映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「オマージュ」

「オマージュ」
2023年3月11日(日)新宿武蔵野館にて。午後3時15分より鑑賞(スクリーン2/B-3)

~受難の時代をしなやかに描き出し映画への愛を綴る

 

女性の置かれた環境は厳しい。特に映画界は長らく圧倒的な男世界だった。最近は女性の進出も目覚ましいが、それでも依然として男性優位の世界だ。

韓国の映画界でも、女性は長い間不遇の時代が続いていたようである。それを告発する映画が「オマージュ」だ。

主人公は中年の女性監督ジワン(イ・ジョンウン)。3作目の監督作が不入りで、新作を撮る目途が立たない。夫と大学生の息子と暮らすが、息子からは「母さんの映画はつまらない」と言われ、夫に「生活費を入れてくれ」と言ったら「自分で稼げ」と返される始末。おまけに何やら体調も悪い。そんなグダグダの毎日に不満を感じつつ、一方であきらめの感情もある。

そんなジワンはバイトとしてある映画の修復作業を引き受ける。それは60年代に活動した女性監督ホン・ジェウォンが残した「女判事」という作品。さっそく作業に取り掛かるが、やがて脚本にあった場面が不自然に抜けていることに気付く。気になったジワンは失われたシーンを求めて、関係者を訪ね歩くことになるが……。

かつての映画界で女性の置かれた環境の厳しさを指摘しつつ、それが今の時代にも影響を与えていることを示唆した映画だ。

特徴的なのは物語の全体が複層的な構造になっていること。「女判事」は韓国初の女性判事を描いた実話に基づくドラマ(その場面も何度か登場する)。それを監督したのは女性監督のホン・ジェウォン。その作品を現代の女性監督であるジワンが修復するのだ。おまけに、この「オマージュ」を監督したシン・スウォンも女性である。

こうした多重構造を通して、女性差別の深刻さが時代を超えて伝わってくる。

といっても、描き方はけっして堅苦しくない。テーマはシリアスだが、夫や息子をはじめ周囲の人々とジワンのユーモラスなやり取りを交えて、しなやかに描き出している。お説教臭さはまったくない。声高なメッセージも一切ない。だから、こちらも自然に受け止められる。

ミステリー的な要素も本作の魅力だ。いわば探偵役のジワンが様々な人々を訪ねて失われたフィルムを探す。そこでカギを握るのが、かつて映画の編集をしていた老女。彼女の存在が往時の韓国映画界の状況を偲ばせると同時に、その頃の女性の苦難を思わせる。ちなみに彼女は編集室に座りっぱなしだったことが災いして、今は足が悪いという。

そしてもう一人の重要人物が潰れかけた古びた映画館のスタッフ。これがまあ何とも不気味な男なのだが、「女判事」の封切館ということで、どこかにフィルムがあるのではないかと思いジワンがそれを探す。半分、迷惑がられながら、薄汚れた映写室をあちこち探すがなかなか見つからない。

本作にはホラー映画的な要素もある。ジワンのマンションで出た自殺者と、隣人を巡るエピソードだ。何やら隣室は奇妙な雰囲気。もしかしたら自殺者は隣人?

さらに、ファンタジー的な要素もある。「女判事」を監督したホン・ジェウォン監督が、シルエットとなってジワンの前に登場する。

失われたフィルムはやがて思わぬ形で発見される。それは想像もできない場所に存在していた。その意外性が面白い。ミステリー映画のような魅力がある。

なぜそのフィルムは失われたのか。その理由にも当時の時代性が色濃く反映されている。今では考えられない事実である。

失われたフィルム探しを通じて、ジワンは時代に翻弄されて消えていった映画人を思い、自分を見つめ直す。おそらく、彼女はこれからも諦めずに映画を作り続けようとするのではないだろうか。3作しか監督できなかったホン監督の無念を思いながら……。

主人公を演じたイ・ジョンウンは、「パラサイト 半地下の家族」の高台の豪邸の家政婦役などで知られる名バイプレイヤー。主演は今回が初めてということだが、中年のグタグダの女性監督をリアルに演じている。見事な演技だった。

夫役は、「あなたの顔の前に」などホン・サンス作品などでおなじみのクォン・ヘヒョ。息子役は「愛の不時着」のタン・ジュンサン。どちらも本作にコミカルな味わいを与えている。

かつての韓国映画界の女性の受難を描くと同時に、映画に魅せられた人たちや映画館への愛情を感じさせる映画だ。そう考えればタイトルの「オマージュ」がとても深い意味を持っているように思える。心に染みる珠玉の作品だ。

◆「オマージュ」(HOMMAGE)
(2021年 韓国)(上映時間1時間48分)
監督・脚本:シン・スウォン
出演:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン、イ・ジュシル
新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://hommage-movie.com/

 


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