映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「赦し」

「赦し」
2023年3月29日(水)ユーロスペースにて。午後12時45分より鑑賞(ユーロスペース2/D-9)

~被害者遺族は加害者を赦せるのか。重いテーマを投げかける法廷劇

 

「赦し」のポスタービジュアルは強烈だ。心がざわついてしまう。1人の女性がこちらを振り向いているだけなのだが……。

「赦し」はアンシュル・チョウハン監督の映画。と言っても外国映画ではない。チョウハン監督は日本在住のインド人。2011年に来日しアニメーターをしていたが、実写映画に興味を持ち長編映画を監督。今作は「東京不穏詩」「コントラ」に続く長編第3作となる。

殺人事件の加害者と被害者遺族の葛藤を描いた作品だ。同級生の樋口恵未を殺害した17歳の福田夏奈(松浦りょう)は、懲役20年の判決を受ける。7年後、恵未の父・克(尚玄)のもとに、裁判所からの通知が届く。夏奈に再審の機会が与えられたという。娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子(MEGUMI)とともに法廷に赴く。しかし、犯人への憎しみを抱き続ける克と、辛い過去に見切りをつけたい澄子の感情はすれ違っていく。

殺人事件の加害者と被害者遺族をめぐるドラマは過去にもたくさんあった。中でも瀬々敬久監督の4時間超に渡る力作「ヘヴンズ ストーリー」は印象深い。一大叙事詩と言ってもいい作品だった。

一方、本作は法廷劇が中心だ。懲役20年の判決を受けた加害者の夏奈が、再審を認められて法廷に立つ。事実関係に争いはなく、その量刑をめぐって検事と弁護士が対決する。そこでは、被害者の両親、克と澄子も証言をすることになる。

だが、この2人は今は離婚していた。娘を殺した夏奈を憎み続ける克は酒に溺れる自堕落な生活を送り、一方の澄子は辛い過去を捨てて前を向こうとして岡崎という男と再婚していた。もう二度と交わることがないと思っていた2人。それが今こうして法廷で出会うことになったのである。

その法廷シーンはスリリングでかなりの迫力だ。何しろ夏奈、克、澄子に加え、検事と弁護士、そして裁判長と役者が揃っている。ちなみに裁判長は、なんとあの真矢みきが演じている。これらの人々が入り乱れて、丁々発止のやりとりを展開するのだから面白くないはずがない。登場人物たちが抱く不安や迷い、痛みがリアルに伝わってくる。

とはいえ、当初は弁護士に指示されていることもあって、加害者の夏奈の証言は限られている。むしろその心情は、刑務所での弁護士との接見シーンからうかがえる。彼女は自らの犯罪を心から悔い、反省していると述べる。だが、胡散臭そうな弁護士の存在もあり、それが彼女の本心かどうかわからない。

それに対して、克は一貫してぶれることがない。本当なら娘を殺した夏奈に死んでほしいぐらいなのだが、少年法でそれは無理とあって、全力で彼女の釈放を阻止しようとする。

一方の澄子もその考えに異存はないのだが、すでに岡崎という新しい夫がいることもあり、彼女の態度は揺れに揺れる。最初は裁判にあまり関わりたくない気持ちが見え見えだ。しかし、次第に積極的に関与し始める。それでもその立場は何度もぐらつく。

夏奈、克、澄子、それぞれの視点でドラマは進む。その中で、夏奈は何度も悪夢にうなされる。それはどうやら彼女が事件を起こす前後の出来事らしい。

やがて法廷で夏奈の口から、彼女が殺人に至ったショッキングな動機が明かされる。それは彼女の量刑に大きく影響しそうな出来事だった……。

え? 今までの裁判でそのことがわからなかったの? 関係者の証言を集めれば、簡単に事実関係がわかったんじゃないの? 再審になってようやく明らかになるというのは、ちょっと不自然な感じがするのだが。

ついでに言えばこの映画、紋切り型のセリフがあちこちで目につく。脚本を書いたのは、ランド・コルターという人物。まさか外国語の脚本を日本語に訳したの? だとしても、もうちょっと何とかならなかったものか。

というような欠点はあるのだが、とにもかくにも終盤は緊迫の展開。澄子は裁判から身を引くのだが、克は怒りの感情に駆られてある行動を起こす。そのシーンは法廷シーン以上にスリリング。手に汗握る展開だ。

本作を通して、さまざまなテーマが浮かび上がってくる。加害者は罪を償えばそれで全ては赦されるのか。逆に一生赦されることはないのか。はたして加害者だけに罪があるのか。被害者だって罪を犯しているのではないか(だからといって殺される理由にはならないが)。そもそも何が正義で何が悪なのか。タイトルにある「赦し」は誰に向けられているのか。そういう重たい問いを投げかけている骨太な映画である。

俳優陣も好演している。尚玄は独特の風貌が被害者家族の苦悩の深さを体現している。「零落」の演技も記憶に新しいMEGUMIは、ここでも存在感ある演技を披露している。加害者役の松浦りょうの感情を表に出さない演技も見事だった。ちなみに冒頭で述べた心がざわつくポスタービジュアルは彼女の顔だ。

重たいテーマに真正面から切り込んだ作品だ。多少の欠点はあるものの、観る価値は十分にあると思う。ラストシーンで裁判所を出た克と澄子を俯瞰で捉えたショットが、しばらく頭から離れなかった。

◆「赦し」
(2022年 日本)(上映時間1時間38分)
監督:アンシュル・チョウハン
出演:尚玄MEGUMI、松浦りょう、生津徹、藤森慎吾、成海花音、清水拓藏、真矢ミキ
ユーロスペースほかにて公開中
ホームページ https://yurushi-movie.com/

 


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