映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「少女は卒業しない」

「少女は卒業しない」
2023年3月1日(水)グランドシネマサンシャイン池袋にて。午後12時50分より鑑賞(シアター2/e-8)

~高校最後の2日間の少女たちの揺れる心が美しく切ない

 

 

今回取り上げるのは、直木賞作家・朝井リョウの連作短編小説を、これが商業長編映画デビューとなる中川駿監督が映画化した青春群像劇「少女は卒業しない」。中川監督は、「カランコエの花」という短編映画が高く評価されたとのこと。

舞台となるのは地方のある高校。そこは今年度で校舎の取り壊しが決まっている。その学校の生徒である4人の少女の揺れ動く心が描かれる。卒業式前日と当日の2日間だけのドラマだ。

その4人とは料理部の部長・山城まなみ(河合優実)、バスケ部の部長・後藤由貴(小野莉奈)、軽音部の部長・神田杏子(小宮山莉渚)、そしてクラスに馴染めず図書室が唯一の居場所だった作田詩織(中井友望)。

描かれるのは主に恋愛模様だ。まなみは、卒業式で答辞を読むことになっていたが、彼氏に対してどうしても伝えられない“想い”を抱えている。由貴は、東京に進学することになり、地元に残る彼氏との仲が険悪になりつつあった。杏子は、卒業ライブの出演順で頭を悩ませていたが、それには中学時代からの同級生で、今はへんてこなバンドのボーカルをしている森崎への特別な感情があるらしい。詩織は、図書室を管理する坂口先生(藤原季節)に秘かな想いを寄せている。

というように恋愛が中心ではあるものの、それにとどまらないものがある。恋愛を中心としつつも、卒業を目前にした彼女たちの切ない思いが描かれているのだ。卒業せずにこのまま高校生でいたい。しかし、そういうわけにはいかない。誰しもが経験する大人への入り口での複雑な感情が、余すところなく込められているのである。

卒業前日と当日の2日間に限定し、しかも校舎がもうすぐ取り壊されるという設定も、その切ない思いをさらにかき立てる。

最近のこの手の青春映画では誇張した描写が目について、はなから見る気がしないのだが、この映画に関してはそうしたところが感じられない。ナチュラルでごく自然な演出が目につく。普通の高校生の普通の会話が繰り広げられる。ウソ臭さがまったくない。それがこの映画の最大の魅力かもしれない。

4人の少女たちを中心に、その周辺の人々も描き込むということで、ともすれば窮屈な感じがしがちだが、そういうこともない。また、ほとんどの舞台は校舎だけだが、映像的にいろいろな工夫をして飽きさせることはない。中川監督の演出に加え、編集の仕方もなかなかうまいと感じた。

とまあ、途中までは比較的冷静な気持ちで観ていたのだが、中盤以降はだんだんと感情が抑えきれなくなってしまった。

何とか彼氏との関係を良くしようとする由貴、ある秘策で森崎の背中を押す杏子、坂口先生のアドバイスで同級生とコミュニケーションを交わそうとする詩織。それらの姿が生き生きと描き出される。

そんな中、まなみに関しては不思議なことがある。彼氏のために弁当を作ってきて一緒に食べるシーンがあるのだが、そこがどうにも不自然なのだ。実は、その後に衝撃的な事実が発覚する。

ドラマの終盤では思わず涙が浮かんでしまった。それほど感動的なシーンが目白押しなのだ。森崎が「ダニーボーイ」を歌うシーン、由貴と彼氏が屋上で花火をするシーン、そしてまなみが彼氏に対して答辞を読み上げるシーン……。これはまさに感動の波状攻撃。しかも押しつけがましくなく、ごく自然に描写されるからなおさら泣けてしまう。

平凡だけど特別な彼女たちの2日間。喜びも悲しみも3年間の様々な思い出を胸に、今新しい世界へ羽ばたこうとしている彼女たち。その姿が、はるか昔の自分の高校時代にリンクして、たまらない気持ちになってしまったのだ。

ちなみに私の高校は男子校だったので(今は共学らしいが)、この映画のような恋愛話はほとんどありませんでした(笑)。

4人の少女たちを演じた俳優は、みんな等身大で瑞々しい演技を披露していた。河合優実は「サマーフィルムにのって」「PLAN75」などでおなじみだが、「アルプススタンドのはしの方」の小野莉奈、「ヤクザと家族 The Family」の小宮山莉渚、「かそけきサンカヨウ」の中井友望も実に良い演技を見せている。それもこの映画の大きな魅力だ。

青春映画の秀作。青春映画好きならずとも観る価値のある映画だと思う。私のように、自分の高校生時代に思いをはせてしまう人も多いのではないだろうか。

◆「少女は卒業しない」
(2022年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:中川駿
出演:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節
*新宿シネマカリテほかにて公開中
ホームページ https://shoujo-sotsugyo.com/

 


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