれたソウル市内・江東区のマンモス団地「遁村(トゥンチョン)団地」。老朽化によって再開発が決まり、少しずつ住民の引っ越しや取り壊し工事が進んでいた。

しかし団地には、なんと250匹もの猫が住み着いていた。猫たちは野良猫とも違う。飼い猫とも違う。団地の猫ママと呼ばれる住民たちが、エサをあげ、面倒を見てきたのだ。日本でいえば、地域猫といったところだろうか。

再開発によって猫たちはどうなるのか。そこで、団地に住むイラストレーターや作家、写真家などの女性たちが中心となって、猫たちを安全な場所へ移住させるための活動を始める。その名も「遁村団地猫の幸せ移住計画クラブ」(略称:トゥンチョン猫の会)。

その活動を2年半にわたって記録したドキュメンタリーが本作である。監督は、先日取り上げた青春映画の傑作「子猫をお願い」のチョン・ジェウン

映像は定点観測のような感じだ。団地以外はほとんど映らない。この手のドキュメンタリー映画によく見られる手持ちカメラの緊迫感ある映像もない。

まあ、それもそうでしょう。住民同士の多少の意見の食い違いなどはあるものの、それが激しく対立するようなことはない。行政と住民のバトルなどもない。悪徳政治家が出てくるようなこともない。緊迫感ある映像など必要ないのである。

その代わり映されるのは、住民たちの猫愛あふれる活動の様子だ。猫たちの顔を見分けるために写真を撮り、不妊対策や健康管理にも気を配りながら、エサの補給地を絞り込んで捕獲する。捕獲した猫は、里親に出すために自宅で慣らす。そうやって誰に頼まれたわけでもないのに、一生懸命に活動する。それも実にみんな楽しそうなのだ。猫への愛あればこその行動だろう。

それと同時に、団地の猫たちの生態が生き生きと描かれる。特に猫目線のローアングルで捉えた映像が絶品である。人間の思惑をよそに、自由気ままに振る舞う猫たち。彼らの姿を見ているだけで、猫好きならずとも幸せな気分になってくるではないか。主だった猫は名前と番号がテロップで表示されるから、なおさら感情移入してしまう。

ドキュメンタリー映画にありがちなメッセージ性は希薄である。そんな中でも、里親に託すために猫を飼い慣らすことが、当の猫たちにとって幸せなのかどうか、という問題が浮上する。

といっても、それを徹底的に追及するわけではない。詳しい説明があるわけではないのだが、どうやら猫たちは里親に預けたり、他の場所に移したりと様々な形でお引越しをするらしい。猫にも個性があるということだろうか。

終始穏やかな空気に包まれるドキュメンタリー映画である。猫たちも、猫を守ろうとする人間たちも温かく、のんびりとしている。

ただし、ラストには驚かされた。建物の取り壊された団地のあった場所の風景が上空から映されるのだが、その荒涼感に苦さを感じたのは私だけだろうか。いや、問題提起というほど辛辣ではない。ただその場所を映しただけである。それでも、緑に包まれた場所だったところが、荒涼たる大地に変わってしまったことに衝撃を受けた。

はたしてこの団地の跡地がどうなったのかは知らないが、おそらく今までとは一変した風景が出来上がったことだろう。にぎやかな商業地か、あるいは高級住宅地か。いずれにしても、のどかに人々が暮らしたあの団地は、もう存在しないのである。そこに何やら苦いものを感じてしまった私なのである。

というわけで、ラストは色々と考えさせられたものの、全体としては温かで穏やかなドキュメンタリーだった。特に猫好きなら見ても損はないと思う。

◆「猫たちのアパートメント」(CATS’APARTMENT)
(2022年 韓国)(上映時間1時間28分)
監督:チョン・ジェウン
出演:トゥンチョン団地に暮らす猫たち、キム・ポド、イ・インギュ
ユーロスペースほかにて公開中
ホームページ http://www.pan-dora.co.jp/catsapartment/

 


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