映画貧乏日記

映画貧乏からの脱出は可能なのだろうか。おそらく無理であろう。ならばその日々を日記として綴るのみである。

「ヴィレッジ」

「ヴィレッジ」
2023年4月24日(月)ユナイテッド・シネマとしまえんにて。午後2時10分より鑑賞(スクリーン6/D-8)

~名プロデューサー河村光庸氏最後の作品は、日本の暗部に焦点を当てた娯楽作

映画製作会社スターサンズを率いる河村光庸氏が亡くなったのは2022年6月11日。その河村氏にとって最後のプロデュース作品となった映画が藤井道人監督の「ヴィレッジ」だ。

河村氏のプロデュース作品といえば、「あゝ、荒野」「愛しのアイリーン」「宮本から君へ」「MOTHER マザー」「ヤクザと家族 The Family」「パンケーキを毒見する」「空白」など、どれも現実の社会を見据えた刺激的な作品になっている。特に藤井監督と組んだ「新聞記者」は社会性と娯楽性を兼ね備えた日本では珍しい映画だった。

「ヴィレッジ」は文字通り、村の話である。オープニングは薪能の舞台が映し出される。能はこの映画の舞台である霞門村の伝統文化であり、地元の子供たちも幼い頃から習っていた。つまり、この映画の重要なバックボーンになっているのだ。

そんな霞門村は山間の小さな集落。美しい自然に恵まれた一方で、ゴミの最終処分場という巨大な施設に依存して村が成り立っていた。そのゴミ処理場にこの村で生まれ育った青年・片山優(横浜流星)がいた。彼はギャンブル狂の母親(西田尚美)が抱えた借金を返すために、ゴミ処分場で働くようになったのだが、なぜかいじめの標的になっていた。いったい何があったのか。

やがてその理由が明らかになる。かつてゴミ処分場を誘致する際に、村では激しい反対運動が起きた。それをめぐって優の父親は事件を起こし、自らも死んでしまったのだ。息子の優はその罪を肩代わりするようにして生きていたのである。

そんなある日、幼なじみの美咲(黒木華)が東京から村に戻ってくる。彼女はゴミ処理場のPRをする仕事につく。そこで美咲は優を何かと気遣い、彼を重要な任務に抜擢する。おかげで、優はそれまでの暗黒の日々が一変し人生に光が差す。だが、それを疎ましく思っていた村長の息子の透(一ノ瀬ワタル)がある行動に出たことから、ドラマは思わぬ方向に転がる……。

この映画は終始、重苦しい雰囲気に包まれている。暗い描写も多い。能面をつけた村人たちが行進するシーンなどはおどろおどろしいばかり。今も絶大な権力を持つという村長の母(木野花)が登場するに至っては、これから横溝正史ばりの怨念渦巻くドラマが展開されるのかと思ってしまった。

だが、これは河村光庸氏プロデュースの作品である。おどろおどろしいばかりではなく、そこには社会性が担保されている。霞門村やゴミ処理場は、差別や偏見、不正、暴力、搾取がはびこる現代の縮図のような場所。しかも、村長親子は陰で不法投棄ビジネスを行い、優たちにも加担させていた。ゴミ処理場の職員たちは訳ありの者が多く、早くここから出て行くことを願っていた。

まさしくこの村は日本全体を象徴している。ゴミ処理場を原発に置き換えてもいいだろう。誘致した当時は激しい反対運動があったが、今は同調圧力や忖度が幅を利かせている。少しでも異端の行動を取れば、裏切り者の汚名が着せられてしまう。いったいいつの時代なんだよ!と言いたくもなるが、これは日本中どこにでもある風景なのだ。

こうした構図を通して、日本の暗部に焦点を当て、「あなたはどう考えるのか」「これを許しておいていいのか」と激しく観客に問いを投げかけるのである。まるで刃を突き立てるように。

そんな社会性の一方で、娯楽性も担保しているのが河村氏プロデュースの作品の特徴だ。「夜間の不法投棄がいつバレるのか」というサスペンスを縦糸に、優や美咲、透らの激しくスリリングでおどろおどろしいドラマを展開している。

でも、まあ、透をはじめ乱暴者たちの描写はステレオタイプだよなぁ。杉本哲太のヤクザなんて、昔の映画やドラマの典型的なヤクザだもん。

さらに終盤の展開は強引かつ不自然。わかりやすいドラマにしたかったのかもしれないけど、ちょっとねぇ~。

とはいえ、そういうところも含めて社会性と娯楽性を同居させた河村氏のプロデュース作品らしい映画だと思う。藤井監督のオリジナル脚本だが、河村氏の精神を体現したドラマといえる。これだけ暗く重たい話を、最後まで力技で押し切った藤井監督の手腕もさすがだと思う。

主演の横浜流星は、前半と後半の一変した姿が印象的。ひげ面で暗い目をしていた前半、明るい表情でキラキラ瞳を輝かせていた後半。どちらもなかなかの演技だった。黒木華も安定の演技。この両者のコンビが本作の大きな魅力だろう。

河村氏亡きあとも、こうした社会性と娯楽性を同居させた映画が作られることを願ってやまない。映画は社会を映す鏡なのだから。

◆「ヴィレッジ」
(2023年 日本)(上映時間2時間)
監督・脚本:藤井道人
出演:横浜流星黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗淵上泰史戸田昌宏矢島健一杉本哲太西田尚美木野花中村獅童古田新太
*TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
ホームページ https://village-movie.jp/

 


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