映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「エンパイア・オブ・ライト」

「エンパイア・オブ・ライト」
2023年2月23日(木・祝)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時40分より鑑賞(スクリーン5/F-13)

サム・メンデス監督の映画愛にあふれた映画。オリヴィア・コールマンの演技が光る

 

帯状疱疹は相変わらずです。何でも完治までに数か月かかる場合もあるそうで、だとすればまだ相当かかりそう。まったく笑っちゃうぜ。

皮膚科に行った帰りに、時間が余ったから「別れる決心」をもう1回鑑賞。エンタメとして文句なしに面白かった。笑いどころとシリアスのバランスが絶妙。ラストにかかる「霧」がいい味を出していますなぁ~。タン・ウェイは何度観ても美しい。

さて、今日取り上げるのはサム・メンデス監督の「エンパイア・オブ・ライト」。メンデス監督といえば、1999年の監督デビュー作「アメリカン・ビューティー」で早くもアカデミー作品賞と監督賞など5部門を受賞。この先どうなるのかと思ったら、「ロード・トゥ・パーディション」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」「007 スカイフォール」「007 スペクター」、そして全編ワンカットで第1次世界大戦を描いた「1917 命をかけた伝令」などなかなかの作品を送り出し続けている。

今回舞台となるのは1980年代初頭のイギリス。海辺の町マーゲイトで地元の人々に愛されている映画館・エンパイア劇場で働くヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、過去につらい経験をして心を病んでいた。そんなある日、夢を諦めた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が映画館で働き始める。職場の仲間たちの優しさに守られながら、次第に心を通わせ始める2人。前向きに生きるスティーヴンとの出会いに、ヒラリーは生きる希望を見出していくのだが……。

ドラマの中心は言うまでもなくヒラリーとスティーヴンの交流だ。ヒラリーは過去のつらい出来事によって心を病み(統合失調症らしい)、今も精神科医のカウンセリングに通っている。そして、職場ではセクハラ上司のドナルド(コリン・ファースの憎まれ役が最高!)と不倫関係にあった。いわばグダグダの毎日だったのである。

そこにやってきたのがスティーヴン。彼の出現によって、ヒラリーの毎日に光が差し彼女は少しずつ変化していく。

ヒラリー役のオリヴィア・コールマンの演技が圧巻だ。情緒不安定で振れ幅の大きい役を見事に演じ切っている。場面によっては舞台劇のような演技だ。「女王陛下のお気に入り」でアカデミー賞を受賞して以来、乗りに乗っている彼女。本作もコールマンの演技でなければ成立しなかっただろう。そのぐらい見事な演技だった。

相手役のマイケル・ウォードもコールマンを向こうに回して大健闘。この2人が実に良いコンビネーションを発揮している。

映像の美しさが際立つのもこの映画の特徴だ。「1917 命をかけた伝令」でもサム・メンデスとタッグを組んだロジャー・ディーキンスが、まるでアートのような映像を生み出している。冒頭の映画館の内部を捉えた様々なショットから、息を飲むほどの美しさ。特に光と闇の使い方が素晴らしい。この映像だけでも観る価値がある映画だと思う。

さらに、この映画は映画愛にあふれている。舞台が映画館ということもあり、1980年代の様々な作品のタイトルが登場。実際にいくつかの作品のフィルムも映し出される。トビー・ジョーンズ扮する映写技師が映画のマジックを語るシーンや、スティーヴンを映写室に連れて行くシーンなどは映画ファンなら感涙ものではないだろうか。

ドラマの一つのヤマ場は、名作「炎のランナー」のプレミア上映の場面だ。市長をはじめお歴々が出席して、華々しく執り行われるイベントの冒頭、支配人のドナルドに続いてヒラリーが勝手にステージに上がり、スピーチをする。それは彼女なりの反抗だったが、その代償は大きかった。

というわけで、その後も色々あるのだが、終盤には社会の荒波がエンパイア劇場に押し寄せる。当時のイギリスは、厳しい不況と社会不安に揺れていた。それが衝撃的な形でエンパイア劇場を襲い、ヒラリーやスティーヴンたちを苦しめる。

その後の展開については伏せるが、ラストの仕掛けが素晴らしい。ハル・アシュビー監督の「チャンス」を効果的に使った余韻の残るラストである。

観終わって感じたのは映画館の素晴らしさだ。エンパイア劇場は、精神に病を抱える人も、黒人もあらゆる人を受け入れる。特に支配人のドナルドが去った後は、まさに理想の映画館といった趣だ。その寛容さが、ともすれば不寛容になりがちな今の時代に新鮮に映る。劇中では人種差別も重要なテーマになっており、今の時代を強く意識した作品になっている。

そんな「今」に対する視座に加えて映画愛、映画館愛にもあふれた、サム・メンデス監督の思い入れが感じられる映画だ。観る価値は十分にある。

トレント・レズナーとアッカス・ロスによる音楽も、この映画の独特の雰囲気を高める効果を発揮している。

◆「エンパイア・オブ・ライト」(EMPIRE OF LIGHT)
(2022年 イギリス・アメリカ)(上映時間1時間55分)
監督・脚本・製作:サム・メンデス
出演:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、トム・ブルック、ターニャ・ムーディ、ハナ・オンスロウ、クリスタル・クラーク、トビー・ジョーンズコリン・ファース
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
ホームページ https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight

 


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